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連恋輪廻応報草子  作者: あやぺん
応報ノ章
81/122

 私の体、病気はめちゃくちゃで、眠り続けたと思ったら元気になる。

 眠ることで体を治しているなら良いけど、前例が見つからないのでそうなのか不明。

 死病なのかすらあやふやになった私は、奇跡が起こらないと確実に死ぬ若者達が集まる治験施設にいると、彼ら、彼女達の精神衛生に悪いということで、被験者から完全に外された。


 黄泉招き病、落眠石化病、若年性なのか老年性なのか判断のつかない若者の超早期石化病。

 どれもこれも医学的に調べたい病気だということで、私の担当医や担当薬師に対して、中央から調査命令や治療指示が出るようになった。

 そのおかげで、我が家には金一封が授与されるとか、兄への就職優先があるという話が浮上している。


 さて、今日は人生初の「友人宅にお泊まり」だ。


 ミズキがお世話になっているルーベル副隊長の家に泊まらせてもらう。

 今日泊まり、明日はまた赤鹿体験を出来る予定。

 学校帰りの兄が迎えに来てくれて二人で帰るのだけど、兄はレイスを連れてきてくれるのでとても楽しみ。

 手土産は我が家の豆腐と油揚げと指定されているのでしっかり持って、手荷物を確認して、いざ母と使用人とお出掛け。


 元気いっぱいなら歩き続ければ着くのだが、私は何があるか予測不可能なので立ち乗り馬車を使い、降りたらミズキが犬と迎えに来てくれていたので母達とお別れ。


 かわゆい犬のクロは今日もかわゆくて、前回遊びに行った時に懐いてくれて、まだ忘れないでくれたから、今回は吠えられなかった。


「手紙にかなり元気と書いてありましたが今日も大丈夫ですか?」


「はい。快調です。前はあんなに重かった体が軽くて嬉しいです」


 それは良かったと笑うと、ミズキは三味線を弾き始めた。

 歩きながら弾く練習、練習時間は沢山必要と、彼女はいつも努力家。

 歌って下さいと笑いかけられたので、人がいないから恥ずかしくないぞと歌う。

 待ち合わせ場所からルーベル副隊長の家は遠くなくあっという間に到着。

 門をくぐり、玄関へ招かれ、ミズキに促されて家にあがった。


 前回と同じく廊下を歩いて居間へ、ではなくてそのまま廊下を歩き続ける。


「今日、アズサさんが泊まる部屋は妹弟子達の部屋です」


「前回会えませんでしたので、皆さんにしかとご挨拶致します」


「そうでしたっけ。アリアさんとは玄関で会いましたよね」


「はい」


 アリアとは、どこからどう見ても異国人の女性。

 この間、挨拶をした時に、私をミズキの恋人だなんて頓珍漢(とんちんかん)なことを言った人物。

 ミズキは彼女を「弟子候補」で「この家の使用人」と紹介した。

 入門希望者を使用人として雇って、弟子にしても良いか品定めしているらしい。

 アリアは衝撃的な美女なので、一門の多分弟子になり、踊り手など客寄せになるだろう。ミズキはそう語った。


 部屋に案内されたらその美女アリアがいて、ようこそと手を取られて笑いかけられた。

 あまりにも綺麗だから女性同士なのに少し照れる。


「この間はお世話になりました。アズサです。本日と明日、またお世話になります」

 

「この間は私、なーんにもしていないわ。だって少し喋っただけ……喋ったっけ? 私、ミズキに恋人? って聞いただけよね。ねぇ、ミズキ」


「多分、そうですわ」


「私ね、今日も仕事なの。だけど明日は休みよ。明日は一緒に赤鹿乗りをしましょうね」


「アリアさん、しばらく稽古をしますので、彼女に色々な案内をお願いします」


「はーい! 任されました!」


「はいは短く、お姫様」


 予想していなかったけど、ミズキが去ってしまったのでアリアと二人きりで緊張。

 ここは一緒に寝る部屋で、布団はそこに出してあるあれで、ここは普段は二人部屋。

 今夜、私はミズキの妹弟子達と寝ることになっているそうだ。

 

「ミズキさんは別の部屋で寝るんですか?」


「そうよ。それでミズキは夜に特別稽古ですって」


「特別稽古とは大変そうな響きです」


「絶対大変。私は最近、ミズキの弟子候補になったのよ。家事は向いてない。この見た目を生かして稼げるようになる方が良いって助言されて」


「そうなのですか。ミズキさんとお稽古は楽しそうです」


 アリアは顔をしかめてまさか、と告げた。


「鬼よ鬼。挨拶から姿勢、指の動きまでネチネチ、ネチネチ、ネチネチうるさいの。私に教えるのはミズキの指導者稽古だから、ウィオラさんに怒られてた。相手のやる気を削ぐなーって」


 アリアはよく喋るようで楽しい。彼女はミズキと仲良しみたい。

 おいでおいでと手招きされて、部屋から居間への行き方を教わり、次は女性用と(しも)用の(かわや)の場所。

 その辺りは前回の記憶があり大丈夫そう。

 お風呂は一緒に行くけど、一応と案内されて、札を確認するように説明された。

 子供ならともかく、成人男性と遭遇したら大変なので必ず確認するように。

 あとはお客様には関係ないわ、とアリアは私を居間へ連れて行った。

 

「お茶を淹れてくるから待ってて」


「いえ、お気遣いなく」


「まさか。有り難くおもてなしされなさい」


 お客対応でこんな台詞は初めて耳にするけど愉快。

 畳の我が家とは異なり板間なので、今回も気になって部屋を観察して、レイスはたまにここで食事をするのだなぁと想像。

 前回も見たけど、壁に住んでいる人の名前の札が並んでいて、その下に用事の札がある。

 沢山の人がいるけど、レイスはどこに座るのだろうか。


(レイスさんのお母様、リルさんは明日って札。明日、いらっしゃるとは知らなかった)


 我が家にいつでも遊びに来て下さいと誘われたけど、意中の男性、軽いお見合い中の彼の家にお邪魔なんて無理。

 レイスがどんな家で暮らしているか気になるので行ってみたいけど。

 明日死んだら後悔すると思いつつ、恥ずかしいし大緊張で無理で、死ぬ気配がないからとついつい先延ばし中。


「はぁ……」


 男の人の声がして顔を上げたら、魚っぽい顔立ちの、レイスと同年代に見える男性が私を見つめていた。

 公務員の制服姿なので、彼は公務員みたい。


「ようこそいらっしゃいませ。レオの孫、ジオと申します」


 レイスと良く似た綺麗なお辞儀をされたので、私も礼儀正しくしないとと、扇子を出して一礼。

 きちんと出来たかな。


「こちらでお世話になっているミズキさんに親しくしていただいているアズサ・クギヤネと申します。お邪魔しています」


「富豆腐屋のお嬢さんですか。従兄弟のレイスがお世話になっています」


「……」


 知られているなんて恥ずかしさ爆発。扇子を出して顔を隠して、文通させていただいていますと一言。


「あら、ジオ。おかえり」


 ジオの隣に、お盆にお茶を乗せたアリアが現れた。


「アリアさん。ただいま帰り……じゃなくて仕事! なんか休みな気がしていました! 拒否したのにあんなのに付き合わせるから。仕事に戻ります!!!」


 急に慌て出したジオは会釈はしっかり残して去っていった。


「何あれ。ジオってたまに忘れっぽいのよ。私は殆ど忘れたから人の事は言えないけど。ミズキに聞いてる? 私、記憶がかなりないの。海に落ちたせいで」


「……えっ?」


 知らなかったのねと笑いかけられて、お茶とお茶請けを出された。

 アリアはあっけらかんとした顔や声色で、親切な家に拾われてこうしてなんとかと話を続けていく。


「ねぇ、お豆腐ってどう作るの? 最初はなんだこの食べ物はって思ったけど、慣れてきたら美味しいわ。あと厚揚げとか油揚げっていうのも好き。いなり寿司なんて最高よ!」


「……お恥ずかしながら、そういえば知りませんのでお父様やお母様に教わっておきます」


「本当? それなら約束よ。また遊びに来るか……最近、外出練習中だからミズキと遊びに行くわ」


「それは是非」


 楽しく会話していたら、レイスの祖母が挨拶に来たので手土産を渡そうとしたけど、部屋にあると思い出した。

 私のうっかり者。さっきのジオとどんぐりのせくらべだ。


「アリアさんから預かったけど、手土産なんてええのにわざわざありがとうね。富豆腐さんは大好きだから嬉しいです」


「いえ、いつもご贔屓(ひいき)にしていただき、ありがとうございます」


「ご存知でしょうが、富豆腐さんでお世話になっている幼馴染やその子供がいるんですよ。だからなんでも遠慮なく言うて下さいね」


「そのようにありがとうございます」


「ご両親から色々うかがっていますし、今夜は娘のロカも来ますから安心して下さい」


「はい。ご迷惑をおかけします」


「まさか。迷惑なら招きませんよ」


 エルの顔立ちは副隊長、リル、レイスと全然違うけど話し方が似ている気がする。

 皆、家族なんだなぁとなんだか感激。

 エルの背中におぶられている男の子がいきなり起きて、うわぁぁぁぁぁと泣き出してびっくり。

 

「ははぁあああああ! ちちぃいいいい!」


「はいはい、ラルス。二人とも仕事中よ。お母さんはもうすぐ帰ってくるから。んもうっ、買い物に行くはずだったのに……アリア、二人で見ててちょうだい。困ったらミズキもいるし大丈夫ね」


「大丈夫です」


 ラルスは誰で二人で子守り? とおろおろしている間にアリアが泣きじゃくるラルスを抱っこしたけど、暴れられて大変そう。


「落ち、落ちるから暴れないの! ほらほら、きらきら光る、お星さま〜」


 アリアは掠れ声だけど不思議と心地良い歌声で、ラルスが大人しめになり、おほじざまぁと泣き続ける。


「そうそう、お星さま〜。ほら立って。願いを叶えてまたお空!」


 アリアが軽く踊るとラルスは笑い出して真似を始めた。


「上手、上手。ラルスは踊りが上手ね」


「うん、おどれるの」


「ミズキの演奏で踊りたい人!」


「はい!」


 そういう訳で三人でミズキのところへ。

 ミズキの部屋は離れで、その理由は他の弟子とは違って特別だからだそうだ。

 アリアは声を掛けずに離れの玄関扉を開き、ずかずかと中に入り、当然のような顔で襖も開いた。

 音が聴こえていたように、ミズキは部屋の中央で琴を弾いている。

 規則的な音なので基礎練習だろう。

 ミズキは私達を無視して物憂げな表情で琴を弾き続けている。

 

「ミズキちゃん〜」


 アリアの手を離したラルスが喋って走り出したけどミズキは無視した。

 ラルスがミズキに近寄って腕に触れると、ミズキは驚いたような表情になり、その後に柔らかく笑った。


「あら、ラルスさん。おはようございます」


「本当、すっごい集中力よね。相変わらず気がつかないんだもの」


「まだお稽古中ですが、子守りに困って緊急要請なら引き受けます」


「皆で踊るから何か弾いて。ミズキ、お願い! 基礎練習なら朝もしていたじゃない。曲が聴きたい!」


「師匠に怒られるのは私ですのに。ではご要望にお応えして、ラルスさんがお好きな海蛇の歌にしましょう」


「へびのおうたがねー、ラルスはすき。つれてくる」


 連れてくる? と首を傾げていたら、アリアがラルスと手を握って縁側を開け放ち、一緒に庭へ出ていき、少ししたら戻ってきた。

 ラルスの右手には鉛色の硬そうな鱗の小さな蛇が握られている。


「蛇と一緒に海蛇の歌も慣れましたわ。では始めましょう。アズサさん、手拍子」


「えっ? あっ、はい」


 なんか想像していた「ミズキと遊ぶ日」と違うけど、すこぶる楽しくて幸せだ。

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