第二十一章 オカン、祭りを楽しむ 真輔、頑張る
帝都でお祭り開始。
祭り当日がやってきた。帝都の街道には数多くの屋台が立ち並ぶ。
「お好み焼き、良かったら食べていってください」
屋台でお好み焼きを売っているのはニック。帝都ではお好み焼きが評判になっていたこともあり、既に列が出来ている。
「美味しい美味しい、焼きとうもろこしだよ~」
しょうゆが無くて代わりに塩で味付けされた焼きとうもろこしを売っているニックの助手。茹でたとうもろこしが食べたことがあっても、焼きとうもろこしは未経験。物珍しさに美味しさもあってここも列ができ始めていた。
りんご飴とベビーカステラの屋台に並んでいるのは子供が中心、とても人気ある。
他にもたこ焼きにイカ焼きに焼きそばなど、オカンの提案した料理をニックの助手たちがひっきりなしに来る客に対応しながらも手を抜かずに調理していた。
100%日本の料理と同じ味とは言えないが、それでも美味しい料理で評判よし。
この世界の料理を出す屋台もあれば、この日のために開発された料理を出す屋台もある。
食べ物以外にもオカンのアイデアで作られた屋台、輪投げに弓を使った射的に的当てに三角くじに紐くじなど。子供向けの景品の以外にも、商人たちが大人向けの高価な商品を大盤振る舞いしてくれた。
武器や防具やアクセサリーを売る店は祭りに合わせてセールを開始。
どの世界でも祭りは人々のテンションを上げる効果がある。帝都の民にしてみれば十倍の魔王軍を撃破した喜びがさらにテンションを上昇させた。
のっしのっしと、屋台が立ち並ぶ路を一人で闊歩しているオカン。
「オカンさん~」
声がかけられた。振り向くとそこにはキョウヘン村の村長と弩豹から助けた娘が立っていた。
「えっーと、名前、何やったけ?」
思い出せそうで思い出せない。
「ベティですよ、忘れるなんて悲しです」
「あつ、そうやった。今、思い出したわ」
思い出したことには違いは無い。
「あの時はベティを助けてくださってありがとうございました」
再度、お礼を述べる。
あの時、倒した弩豹の毛皮は今もちゃんと着ている。
「ところで真輔さんは?」
ベティがオカンの隣を見ても、真輔の姿がない。見た目はどうであれ、仲のいい親子なのに。
「真輔やったら、別のところで頑張っとる」
「そうなんですね」
納得しつつも少し寂しそうなベティ。真輔さんにも会いたかったなとは口には出さない空気が読める娘。
さり気なく、村長は気配りの出来た娘の頭を撫ぜた。
「祭り、楽しんで行ってや。ウチが考えた屋台もあるんやで」
ドヤ顔だが威張ってはおらず。
「ハイ、今日は楽しませてもらいます」
「そのために来たんだよ」
村長とベティが一礼してから、屋台の方へ向かう。
にこやか顔で手を振って見送るオカン。
祭りにはラティストアン帝国中から人が集まってきていた、遠方の人は泊りがけで。
本日の帝都はとてもにぎやか。
生演奏で流れる祭囃子。広場で始まったのはダンスと言うよりも踊り。盆踊り、盆ではないが盆踊り。
これもオカンのアイデアで行われたイベント。
オカンも貴族も市民も身分など関係なく、披露しているのは河内音頭。誰が教え込んだのかは言うまでも無し。
オカンの河内音頭は上手い。教えられた人たちもオカンほどではないが上手い。
河内音頭以外にもラティストアン帝国ならではのダンスも行われる。
楽しい時間が過ぎて行く。
シンシアはフードで顔を隠し、バーナードと一緒に屋台の立ち並ぶ街道を歩く。
「とても、いい匂いしますわね」
ベビーカステラの屋台にシンシアは引き寄せられた。ベビーカステラの香りは誘惑的。
「食べますか?」
「はい」
仲良く二人で列に並ぶ。
「これはバーナードさん」
ベビーカステラを焼いていた青年がバーナードに挨拶。目深にフードで顔を隠しているシンシアには気が付かなかったが女性なのは解った。誰?と聞くような野暮なことはしない。
ベビーカステラを購入、バーナードとシンシアは仲良く歩き始める。
シンシアはベビーカステラを一つ摘まんで食べると、
「美味しい~」
満面の笑みを浮かべた。焼きたてのベビーカステラは本当美味しい。
「どうぞ、バーナードさん」
バーナードにも食べさせてあげる。
「本当に美味しいですね」
この後もいろんな屋台を見て回るバーナードとシンシア。
ふと、シンシアが足を止めたのは輪投げの屋台。
「何か欲しいものがあるのですか?」
「あれを」
指示したのはブレスレット。
「私に任せてください」
バーナードは小銭を払って挑戦。渡された輪は三つ。
狙いを済ませて投げた輪は一発で見事にブレスレットに入った。
「いやはや、バーナードさんには敵いませんね」
悔しがることなく、景品のブレスレットを渡してくれた。
景品のブレスレットをシンシアにプレゼント。屋台の景品と言っても商人が大盤振る舞いしてくれたものなので安物ではない。
「ありがとう」
ブレスレットが欲しいと思ったのも事実だが、それ以上にバーナードにプレゼントしてもらったことが嬉しい。
余った二つの輪は隣で挑戦していた兄弟に一つずつ挙げた。
「ありがとう、バーナード兄ちゃん」
「ありがとう、バーナードさん」
ちゃんと、お礼を言える兄弟。
「バーナードさんは何か欲しいものは無かったのですか?」
「今夜はあなたとお祭りを楽しめるので十分です」
言った後、少し恥ずかしそうに照れる。
そんな思いを向けてくれることに幸せを感じるシンシア。この人と一緒にいて本当に幸せだと、心の底から思った。
『今、この時だけでも……』
城のバルコニーに皇帝のジョセフと皇女のシンシアが立ち、みんなに向けて笑顔で手を振っている。帝都の民たちも感謝の気持ちを込めて手を振り返す。
「すまないな」
「……気にしないでください」
小声でジョセフは謝罪。隣にいるのは娘のシンシアではなく、似た容姿を持つ真輔。
シンシアが気兼ねせずに祭りを楽しむために、真輔が身代わりになることを承諾したのだ。
遠目でもあるが、元々似ている容姿なので女装した真輔だとは誰も気が付かない。だからこそ、シンシアは自由に祭りを楽しむことができる。
護衛なしで街を皇女が歩くのは危険が伴う不安もあるが、一緒にいるのはバーナード。伊達に平民から騎士団長に上り詰めたわけではない。元から実力があり、オカンの特訓で格段に能力は向上。一人でも十分に護衛の役を果たせる力ある、皇帝も任せられると太鼓判を押した。
シンシアの気持ちは理解していても、女装してお姫様の衣装を纏ってバルコニーに立ち、多くの目にさらされるのは恥ずかしいことは恥ずかしいが、オカンと暮らして鍛え上げられた精神力で耐える。
真輔も頑張っているのだ。
こうして楽しい祭りの夜は更けていく。
お祭りの屋台って何が思い浮かびますか。




