第十七章 オカン、帝都を出撃する
大変な事態の発生。
ラティストアン帝国は騒然となっていた。魔王軍が帝都に向かって侵攻してきたのだ。
斥候が調べたところ、その数二万人。魔族側の本気度が窺い知れる。
ジョセフとシンシアは逃げなかった。逃げるように説得する家臣もいたが、逃げなかった。皇族である自分たちが逃げれば帝国の民にどれ程の混乱と不安を与えることか。
だから、皇帝と皇女は逃げない、逃げるとしても最後の最後。
皇帝の間に集まった貴族たちの顔色は良くない。二万人もの魔王軍侵攻。不安に押しつぶされそうになるのも無理はなし。それでも貴族としての誇りと責任感から、皇帝の間に集まってきた。
集まった貴族たちの中に大臣のチャドの姿はない。魔王軍侵攻の報を聞いた途端、帝都から荷物をまとめて逃げ出したのだ、一人で。
この行動には他の貴族も呆れるしかない。呆れるしかないが、今はそれどころではない。
バーナードが堂々とした態度で皇帝の間に入ってきた。
皇帝の前で跪き、
「既に出撃の用意は出来ております」
告げる言葉のどこにも恐れは無かった。
「そうか、民と帝都のことを任せたぞ」
「はい」
一礼して皇帝の間を出て行くバーナードを祈りながら見守っているシンシア。
不安に押しつぶされそうになっていた貴族たちも、堂々としたバーナードを見ているうちに、もしかしたら彼ならやってくれるかもしれないと思えるようになっていった。心なしか、一回りならぬ二回り立派になった雰囲気を放っていた。それにオカンの存在が大幅に不安が薄れさせてくれた。
バーナード率いる騎士団は魔王軍を迎え撃う体制を整えて門の前に集結。
「なんやねん、朝っぱらからこの騒ぎ」
「敵が攻めて来たんだよ」
欠伸をするオカンに真輔は状況を説明。
「朝っぱらから、攻めて来たんか。ご苦労なこっちゃ」
オカンの緊張感の無さが騎士団のみんなをリラックスさせてくれる。
集まった騎士団は二千人とオカンと真輔。その戦力差は十倍。それだけではない、魔族の身体能力は人間を越えたもの。
参加者は強要されたのではなく、全員が志願者。十倍の戦力差を知ったうえで参加してくれたのだ。
本来ならば勝ち目のない戦い。魔族側もそれを頭に入れて攻めてきている。
騎士団の前に立つバーナード。騎士たちも一回り立派になった雰囲気を放っていた。
「この戦いは負けてはいけない。我々には帝国の未来だけではない、人間の未来がかかっているんだ。必ず勝たなくてはならない!」
騎士たちを鼓舞する。騎士たちもそうだそうだと声を上げることで自身のボルテージを高めていく。
「さぁ、出発だ」
馬に跨ったバーナードを先頭に帝都を出発する騎士団。
「ほな、行きましょうか」
肩慣らしとばかりに肩を回しながら、馬車に乗る。
続いて馬車に乗る真輔は騎士団の方を見る。
「大がかりな戦いになりそう」
騎士団の状況がそれを示している。しかし、誰一人として恐れを抱いている騎士はおらず。
街を出る際、バーナードは城の方角を見て一礼した。
「みんな、無事に帰ってきて」
窓辺に立って祈るシンシアの肩を優しく触れるジョセフ。
次回はバーナード率いる騎士団VS魔王軍。




