第二十八章 オカン、図太い神経
事件の後……。
「……そうか」
バーナードから、報告を聞いた皇帝のジョセフは静かに短く呟いた。
皇帝の間にはいつも通りのジョセフ、シンシア、バーナード、貴族たちの代表者たち、真輔、それに現場にいたので呼ばれたオカンは早くも退屈そうにしていた。皇帝の前で途轍もなく図太い神経の持ち主である。
勝手に召喚したこと、クロゴネンドとドドラーム奪還、これまでの活躍もあり、負い目と感謝が相まって文句を言う人はおらず。まぁ、言ったところでオカンに無効果だけど。
退屈そうにしてはいないが、オカンの息子である真輔の神経も図太い。図太いからこそ、オカンと平気で家族でいられる。
「魔王軍の侵攻の時も今回もオカンたちのおかげで難を逃れました」
貴族たちの代表者の一人が言った。
オカンと真輔には悪いが、帝国にとって勇者召喚は正しかったと判断せざる得ない。
「チャドの奴め……」
思わず貴族たちの代表者の一人が言葉を漏らす。
もし塔が破壊されていたら結界が消え、一気に魔王軍に侵攻されて帝都がとんでもない程の危機的状態になってたであろう。
集まった貴族の代表者たちはチャドが許せない気持ちは今も渦巻いている。それだけのことをやらかしたのだから、仕方がないことではあるが。
「自業自得とは言え、チャドは魔族に利用されたのだな」
裏切り者に対する許せなさよりも憐れみを感じさせる皇帝のお言葉。
裏切り者とは言え、一度は大臣を務めた人物。帝国の民ではあったのだ。皇帝は許せないだけの感情だけで見てはならない。
皇帝の複雑な思いを受け取ったバーナードや貴族の代表者たちは反対意見はせず。
「血縁者たちにとばっちりが行かないようにしなくてはなりませんわね。罪を犯したのはチャドであって血縁者には関係ありません。誤った憎しみは新たな憎しみを生み出してしまいます。憎しみの連鎖は起こしてはならない」
「はい」
シンシアにバーナードは頷く。シンシアとバーナードだけではない、皇帝の間にいる全員が同意。
場合によってはチャドの血縁者たちは帝都とからの引っ越し、戸籍の変更も検討に入れなくてはならないかも。
「今回は直接ではなく、搦め手で来たんですね」
「ああ、そのようだな」
真輔に了承を示すジョセフ。これまでは力技で攻めて来た魔族だったのに、今回はチャドを唆してオカンを狙わせた。チャドが失敗すると今度は影の中に入り込むことで帝都に張られた結界を突破して潜入、塔の破壊を狙った。
毒殺と塔破壊、二重の計略。こういう手も使う程に魔族はオカンを警戒しているということ。
今回は何とかなったが、次は何とかなるとは限らない。一度の失敗で諦めたりはしない連中なのだ、魔族は。
「この先、魔王軍との戦いは本格的に激しくなるだろう。ならば、他国との協力も必要になってくる」
ジョセフの顔に辛辣さが生じる。
「関係強化のためには例の話を進めばならんな……」
ジョセフの辛辣さはシンシアとバーナードの顔にも生じていた。
「……」
鈍そうに見えてもオカンの勘の鋭い、特に色恋沙汰に対しては。真輔も気が付いていた。見た目はどうであれ、二人は親子なのだ。
チャドの葬儀が行われた。裏切り者とは言え、弔ってやるべきとのジョセフの判断。
しかし、葬儀に参加した者は誰もいない。家族も親類も参加を拒否した。仲の良かった貴族は逮捕されている。
神官が一人でチャドを弔う。家族や親類たちから同じ墓に埋葬することを拒否されたので共同墓地の端に埋葬されることに。
ジョセフとシンシアがチャドのやったことと血縁者は関係ないと正式に言ってくれたことで迫害する人はいないが、それでも白い目で見る人を完全に無くすまでには時間がかかるであろう。
オカンの勘は鋭い。




