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第一章 オカン、異世界に降臨する

 天神橋筋商店街も行ったことがあります。

「何やねん、ここ、東京か?」

 木々に囲まれ、足元には草と見たことも無い青い花が生い茂っている。どう見ても先ほどまでいたお初天神商店街ではない。

「東京ではないと思うよ」

 そう言う真輔もここが何処かは解らない、ひょっとしたら日本ですらないのかもしれない。

 スマホのGoogle マップで現在地を調べようとしていたら、

「あん」

 オカンがあることに気が付いた。真輔もオカンの視線の先を見る。そこには豹に襲われそうな少女の姿があった。豹と言ってもネットや図鑑で見るよりも、一回りも二回りも大きい。明らかに従来の豹とは異なる。

 オカンは走り出す。考えるより、オカンは行動する方が早い。

「ここは日本どころか、地球ですらないのかも」

 真輔はオカンを追いながら呟く。

「豹は人を襲うもんやのうて、着るもんやろうが!」

「着るものでもないよ、オカン!」

 息子のツッコミは気にすることなく、大型豹に両足でドロップキックを食らわせる。

 三十二歳はとっくに過ぎたオカンロケット砲の直撃を受け大型豹は吹っ飛ぶ。

 大型豹は痙攣しながら血反吐を吐き、ピクリとも動かなくなった。

 しばらく、少女は現状が飲み込めずにポカンとしていたが、やっと自分がオカンに助けられたと解り、

「助けてくれて、ありがとうございます」

 素直にお礼。

「気にせへんでええ」

 素直に受け取る。

「すいません、ここは何処なんでしょう」

 Google マップで調べようにもスマホ自体が繋がらない。ならば少女に聞くしかない。

「ここはナンピヘ村近くの草原です」

 真輔の知っている限り、ナンピヘ村は聞いたことは無い。状況から判断して、ここは地球でなさそう。

「ベティ、居なくなったのて心配したぞい」

 老人が数人の青年を引き連れやってきた。

「村長」

 少女、ベティはばつの悪そうな顔で老人、村長の傍へ。

「薬草を採りに来たんじゃな」

 村長の視線は沢山生えている青い花を見ていた。

「間もなくやって来る騎士団の人たちのために、ポーションを作ろうと思って。それぐらいしか、私に出来ることはないから……」

 青い花はポーションの原材料。

「ここは弩豹(どひょう)が生息しているので危険だと注意していただろ」

 一人の青年がベティを叱る。

「みんな忙しいそうにしていたので、邪魔したくなかった」

 青年の叱責に俯くベティ。青年もベティに悪気が無いことは解っている。それでも彼女を心配しての叱責。

 村長の視線が倒れている大型豹、弩豹で止まる。一緒に来た青年たちがざわつき出す。

 弩豹は凶暴で危険なモンスター。帝都の騎士ですら、数人で討伐する相手。

 動かなくなっていても、只の村の青年たちでは怖い。いきなり、起き上がって来ることを警戒している。

 そんな中、村長が一人で弩豹に近づき確認。

「死んでおる……、一体誰が仕留めたのじゃ」

 村長の問いにベティが、

「あのお方です」

 オカンを指し示す。

 村長はオカンの前に行き、

「私はナンピヘ村の村長を務めている者です。本日はベティを助けてくれてありがとうございます」

 深々とお辞儀。

「ウチはオカンや、こいつはウチの息子の真輔」

「西原真輔です」

 紹介された真輔は名乗って、軽く会釈。

 弩豹を取り囲んでいる村の青年たち、

「この大きさの弩豹を一人で倒すなんて」

「一体、どうやって」

「何者なんだ?」

「でも、これだけ大きければ肉が沢山取れるし、いい素材にもなるぞ」

 恐怖の対象が息絶えていると解って、肩の力が抜けた。

「お礼がしたいのでナンピヘ村に来ていただけないでしょうか」

 村長の申し出にオカンは真輔を見る。判断はお前に任せたの意思表示。それに対して頷くことで行けとの返事。

 何もかもが解らない、この状況。まずは情報が必要との判断。

 村長の案内でナンピヘ村へ向かう。弩豹は村の青年たちが担いで運ぶ。

「なぁ、真輔。ここが日本じゃないんなら、何で日本語が通じているねん?」

「それは、この世界では突っ込んではいけないことなんだよ」

 世界には追求してはいけないこともあるのである。


 ナンピヘ村ではオカンと真輔をもてなす宴が開かれた。メインディッシュは弩豹の肉。

「脂が乗っててうまいけど、ポン酢かヘルメスソースが欲しくなるな」

 未知の食材であるにもかかわらず、オカンは平気で食べる。

『まっ、オカンなら何を食べても平気だろうけど』

 そう内心呟きながらも真輔も弩豹の肉を食べている、僕はポン酢がいいなと思いつつ。

 畑があり、放し飼いの鶏が歩き回っている。一見、のどかなナンピヘ村。

 弩豹の肉は均等に村人たちに分け与えられた。ご馳走らしく誰も彼もが喜んでいる。ただ、その表情はどこか暗い。


「少し、いいでしょうか」

 食後、真輔は村長を呼び止めた。

「何かあるんでしょうか、この村」

 真輔の顔を見る村長、彼の人となりを見極めようとしている。

「解りました、あなたたちには話してもよいでしょう。ベティの助けていただけことですしな」

 見極めは合格。

「オカン、村長さんが話があるって」

 食後、寛いでいるオカンを呼ぶ。


 話は村長の家で行われる。ナンピヘ村の家は質素そのもの、その中でも村長の家はほんの少しだけ立派。

「今、人の世は魔族の侵攻を受けておるのです。私たちの国、ラティストアン帝国も魔王軍の進行を受け、先日二つの町が滅ぼされました。魔王軍の侵攻ルートを見れば次に攻撃されるのは、このナンピヘ村てしよう」

 深刻な村長の表情と村人たちを見れば嘘偽りの無い話と言う事は容易に知れる。

「私たちはこの村で生まれ、育ちました。簡単に捨てることは出来ないのです。例え出来たとしても、逃げ出した先で魔王軍の侵攻を受けることになるでしょう。我々の選択は迎え撃つしかありません」

 村長や村人たちがどれだけ深刻な状況なのか、来たばかりの真輔にも伝わってくる。

「ですが、この村の戦力だけでは魔王軍を打ち破ること難しい。今、帝都から騎士団を派遣させてもらっておるのですよ」

 地球のどこにもラティストアン帝国は存在しない、ましてや魔族や魔王軍なんてものはフィクション世界の住人。ここが日本でもない地球でもない、真輔は今いる場所が異世界だと確信を持つ。

「なるほどなるほど」

 解っているのかいないのか、頷いているオカンを尻目に真輔はこれからどうするべきかと考えていると、息を荒げた村人が村長の家に駆け込んできた。どう見ても尋常ではない。

「何があった」

 と問う村長に、青ざめた顔で村人はこう告げた。

「ま、魔王軍がすぐそこまで迫ってきています!」






 オカンと言えばヒョウ柄なので、一番最初に遭遇するモンスターは豹がいいなと思いました。

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