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連恋輪廻応報草子  作者: あやぺん
絶望ノ章
47/122

 女学校とは異なり、男子学生の土曜は半日授業で放課後は趣味会だ。

 しかし、スザクが休みと先生に聞いて、イオリと相談してお見舞いに行くことに。

 まだ同じ趣味会になって一ヶ月なので家を知らないけど、先生に「配布物の届け物はありますか?」と質問したら、住所獲得。

 学校というのは、家柄によって個人情報の取り扱いが異なる。

 スザクは商家の息子と聞いていたので、商家だとゆるそうだと考えたらその通り。


 スザクが住んでいるのは、南三区六番のトト川沿いだった。

 母の実家近くの川の沿線上だったので、近くはないけどなんとなく親近感。

 住所を頼りにおそらくこれだと決めた立ち乗り馬車に乗りながら、そこまで混んでいないし、あまりガタガタしないのでイオリと雑談。

 すると、彼の家はオケアヌス神社の近くだと判明。


「……もしかして、ルーベルの名前に聞き覚えがありますか?」


 おそらく、スザクも俺が誰だか分かっているだろ。

 叔父も叔母も一区ではそんなに有名ではないので、学校でそういう話をされる頻度は減ったのに、嫌な予感。


「めちゃくちゃあります。趣味会で自己紹介されて、えっ? ん? ってなりました」


 文学や音楽の趣味が合い、武術系は好まず、気が合いそうな性格に見えるから、友人になれると期待していたのに、距離が遠ざかる予感。

 まただ。俺はこんな風に学友運が悪い。


「あー……。うん、まぁ」


「ルーベルさんって、奉巫女(ほうみこ)様の息子さんですか?」


「……甥です」


 嘘をついてもバレるので素直に吐露。

 彼がご機嫌取りになった瞬間、俺は彼と距離を取る。ゴマスリ野郎とは友人になりたくない。

 しかし、副隊長の息子ではなくて、奉巫女(ほうみこ)様の息子さんですか? は珍しい問いかけだ。


「へぇ。その感じ、大変なんですね。まぁ、あんな有名人の甥なんて大変そうです。そっかぁ。つまりあのルーベル副隊長さんの甥かぁ」


「……まぁ。たまに大変です」


「父が近所の病院で事務職をしていて、たまに仕事で会うんです。その関係で、昔、一回だけ赤鹿に乗せてもらいました。ありがとうございます」


 それは甥に擦り寄らなくても、叔父と接点があるから別にってやつ! と俺の胸ははずんだ。

 イオリはそのまま赤鹿話を始めて、赤鹿うんちくは長かったけど愉快で、気がついたら目的地。


 南三区六番地のどこかに着いたら、俺はもう、一方的に知られまくりで面倒だけど、探し物となると普通よりも楽。

 まず、こんにちはと見回り兵官に声をかける。


「……ん? あのー。その顔、もしかしてルーベル副隊長の息子さんですか?」


 叔父がちょこちょこ出張を言い渡されるので、六番隊には副隊長が二人いる。

 そのうちの一人が俺の叔父、ネビー・ルーベルなので、ルーベル副隊長と言えば叔父のこと。


「はい。自分は甥です。叔父がいつもお世話になっています」


「甥っ子さんですかぁ。いやぁ、そっくりです。ルーベル副隊長を若くしたら君ですよ」


「よく言われます。お仕事中にすみません。友人宅を探しています」


 こうやって質問したら、丁寧に教えてもらえるので、礼儀正しくお礼を告げて撤収。

 俺は気が合いそうで、叔父や叔母のことをサラーッと流してくれたイオリと友人になりたいので、ちょろっと「街中で見張られている感覚で疲れます」と愚痴ってみた。


「大変って言いつつ、上手く利用しているじゃないですか。大変だけど良いこともあり」


 予想外の台詞と、ふんわりした笑顔に和む。

 嫌味っぽくないし、かといって叔父のことではしゃぎもせず、俺と比較もしてなさそう。

 内心はどうであれ、こういう雰囲気で接してくれると嬉しい。


「目の上のたんこぶだから疲れるけど、使えるものは使います」


「父関係で何回か会って親切にされているし、赤鹿は大感激だったけど、嫌な思い出もあるから、ルーベルさんには悪いけど、俺はルーベル副隊長話でははしゃげないです」


「むしろ疲れるからはしゃがないで欲しいです」


「そんな気がしたから伝えました。昔、こんなことがあったんです」


 父親が働く病院で遊んでいた時に、叔父夫婦に親切にされて遊んでもらったけど、子供だったイオリは叔母の膝を枕にして寝てしまったそうだ。

 起きたら叔父の機嫌がとにかく悪く、叔母と喧嘩を始めて怖かったらしい。

 神職に膝枕してもらうなんて非常識行為に対して叱ろうとした叔父と、まぁまぁとなだめる叔母という印象だったそうだ。

 それから、叔父関係の話を聞いたり、街で姿を見かけると、たまにモヤッとするという。


「叔父自慢野郎だとこれから辛いなぁって思っていたんですが違くて良かったです。ルーベル副隊長の息子さんですか? と聞かないでおくか悩んでいたんですけど、聞いて良かったです」


「なんか叔父上がすみません。あの人、叔母上に夢中過ぎて大人気ないんです。自分以外の男を膝に乗せたーっていう嫉妬でしょう」


「……えっ? 五才だか六才児ですよ?」


「幼馴染が恋敵の叔父上に果たし状を出した結果、恐ろしい一閃突きをされました。手加減の寸止めだけど、幼い子供相手にやり過ぎ。幼馴染はおもらしして大泣きです」


「……うわぁ」


 幼馴染テオの嫌がる過去話だけど、自分で話しまくるから広めても問題無し。

 せっかく俺の妹がおもらしを隠したのに、それをテオは自ら披露している。

 大きな敵と堂々と戦い、格好良かったと褒められて、おもらし隠しをしてくれた俺の妹に惚れて、以後、尻を追いかけ続けている。


 女という女に優しくしていて、褒めまくるし、自分を好む女にいびられたら可哀想だとユリアへの恋慕を隠しているけど、親しい友人には惜しげもなく話す。

 昔は叔母への恋慕みたいに、子どもの憧れみたいな感じだったけど、気がつけば本気の恋穴落ちのようで、本物初恋はユリアと言い出したし、元服して即座に文通お申し込みをしてきた。

 妹に近寄る男なんてムカつくから、預けられた手紙は燃やしたし、その後も受け取って渡さずに、風呂を沸かす燃料にしている。


「……あんなに優しい人に嫌われるくらい俺は悪い子だったのか。バチ当たりがあるかもってモヤモヤ嫌な気分だったんで、副隊長さんの欠点を聞けて良かったです。嫉妬心か。俺、全く悪くないですね」


「全く悪くないです」

 

 こんな感じで話をしていたら、スザクの家に到着。

 表札は「クギヤネ」になっていて、少し大きめの町屋という家なので、スザクは成績優秀者の可能性大。

 この家の感じだと中流層の下の方の商家なので、かなりの努力の果てに、南地区中央国立の学籍を得られた優秀生だろうと推測出来る。


 俺は卿家(きょうか)なので、華族の次に入学優遇される。

 一方で、庶民中の庶民、平家(ひらいえ)男児だと五つしか枠がない。

 この家の感じだと、スザクはその次の枠くらいの学生だ。


「スザクさんって優秀生なんですね」


「学年三位ですけど、知らないんですか?」


「えっ? あー。成績順位の貼り出しなんて見ていないんで」


「えっ、なんでですか?」


「自分の成績が及第点なら他人なんて関係ないので」


「……うわぁ。うわぁ! それ、めっちゃええ考え方です。そうか。そうしたら余計な嫉妬も焦りもありません。俺の成績は下の下の下でして」


 また考え無しに喋って、生意気とか感じが悪いと嫌悪されると焦ったのに予想外の反応。

 やはり彼と友人になれたら楽しそう。


「……イオリさんって華族枠ですか?」


「まさか。この感じで華族子息に見えますか? お礼枠です」


「ああ、もしかしてお父上が働く病院の先生の推薦ですか?」


「そうそう。副学長の娘さんが、海観光で怪我をして、先生にお世話になった縁です。二種国立になんとか合格したらコネで繰り上げ」


「では先生とお父上に感謝ですね」


「医者か薬師になってくれる頭脳明晰者を探してって言われたのに、頭脳明晰者はいても、希望者はおらず。恩返し出来ていないんで、卒業したら父の跡を継ぎます。目指せ、縁の下の力持ち」


 両腕を天に突き上げて、曲げ伸ばしをして、歯を見せて屈託なく笑ったイオリが眩しい。

 こいつには絶対に友人が沢山いるけど、今の学校だと怪しい。

 この感じは下街っぽいので、気取ったお坊ちゃんが多い我が校では多分浮く。


 医師も薬師も苦労の割には儲からない、やりがい搾取だから、なんだかんだ血縁制みたいになっている。

 俺の叔母の一人は薬師だ。血縁ではないのに努力してなったから尊敬しているけど、八つ当たりされたり、理不尽に責められる職に就きたいなんて思えない。

 同じ世の為人の為なら、もっと心労のないことが良い。


 俺は学生生活で、家柄の良い男児達を嫌いになっていったから、財務省に入って嫌がらせをするつもり。

 脱税を暴いて成敗して、下の方の区民に還元なんて胸がスッとしそう。

 叔父と共に殴り込んで、不正をお天道様の前に晒して父が裁く的な。非力でひ弱な俺でも、二人の仲間になれる方法だ。

 財務省で中央勤めとなれば、かなりの給与も貰えるし、縁談もよりどりみどり。

 縁談はまぁ、家族親戚のツテコネで、選び放題疑惑だけど。


 スザクの家の呼び鐘を鳴らし、母親に迎えられて居間へ。

 息子は風邪なので、うつすと悪いのでと、想定通りの事を言われたので、書類と見舞いの果物を渡して終わり。

 熱は下がって、次の月曜には登校出来るそうだ。

 だからスザクは俺達にサッと手紙を書いてくれて、母親経由で渡してくれた。


 家を出て、せっかくなのでという口実を使って、イオリを誘おうとしたその時、突風が吹いて俺の帽子を飛ばした。


 父に坊主にされたせいで、帽子が緩いせいだ。

 叔父に剃られた髪がせっかく伸びてきたのに、俺に腹を立てた従兄弟ジオが俺の悪事をいくつか密告したからまた坊主。

 この地でも同年代の友人がいると良いと師匠に言われたミズキは、俺と同じようにジオにも一日で自分は男性だとネタばらししようとした。


 しかし、俺はジオの騙されて悔しい! と歯をギリギリさせる彼が見たくて、ミズキに長めにと頼んだ。

 俺がジオは生真面目と話したから、ミズキはそういう人物の反応を知りたいと賛同。

 結果、ジオは本気でミズキに恋をして、文通お申し込み書を作成。

 直接渡すのは無礼なので、生真面目ジオらしく、しっかり丁寧に師匠であり親戚の叔母へ差し出した。


 結果、叔母にミズキは男性だと告げられたジオは寝込んで仕事まで休み、ミズキが謝り、俺は「法に触れない悪事に誘われて誘惑に負けるのは許せるが、友人を悪事に誘うな。兄のような人を貶めるな」と父からお説教を食らった。

 ミズキがそんなにお咎め無しなのは、この騙しが修行の一環だからで、俺のは「悪意」で「それも家族親戚に対する悪意」だから、ジオ本人よりも父が激怒。珍しく叔父がなだめてくれた。

 

 坊主頭のせいで学生帽子が風で飛び、なんでそんなに飛ぶというくらい飛び、スザクの家の敷地内に入ったので、呼び鐘を鳴らして再びお邪魔させてもらった。

 追いかけて、狭い路地に入り、塀の中の小さな中庭に落ちた帽子を確認済みなので、庭へ通してもらう。


 よく考えれば取ってきてもらえば良いのだが、そう提案されてもおかしくないのだが、その日、その時、俺はクギヤネ家の中庭へ足を踏み入れた。


 それで、これはスザクの母が、子どもの泣き声に反応して、少々すみませんと去った時のことである。


 あったあったと帽子を拾ったその時、


「お待ちになって」


 品の良い可愛らしい声がしたので顔を上げる。

 すると、母屋と離れを繋ぐ渡り廊下から同年代の女性が紐を咥えた猫をゆっくり追いかけてきて、渡り廊下から中庭へ続く三段の階段を降りようとして、よろめいた。


 危ないと思って慌てて近寄って、間一髪救助。

 男性のように短い髪や青白い顔よりも、吸い込まれそうな星のように輝く瞳に意識が絡めとられる。

 そこには昔家族で見た、流星群があった。

 

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