第97話 EP12-9 初手
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
空気が変わって、目の前に狭間が広がった。
黒い空から、白い雨が降る。シトシトと静かに、灰色の荒野を濡らす。
オレは遠見 勇斗。この世界から狭間が見える特殊能力持ちだから、見える。
「必! 殺!」
皐月が一歩踏み出し、灰色の荒野を踏みしめ、右肩に振りかぶった大金鎚を、全身に力を漲らせて、前のめりに振りおろす。
皐月には、それしかない。
でも、皐月には、それがある。
だから、斎賀 皐月という最強の『ウォリア』は、いかな状況でも、一瞬の迷いもなく、それを実行できる。
対する狭魔は、人間と大差ないサイズで、人間に似た形で、白い粘土みたいな質感をしている。
人の形の粘土を、捩りに捩ったような見た目である。白い表皮に螺旋の凹凸が、頭頂部から足の爪先まで、全身にある。
ネジレ様だ。狭聖教団の教主と情報の交換を繰り返していた、ヤバいヤツだ。
あの斎賀 皐月が、一度は負けたのだから。狭魔の中でもトップクラスの強さで、狡猾で、人間を知る。戦って勝てる確率は、狭魔の中でもトップクラスに低い。
「!!!」
渾身で振りおろされる大金鎚に、ネジレ様が歓喜した。
ネジレ様の、螺旋の凹凸のある人の顔みたいな部位に、目も鼻も口も耳もありはしない。喜んだも笑ったもない。でも、なぜだか、笑ってるように見えた。
この状況に、ネジレ様の取れる選択肢は限られる。
回避は不可能だ。空間そのものを叩き潰す『ディメンションクラッシャー』から、どこに避けられるのか。
だったら、叩き潰されるより早く、皐月を殺す? 羅刹の形相の今の皐月を? 半端な攻撃じゃ止まらない、たとえ相討ちでも死んでも叩き潰す、みたいな気迫の今の皐月を?
残るは二択。
一つは、パワー勝負で『ディメンションクラッシャー』を受けとめる。万全では難しくても、瀕死の皐月が相手なら悪い案じゃない。
もう一つは、『ディメンションクラッシャー』を弾き飛ばす。それが皐月の手にあってこそ脅威。手放させれば勝ちも見える。
「!!!!!」
ネジレ様からドリルみたいに、捩れた突起がたくさん生えた。曲がりくねりながら、皐月の振りおろす大金鎚へと無数に伸びた。
正解!
前以て狙いが分かっていれば、どれだけ速くても、どれだけ数が多くても、防ぎきれる!
白い雨を無数に弾き飛ばして、疾風が駆け巡った。不思議な曲線の刃光が、自由奔放に舞い踊った。高い金属音で、捩れた突起が無数に斬り刻まれ、飛び散った。
どれだけ速くても、どれだけ数が多くても、防ぎきってくれる! 『光速のライトニング』ならば!
◇
突起を斬り刻まれたネジレ様は、残る一択、振りおろされるハンマーヘッドの下に両腕を掲げる。
ズドン、と重々しい打撃音で、『ディメンションクラッシャー』の一撃を、ネジレ様が、交差させた両腕で、受けとめた。白く捩れた膝をクッションに曲げ、足が地面に減り込んで、空間そのものがズズンと揺れた。
やっぱり、最初の攻防で決着できるほど甘い敵じゃないか。
でも、パワー勝負に持ち込めた。有利な形の一つ、ネジレ様の足をとめられた。
「夕焼け、原、騒めき、揺れ」
雨の狭間に、琴音の澄んだ高い声で、魔法の詠唱が始まる。
琴音はクラスメートの女子で、攻撃魔法を使える魔狩、『ウィッチ』である。白銀の長い髪で、レースやフリルをふんだんに使った白銀の魔法少女衣装で、二つ名は『白銀の炎』。オレの知る限り、最強の魔法少女である。
「ディメンション!」
皐月が、大金鎚に渾身の力を込める。全身を震わせ、狭魔を潰さんと前のめる。
ネジレ様は、潰されまいと踏ん張る。白い粘土みたいな全身を震わせ、顔みたいな部位を、笑うみたいに歪める。
皐月の腕脚の包帯に、赤い色が滲んだ。皐月が地面に片膝をついた。
まだ想定内だけど、満身創痍では無理か。万全なら勝てたか? いや、でも、万全じゃぁ、共闘できてないか。
相変わらずオレは、こっちの世界から狭間の戦いを見守るだけだ。予め色々な状況を想定して、予め色々な作戦を立案しただけだ。
自分の力量も得意も立ち位置も、分かっちゃいるけど、もどかしい。
「焼き払え! フレイムフィールド!」
琴音の魔法詠唱が完成した。雨降る荒野の一面に、赤い草原のように炎が広がった。
雨は湯気となって、荒野を満たした。
◇
白い湯気に覆われて、狭間の視界が一気に悪くなった。
皐月は息を荒げながらも、ギリギリでネジレ様を押さえる。
白い湯気を棚引かせて、曲線の刃光が舞い踊る。硬い金属音で、ネジレ様の全身から白い破片が飛ぶ。
ネジレ様が想定より硬い。ライトニングの短剣二刀『死の舞踏』では、碌なダメージを与えられていない。マズいかも知れない。
いや、焦っちゃダメだ。
本命の火力は、皐月だ。メインは、瀕死だろうと揺らぐことなき最高火力、最強の『ウォリア』、斎賀 皐月だ。
視界を悪くするのは、一長一短だとは思う。主力の最強二人は戦いにくくなる。でも、補助役のメンバーは、身の安全を確保しやすくなる。
こっちの世界から狭間を見てるオレが状況を把握しづらくなるのは、盲点だった。いや、まぁ、見てるだけだから、いいんだけど。
「ぐぅっ……」
近くのギルド職員が呻いて、アスファルトに倒れた。
「っ!? どうしたっすか?」
一人じゃない。バックアップのギルド職員が全員、倒れて、呻いてる。
片桐が立ちあがろうとして、目が回りきった人みたいな倒れ方で、雨のアスファルトに転がった。
たぶんだけど、日備里の言ってた『五感の捩れる感覚』ってヤツだろう。
なぜ『たぶん』かというと、オレには、その感覚がない。オレだけ、平然と、雨の中に立ってる。
オレも強くなったものだ、最強の魔狩が苦戦するほどの狭魔の悪影響を跳ね返せるとは、ではないよな、残念ながら。
ネジレ様が、影響下からオレを除外してるのか? 部外者お断り、とギルド職員を行動不能にして、オレだけは関係者と認めてるのか?
……いいだろう!
桃花を真似て、仁王立ちで狭間を睨む。
オレも最初から、そのつもりだ。ほぼ見てるだけだけど。一蓮托生の覚悟で、戦いの結末まで、目を覆うことなく見届けてやろうじゃないか。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第97話 EP12-9 初手/END
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