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連恋輪廻応報草子  作者: あやぺん
絶望ノ章
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 私はなぜこの世に生まれたのだろう、と今日も今日とて丸い窓から外の景色を眺める。

 川の近くに建てられた小さな家。それが我が家で、私の部屋なんて川の上。


 川は副神様が集まるところといい、副神様は気まぐれなので、運気の昇り下りが激しくなるというけれど、それは単に人の勝手な思い込みだろう。


 私はこの窓からの景色が好きなので、ご先祖様はきっと、好きな景色を眺めているとやる気が出るから、この土地に暮らすようになり、張り切って家を盛り立てたと考えている。


 昨年、ここから見られる河原にある木に雷が落ちて、燃えて枯れてしまった木はそのまま。

 あの木はまるで私のようだ。

 なんて、気分が滅入ると悪い事を考えがち。


 私はアズサという名前だけど、それは妖に狙われないようにつけた仮の名前で、本当はアヅサだ。

 魔除け漢字は集真藍で、ご先祖様達が職人達と共に、小さな大豆を豆腐などを作って区民のお腹を満たして幸せにしてきたように、私も小さな物事を大切にして、誰かを幸せにしますようにという願いと祈りが込められた名前。

 この国の人々は、このように名前に工夫をして、鬼や妖に命や魂を奪われないようにしている。


 集真藍といえば紫陽花なので、私は紫陽花が好き。窓の外にある庭や川向こうに見える河原にある紫陽花達が、また花を咲かす季節が待ち遠しいけど怖い。

 私はその時まで、生きていられるだろうか。

 生きたいという気力を残していられるだろうか。


 どこが悪いというところはなく、この病ですということもなく、ただただ弱い体なのが私。

 小さな頃は元気に走り回っていたそうだけど、五才の時に高熱を出して、その後からあまり動けなくなった。

 日によって体調が異なるけれど、(かわや)へ行くのがやっとということが多く、食事をするだけで疲れるし、お風呂になんて入ったら出られなくなる。


 最初は親に甘えたいのだろう、お風呂嫌いなのだろうと感じていた親も、なんだか違う気がすると薬師に相談。

 私の体は他人よりも重くなってしまったようで、他人が足や腕を持ち上げようとすると、石みたいに重量感が強いという。

 これではあまり動かなくて当たり前です、と薬師に告げられた時はホッとした。

 何人かの医師や薬師に、何度か嘘だろうと責められていたので、私自身も怠けや甘えなのだと信じそうだったから。


 家の中で針仕事を短時間くらいはなんとか。他は勉強を少々。

 書き物は筆を待ち続けるのが辛いので、勉強はもっぱら寝ながら本を読む事だ。

 下に生まれた弟二人はとても元気なので、二人に本を読むのも仕事。

 忙しい両親の代わりに、二人がきちんと勉強するか見張る事も私の役割。

 家の中をよたよた歩いて、食事は(さじ)でゆっくり食べて、お風呂は無しで母と共に体を拭いて、髪は諦めて短くしてあるので、三日に一回母に洗ってもらっている。


 一昨年判明したのだが、石を体に埋め込んだように体が重たい病気、というものには「黄泉(よみ)招き病」という名前がついていた。

 私はそこそこ美しく生まれたようで、生来悪人として生まれる人間の中では、わりと善良な状態で誕生したらしい。

 なので、黄泉で暮らす妖が食べたいと誘っているし、黄泉で暮らす副神様も「早くこちらへ帰っておいで」と呼んでいる。

 そして、副神様は自ら死ぬようなバチ当たりには幸福は与えないと私を試している。

 なにせ、私は他人よりも生きやすく産まれたのだ。

 優しい家族、そこそこお金のある家、わりと美しい容姿に、他人に好まれそうな性格など、良い持ち物を色々持っている。

 だから、私はその代償にこのような試練を与えられている。


 体が重たいとか、たまにとにかく頭が痛いとか、息が苦しいことにはなんだかんだ慣れたけど、風邪をひきやすいのは困ったもの。

 一週間程高熱を出して、延々と咳が出るのは季節ごとに最低一回はある。


 諦めないでくれる親は、あれが良いらしい、これが良いらしいと色々な治療法を探してきてくれる。

 魔法のような薬や治療はないので、どうか詐欺医療には引っかからないようにと頼んでいる。

 ご先祖様の代から続く豆腐屋数軒を守る両親は、奉公人達にとても慕われていて、やはり同じように注意されているらしい。


 旦那さんや奥さんはお人好しだし、愛娘の為に藁でさえ掴もうとするだろう。そう、見張られているとかなんとか。

 成長して、お店に出入りして、親から学ぶ弟達からそういう話を聞く。

 なので、親がお金を掛ければ手に入る治療とか、何かに祈ってすがれば助かる怪しい物や人に引っかかることはない。昔は少しばかりあったらしいけど。


 出口の分からない闘病生活や、他人に迷惑をかけるだけの生活にはうんざりしている。

 自分なりに誰かのためになろうと努力しているけど、迷惑をかける割合が大き過ぎる。

 そのくせ、私は欲が強いので、友人なるものを得てみたいし、出来れば素敵な人に片想いくらい。


 友人は多分いたことがある。

 顔も声も忘れてしまった誰かと、鬼ごっこやかくれんぼ、おままごとなんかをしたような、していないような。


 ああ、眠い。

 眠くてならない。

 昨年から、二日も三日も眠り続けてしまう症状が現れたので、三日が四日になり、四日が一週間になり、死ぬのではないかと怯えている。


 帰宅した兄が何か言ってくれたけど、私はそのまま睡魔に襲われた——……。

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