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第四章 オカン、帝都に到着する

 帝都に到着したオカンと真輔。

 途中、立ち寄った町で一泊。皇女に似ている真輔がそのまま帝都に入ると騒ぎになりかねないので帽子を購入。また着ている服も目立つので服も買った。オカンは弩豹の毛皮のコートのままである。どうやら、気に入った様子。

 帝都に到着したオカン一行。帝都は高く頑丈な壁に囲まれ、外敵から民を護っていることが窺い知れた。

 東西南北に門があり、検問で危険が無いと判断されれば帝都に入ることができる。

 騎士団と一緒だったのでオカンと真輔は検問なしで帝都へ入ることを許可された。

 帽子を目深に被り、真輔は顔を隠す。

 馬小屋に馬を入れた後、バーナードの案内で城へ。

 ラティストアン帝国の中心だけあり、帝都は華やいでいた。豪華であっても成金趣味さは感じさせない街並み。

 バーナードとすれ違う度、誰も彼もが作業の手を止めてまで挨拶を交わす。どれだけ、バーナードが慕われていることが解る。

 弩豹の毛皮のコートを着たオカンが気になるのか、チラチラ見る人はいることはいるがオカンは気にしない。気にしていたら、普段から町は歩けない。

「映画みたいな街やな」

「感想が映画なんだ」

 海外旅行に行ったことは無いオカンにとって中世風の街並みのイメージと言えば映画らしい。

 城は遠くからでも見える大きさだが、真ん前に来るとさらに大きさが実感できる。

 見上げるオカンと真輔。

「USJのハリーポッターの城かいな」

「どちらかと言えば、東京ディズニーランドのシンデレラ城でしょ」

「そんなん、行ったことないから解らんわい」

 異世界の人には解らない会話する親子に、

「どうぞ、中へ。皇帝陛下と皇女殿下が待っております」

 城へ入るように促す。オカンと真輔のことは魔法通信で伝えており、帝都に到着したことは騎士団によって伝えられている。


 城の中は童話で出てくる城そのもの。親子は甲冑を纏った騎士たちが左右を護る赤い絨毯の上を進む。

「えらい踏み心地のええ絨毯やな」

 気軽に庶民が買えない品なのは確実。

 皇帝の間に入るなり、

「お待ちしておりました、勇者様。私がラティストアン帝国皇帝のジョセフ・ラティストアンです」

 玉座に座っていた皇帝が立ち上がり、名乗った。

「私は皇女のシンシア・ラティストアンてす」

 隣にいた皇女が続く。それだけ、オカンと真輔がラティストアン帝国にとって大切な人物なのである。

「ウチはオカンや」

「僕は西原真輔です」

 名乗った真輔は帽子を取った。

 小さかったが、皇帝は声を漏らす。

「魔法通信で聞いてはおったが、本当にシンシアに似ておる」

 シンシアも顔には出していないが驚いていた。

 貴族や騎士たちも似ていると思っていても、皇帝と皇女を前では口には出せない。

「ウチの息子に、よう似て別嬪さんやな」

 オカンの空気の読めない発言。ざわつきそうになるが、皇帝が一睨みで黙らせる。

 そんな中、一歩前に進み出たシンシアはオカンと真輔に、深々と頭を下げた。

 この行動には皇帝の間にいたバーナードや貴族や騎士たちが驚きを示す。

「私たちの都合のためにあなたたちを無理やり、この世界に召喚したことを謝罪いたします」

 形式ではない、心からの謝罪であることは火を見るよりも明らか。

「ですが、私たちにはあなたたちの力が必要なのです。このままでは人間の世界が魔王軍に支配されるのは時間の問題」

 魔王軍に支配されてしまえば人間は粛清されるか奴隷にされてしまう、最悪食料にされる可能性だってある。魔王軍に支配されれば人間には絶望しかない。

「気にせんでええ、ウチら浪速もんは助けを求める人を見捨てることはせえへんねん。ウチに任せとき」

 即決で決断。

「少しは考えて行動しなよ」

 と口で言いながら、真輔も助けを求める人を見捨てることは出来ない質。やはり、親子である。

「ありがとうございます、勇者様。この御恩は必ず」

 再び頭を下げるシンシア。皇帝のジョセフも頭を下げた。バーナードも頭を下げ、貴族たちと騎士たちが続く。


 日没後、城ではオカンと真輔を歓迎する食事会が行われた。

 既に城の者たちには真輔のことは知らされているので、皇女殿下のそっくりさんと受け入れられている。

 白いクロスの掛けられたテーブルに並ぶ、豪華絢爛な料理の数々。立食パーティー形式。皇帝のジョセフも皇女のシンシアも一緒に食事を楽しむ。

「えらい、ご馳走やな」

「うん」

 ちゃんといただきますを言ってから、小皿に料理を取って食べる親子。

「お箸は無いんか、不便やな」

 不便と言いつつ、スプーンもフォークもナイフもちゃんと使える。でも、一番使いやすいのは箸。

 楽しそうに料理を食べる貴族たちも皇帝と皇女には遠慮しているが、オカンは遠慮しない。オカンは遠慮とは無縁の存在。

 貴族たちが料理を楽しむ中、一人の男が部屋に入ってきた。コック帽にコックコート、男が料理人であることは一目瞭然。

 オカンの前に来ると、

「私は料理長を任されているニックという者です。勇者様、料理はいかがでしょう」

 丁寧な挨拶後の質問。

「ウチは勇者なんて大そうなもんやあらへん、オカンやがな」

 口の中のものを飲み込んでからの返答。

「料理は美味(うま)いんやけど、お好み焼きやたこ焼きがあったらええんやけどな」

「お好み焼きとたこ焼きですか? どのような料理なので」

 料理人だけあり、未知の料理には興味津々。

「お好み焼きと言うのは薄力粉に出汁と卵とを入れてな、ほんでキャベツの千切りを混ぜてこうしてああして。たこ焼きは小麦粉と出汁と卵とタコを混ぜ、そんで天かすと紅ショウガを入れてなこうしてああして」

 手振り身振り交じりのオカンの説明をニックは真剣に聞いている。

「タコとは、あのようなグロテスクなものが食べれるのですか」

「いっぺん食ってみ、美味(うま)いで」

「そうなんですか」

 二人のやり取りを見ている真輔。

「あの様子、本当に教えるつもりなんだな。まぁ、僕もお好み焼きとたこ焼きを食べたいけど」


 夕食後は帝都でも一番の宿屋の一室に宿泊することに。

 部屋に用意してあった寝巻に着替えるなり、ベットに大の字になるオカン。

「ええ心地のベットやないか、まるで雲の上や」

 真輔も触れてみたら、確かに心地いい感触。かなりの高級品、帝都でも一番の宿屋だけはある。 ベットに腰を掛け、改めて真輔は状況を整理。

 勇者としてオカンが異世界に召喚され、それに自分は巻き込まれた。この世界は魔王軍の侵略に苦しめられている。

 真輔自身もオカンと同じく、困っている人は見逃せない質。何とかしてやりたいとは思うのが本音だが、自分に何が出来るのだろうか? 魔王軍を倒せば日本に帰れるのだろうか? 考えても答えが出てこず。

 どうしたものかとオカンを見れば、もう高いびきを立てている。

 正直、オカンの気楽さが羨ましいと思う真輔であった。







 皇帝と皇女に謁見しました。

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