第十九章 オカン、計画する
大勝利での帰国後。
十倍の戦力差を覆しての大勝利。この知らせが届くなり、帝都の民は喜びに湧き立つ。その喜びは貴族たちにも広がっていく。
騎士団が負けていたら、魔王軍は確実に帝都に攻め込んできていた。そうなれば全滅もあり得た。例え生き残ったとしても路頭に迷うか魔族の奴隷にされていた。それどころか魔族の中には人間を食う物もいる。そこには絶望しかない。
どの世界においても絶望のどん底へ突き落されそうな状況になってからの大逆転。普通の喜びよりも大きいものになるのも当然。
凱旋してきたオカンと真輔、バーナード率いる騎士団は歓喜の声で出迎えられた。
「ありがとう、バーナード騎士団長!」
「よくやってくれた!」
「君たちは英雄だ!」
「君たちは命の恩人!」
「オカンさん、真輔さん!」
オカンと真輔とバーナード率いる騎士団が大通りを歩いて行くと、貴族市民関係なく感謝の気持ちを伝えてきた。
「おおきに、おきに」
オカンは笑顔で手を振る。
城の前で騎士たちとはお別れ、城の中へはオカンと真輔とバーナードだけで行く。
「魔王軍討伐、感謝する」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
口先だけではない、本心からの感謝の言葉にバーナードは傅く。続いて真輔、ワンテンポ遅れてオカンが傅いた。
「皆、よく無事で戻って来てくれました」
労いの声をかけるシンシアの視線の先にはバーナードの姿があった。
シンシアの視線にバーナードは無言で答える。二人の間に流れる温かな空間。その空間に周囲の人たちは気が付いていないのか、それとも気が付いて気を利かせているのかは不明。
欠伸しそうになるオカンをそっと肘で小突いて止めた真輔の気配り。
皇帝の間にいる貴族の代表者たちも顔に出さなくとも、魔王軍を返り討ちに出来た嬉しさを押さえ切れていない。
皇帝の間にチャド大臣の姿は無い。民も逃げ出さなかったのに一人で逃げ出した奴が、おめおめと戻ってくれば社会的に袋叩きになることはいくらチャドも解ること、場合によっては肉体的にも袋叩きにされるかも。どんなに面の皮が厚くとも帰ってこれるはずがない。
他の貴族の代表者たちは裏切り者のチャドのことよりも、魔王軍侵攻の恐怖から解放された喜びの方が心の中を占めている。
「皇帝陛下、ここは勝利を記念して祭りを開いてみるのはいかがでしょう」
と言った貴族本人が勝利を記念を祝いたい気分なのだ。
「うむ」
少し考える皇帝。
魔族との戦いはまだ終わったわけではない。しかし、勝利を記念する祭りは民を喜ばせ、士気を高める効果が期待できる。
隣のシンシアも頷いて賛成の意思を示す。
「そうだな、祭りもよかろう」
鶴の一声ならぬ、皇帝の一声で祭りの開催が決まった。
「祭りやて、それはええやん」
先ほどまで退屈そうにしていたのはどこへやら、まるで水を得た魚。
「にぎやかに騒ぐの好きだからね、オカン。羽目を外したらダメだよ」
「解っとるがな」
そう言う真輔も楽しく騒ぐのは好き。
祭り開催の知らせを聞いた帝都の民は大歓迎。誰も彼もがパッと騒いでマイナスに落ちていた気分をふっ飛ばしてプラスの気分に上げたかったのだ。そこに祭り開催の知らせ、喜ばないはずがない。
オカンとニックは屋台の話で盛り上がる。
「まずはお好み焼きとたこ焼きは出さなあかんな」
「勿論ですとも」
「後はイカ焼きやな」
「イカ焼きとはイカを焼くんですか?」
「ちゃうちゃう、小麦粉ベースの生地にぶった切ったイカを入れてぎゅ~とやったもんや。生地がもちもちしていて美味いで。イカの姿焼きもええけど」
「そのようなイカ焼きは初耳です」
「後、焼きとうもろこしもや」
「とうもろこしを茹でるのではなく、焼くんですね」
「そうや、しょうゆがまだ無いんは難儀やけど、まぁ、塩で何とかなるやろ」
「しょうゆは作るのに時間がかかりますから」
「甘いもんも欲しいな。屋台の甘いもんゆうたら、りんご飴や」
「りんご飴?」
「水で溶かした砂糖でりんごをくるっと包むんや」
「ほう、それはそれは」
「ベビーカステラも作るか。たこ焼きの鉄板を使えば出来るで」
「カステラなら作れますが、ベビーなカステラなのですか」
「そや」
二人の間で楽し気に話が進んで行く。
貴族たちと一緒に祭りに関する会議に参加するため、真輔は城の会議室にいた。
祭りの屋台の数に参加者、イベントの企画、祭り時の安全確認や警備、必要な予算の見積もりと確保など。話し合うことは幾つもある。
動き回ることは少なくとも、これもまた大変な作業。
官民一体となって進められる祭りの準備。貴族はスケジュールの組み立てに必要な機材の調達。飲食店は新メニューの開発、それ以外の店はセールを行うための仕入れ。
祭りだからとって浮足立ってばかりではない、バーナードと騎士たちは魔族への警戒も怠らない。
帝都の東西南北には結界を発生させる塔がある。この塔を基準にして帝都周囲に結界が張り巡らされており、魔族は帝都に入ってこれない。結界が帝都最大の防衛力。
結界があるからと言って、油断はダメ。些細な油断が大きな被害をも捕らすこともあるのだ。
だからこそ、バーナードと騎士たちは警備を行っている。
こうして、着々と祭りの準備が進んで行った。
祭りの屋台でどんなのを思え浮かびますか。




