第二十六章 オカン、逆恨みされる
元大臣のチャドは何処へ。
チャドは帝都にいた。騎士団が帝都中を見張っているのでとてもではないが、帝都から逃げ出すことは出来ない。潜入時に通った密輸に使われていた通路も封鎖されていて使うことは出来ない。
協力してくれていた三人の貴族も逮捕されてしまった。
何とかして、帝都から逃げ出せたとしてもチャドの手配はラティストアン帝国全土に及んでいる。
これでは八方塞がり状態。
今、チャドが居るのは昼間でも碌に日が届かない、帝都の外れも外れの場所。
碌に日も差さないから、じめじめしていて臭くて気持ち悪い。貴族たちどころか誰もが立ち寄りたがらない場所にしか、チャドの居場所はない。
「大臣まで上り詰めた儂が、何故、こんな場所に隠れることにならなくてはならないのだ」
己が働いた裏切り行為がこの状況に陥った原因なのに、少したりとも気付いてはいない。堕ちるべくして堕ちたを体現中。
「家族も親類も匿ってくれるように頼みに行ったら、通報しようとしやがった!」
慌てて逃げたので捕まらなかったが。
家族も親類も巻き添えを恐れて助けてはくれず。最も魔王軍が侵攻してきた時に、一人で逃げ出したチャドをリスクを背負ってまで助けるはずがないのに、これも本人に自覚無し。
チャドが裏切ったことで、家族も親類は周囲からどんな目で見られたことか。おまけに賞金までかかっているのだから、通報するのも当然のこと。
いつまでたっても騎士団は捜査の手を緩めない。いずれはこの場所まで捜査の手は来る。チャドが捕まるのもも時間の問題。
掴まれだ処刑は免れない。
苛立ち、怒り、恨み辛み、焦燥感が込み上げてくる。
「全てあのオカンが現れたからだ。全部、オカンが悪いのだ」
この期に及んで責任転嫁。反省のはの字も頭の中にはない、悪いことをしたとは全く思っていない。
「……どうかなされましたか」
いきなり、背後から声をかけられて騎士に見つかったのかと、驚いて振り返った先にいたのは騎士団ではなく、あの仮面を被ったフードの男。
いつのまにか、背後にフードの男が立っていた。フードの男はチャドの影の上に立っている。
「そんな、馬鹿な!」
帝都には結界が張っているので、魔族には入れないはず。なのに今、目の前に魔族がいるではないか。
狼狽えるチャドの口をフードの男の手が掴む。
「もう少し、あなたには動いてもらいますよ、使い捨ての道具として」
チャドは“何か”を飲み込まされた。
蹲るチャド、何を飲ませたと問う余裕さえない苦痛。体が内側から“何か”に浸食されていく。
「私は道具は使いつくす主義なんですよ。どんなに使えない道具でも」
やがてチャドの意識は消えた。
魔族が入れないはずの帝都の街、そのど真ん中で怪物が暴れ回っている。
異様に長くなった首と手足、長く鋭く伸びた爪はまるで針。胴体だけは元のサイズままなのが不気味。
逃げ出す民は怪物の顔に見覚えがあった。目が血走り、歯はむき出し、理性の欠片も感じられないが、それでも面影は残っている、帝都に魔王軍が侵攻してきた時、一人で逃げ出したあのチャドの。
避難する民と入れ替わるようにバーナード率いる騎士団が駆けつけてきた。
相手が誰だろうが戦う。貴族以外を見下すチャドが憎いからではない、帝都の民を護るために。
剣を抜き、バーナードと騎士たちは“チャドだったもの”と戦う。
“チャドだったもの”は並のモンスターよりは強い。鞭のようにしなる手は道路の敷石を叩き割る。針のような爪は石壁に突き刺さった。スピードもパワーも並のモンスターとは桁違い。
一般的な的な騎士なら勝てないレベル。しかし、バーナード率いる騎士団はオカンの特訓を乗り越え、戦力差十倍の魔王軍を打ち破ったのだ。
オカンの特訓と戦力差十倍の魔王軍と戦った経験で大幅にレベルアップしたバーナード率いる騎士団。
積み重ねた経験を活かし、“チャドだったもの”の攻撃を躱し、もしくは防御。そして的確に攻撃をぶち込んでいく。
気持ちのいい程の連携に“チャドだったもの”のダメージを受けず、一方的にダメージを与えていった。
魔王軍二万人の魔族に対し、“チャドだったもの”は一人なのだ。防御力も高く回復能力はあるが、防御力と回復能力を上回る攻撃を与え続けていく。
騎士の一人が止めの一撃を入れる。
呻き声の一つも上げることなく、不気味に変貌した体を揺らし、“チャドだったもの”は倒れた。
今回も主人公なのに、オカンは名前しか出てこず。




