第100話 EP12-12 道筋
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
ネジレ様の両腕ドリルを、皐月を仕留めようとした必殺の一撃を。光のオーラの大盾が、『光輝十字剣』を手にする儚げな美青年が。防いだ。
狭間の黒い空から、白い雨が降る。ネジレ様の白い突起が、無数に絡み合う山となって、光景のほとんどを埋める。
オレは遠見 勇斗。この世界から狭間が見える特殊能力持ちだから、見える。
見えるけど、知ってたけど、不思議な状況だ。
儚げな美青年は、狭聖教団の教主である。
教主が作戦会議にいたときは、助言役かな、よく連れてこれたな、と思った。
作戦に参加すると知っても、ギルド職員と同じバックアップだな、よく関係各所から許可が出たな、と疑わなかった。
討伐の共闘に加わると聞いて、耳を疑った。評価ランクが実力より高い『オールマイティ』を逆手にとって、共闘は可能かも知れない、とは思った。でも、その程度の低い実力で共闘しても何もできないのでは、とも思った。
教主は弱い。典型的な器用貧乏、三種類以上の能力を併せ持つ『オールマイティ』の魔狩だ。
教主が手にする長剣『光輝十字剣』は、強い。弱さの代名詞『オールマイティ』にしか使えないのに、『最も有名な超常の武器』の一つに数えられる。
最強クラスの武器に、本人の固い意思とか、献身的な性格とか、守り抜く覚悟とか、諸々が融合して、ネジレ様の必殺の一撃を、教主が防ぐに至った。防いでみせた。
狭聖教団の教主は、高校生くらいの、女子にも見えそうな、儚げな美青年である。華奢な体に、高位の聖職者が纏うような、多層多段のヒラヒラとした純白の祭服を着る。
でも、今この瞬間は、最強の『ウォリア』を殺す気の一撃を防いだ今この瞬間は、強く、凛々しく、格好よく見えた。
◇
「?!!??!?」
数秒混乱していたネジレ様が、混乱したまま攻撃を再開した。
分かる。
ネジレ様にとってはザコ認識の教主が、なぜかこの頂上決戦に参加している。しかも、以前は軽くあしらえらのに、なぜか自身の本気に拮抗さえしている。
予想の上下の前に、斜めすぎて意味不明だろう。
「?!?!?!」
両腕のドリルを雑に振りまわして、光のオーラの大盾を打つ。ガチンッ、と硬い音がして、大盾を構える教主がズリ下がる。
ドリルの一打ちごとに、教主が押されてズリ下がる。一打ちごとに目に見えて、光のオーラにヒビが広がる。
教主の後ろには、皐月がフラフラと立ちあがる。教主は凛々しい美青年顔で、『光輝十字剣』を逆手に握り、地に突き立てる。白金の刀身から広がる大盾の光が、全てを守ろうと足掻くように強く輝く。
うおっ?! 眩しくて、まだ残る湯気と相俟って、よく見えない。教主の気迫だけが、肌に犇々と伝わる。
「!!?!!」
ガチャン、とガラスの割れるような音が聞こえた。光のオーラの大盾が割れたと、眩しくなくなって分かった。
見える。
大盾を割られた教主に、ネジレ様から捩れた突起が伸びる。教主は倒れそうに仰け反りながらも、光輝十字剣で突起を斬り払う。
ネジレ様の背後に、桃花が『闇撫』の闇色の刃を、桃花の身長と同サイズの闇色の大剣を、音もなく振りかぶる。
「!!!」
ネジレ様が、桃花に気付いていたとばかりに、ドリルの片腕を背後へと横振りした。振りおろされた闇色の刃と、横振りされた白いドリルが打ち合って、黒白の火花が散った。
「チッ!」
数メートルを弾かれて、桃花が舌打ちしながら着地する。
「くっ!」
堪らず倒れた教主が、中性的な美声で呻いた。
皐月を殺すのは簡単じゃない。皐月以外は簡単に殺せる。
強すぎる狭魔ゆえに、まだその思考で戦ってる。まだ人間を甘く見てる。
「必! 殺!」
皐月が、フラつく一歩を踏み出した。灰色の荒野を、頼りなく踏みしめた。たぶん、視界の悪いうちに桃花から受け取った大金鎚を、右肩に振りかぶった。
その輝くゴールドカラーの大金鎚は、自販機サイズのハンマーヘッドに神々しい女神が彫られ、細長い握り柄にまで優美な装飾が入る。それこそ名高き超常の武器、『ディメンションクラッシャー』は空間そのものを叩き潰す。
「決めるわよ!」
同時に、桃花が闇色の大剣を振りあげながら駆け込んだ。
ネジレ様は、桃花と教主を甘く見た。油断して、後手に回った。自身のチャンスを逃し、敵にチャンスを与えてしまった。
ここで決まれば、こっちの作戦勝ちだ。
補助役メンバーの、予想を超えた活躍が、トドメへの道筋を成す。勝負を決める。
道筋は、成された。見るからに限界の皐月を見ても、間違いなく、これが最後のチャンスだ。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第100話 EP12-12 道筋/END
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