第二章 オカン、林間にて
ラティストアン帝国へ向かう最中の出来事。
林間の道を馬に乗って進む騎士団。馬に乗ったことのないオカンと真輔は、それどれバーナードと部下の騎士の後ろに乗せてもらっている。
おしとやかの欠片も無い乗り方のオカン、むしろ真輔の方がおしとやかと言えるかも。
ゴブリンはナンピヘ村に残り、村の護衛や狩猟と農業を手伝いをすることに。ゴブリンが人と協力関係になるのは前代未聞の出来事、オカンが成し遂げた成果。これもオカンの人徳なのか――な?
静かな林間の道、聞こえてくるのは小鳥のさえずりと馬の蹄の音。代わり映えしない景色が続く。
大きな欠伸をするオカン。代わり映えしない景色と馬に揺られる心地よさで眠たそう。あのまま眠ったら馬から落ちやしないかと心配する真輔。
寝ちゃだめだよと言おうとした時、先頭を行くバーナードは馬を止めた。他の騎士たちも馬を止めた。
いきなり止まったことでオカンの眠気が飛ぶ。
「あんちゃん、便所かいな」
バーナードは静かにするように示してから降り、オカンも下ろしてあげる。バーナードは騎士であり、オカンは一応女性なのだ。
真輔も下ろしてもらう。
次々に武器と盾を構える騎士たちに、真輔は嫌な予感がした。
「?」
いまいち、オカンは状況を理解していなかったが、森からトカゲの大群が飛び出してきたのを見れば嫌でも理解することになる。
トカゲと言っても大型犬ほどの大きさ、オレンジ色の舌をチョロチョロ出して襲い掛かて来た。
「沼トカゲの群れだ! 総員、一匹残らず駆逐せよ」
バーナード筆頭に騎士団は恐れることなく、大型トカゲ、沼トカゲの群れに向かっていく。
帝国の防衛を任されるだけあり、騎士団は大型トカゲの突進や牙や爪の攻撃を盾で受け止めながら、剣で攻撃。
「ほんま、でかいトカゲかやな」
か弱い女性なら悲鳴を上げてもおかしくない姿の沼トカゲでも、オカンは平気で警戒心は0。
「近づかないでください、沼トカゲは毒を持っているんです。噛まれたら命の保証はできません。我々は鎧を着ているので大丈夫ですが」
オカンと真輔は鎧を着ていない、噛まれたら一大事。無意識に真輔は後ずさったが、オカンは恐れやしない。毒があろうがなかろうが、ただのでかいトカゲなのだ。
訓練された連携攻撃に沼トカゲとの数の差などものともせず、僅かな時間で駆逐した。
「何でこんなところに沼トカゲが……」
疑問を口にするバーナード。沼トカゲは、その名の通りに沼地に生息しているモンスター、それも毒沼に。沼トカゲは毒沼の毒を吸収して体内に蓄えることで毒を持つ。
本来、沼トカゲは林間部に出てくることは無い、普通ならば……。
「……」
バーナードは周囲の気配を探る。普通じゃないことが起こったならば、そこになにかしらの原因がある。
木々の茂みの奥でバーナードの視線が止まった。
「そこに隠れている奴、出てこい」
茂みの奥から、黒いローブ姿の男が現れる。中肉中背ながら、肌の色は緑色で異様に細長い顔に長い腕。人間でないのは明白。
「魔王軍の生き残りだな」
返答はなかったが、不気味な笑みが図星であることを示していた。
生き残りが甲高い叫び声を上げるなり、空間から沼トカゲの群れが飛び出してくる。
「召喚術か!」
すぐに剣と盾を駆使し、バーナードは沼トカゲと戦う。騎士団も続く。
召喚術、これが林間にいるはずの無い沼トカゲが現れた答え。
生き残りの両手が鎌に変形、オカンに襲い掛かった。オカンさえいなければ魔王軍は全滅することなく、ナンピヘ村は制圧できたはず、クロゴネンドやドドラームのように。
魔王軍全滅の憎しみを果たすために待ち伏せしていた。それが解っていても騎士団は沼トカゲの群れとの戦っているため、助けに行けない。
生き残りが両手の鎌を振りかざし、今にもオカンに振り下ろそうとした瞬間、
「あほんだらがぁ!」
強力なチョップ、オカン岩山両斬波が生き残りの脳天に炸裂した。オカンのチョップは頭蓋骨があるのかと疑いたくなるほどの勢いで生き残りの顔にめり込む。
騎士団は沼トカゲの群れを倒し終えた。バーナードはオカンに剣を鞘に納めながら大丈夫ですかと話しかけようとして止めた、どこからどう見ても大丈夫この上ない。
バーナードは倒れている生き残りに目を向ける。もう動くことは無いだろう。
見るからに生き残りは魔王軍の中でも幹部クラス、弱いはずはない。にもかかわらず、一撃で倒してしまうなんて。
「これが転移時に与えられた勇者の力か……」
この力なら、十分に魔王軍に対抗できる。そうバーナードは思っていたところ、
「転移も何も、元からオカンはあんなんだったよ」
酔って暴れていた相撲取りを張りて一発でノックアウトしたこともある。
「えっ、元からあんなのだったのですか」
「うん、そうだよ」
オカンの力は転移時に与えられたものではなく、はなっからああだったのか……。
『姫様はとんでもないものを呼び寄せてしまったのかもしれない』
敵でなく良かったと、つくづく実感するバーナード。
オカンは転移前から強い、だってオカンだもの。