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連恋輪廻応報草子  作者: あやぺん
剣術小町ノ章
33/122

 幼馴染のテオとの文通を開始して、三回お出掛けをして特に問題がなければ結納すると決定。

 母に「お嫁さんになりたいなら、家事をもっと出来るようになりましょう」と正論を言われて、やる気が出たので励むことに。


 女性兵官見習いはしたいので、それはそれで頑張る予定だけど、まだ話は進んでいないので、まずは料理の修行!

 テオが初デートは海でお互いにお互いのお弁当を作っていこうと言うので、このまま料理下手ではいられない。


 そういう訳で、私は女学校の趣味会のうち、料理会に入ることにした。

 二月から入ることに決めて、本日土曜は母の実家へ。


 一緒に行くのは母と弟レクス。

 娘の縁談に寝込んだ父は置いていき、就職試験に備えて友人と勉強をすると出掛けるレイスと、信用ならないレイスの見張りのジオも置いていく。

 

 母の実家は小一時間くらい歩いたトト川沿いにある、中々立派なお屋敷だ。

 雑談しながら歩いて、祖父の家に到着して、家族親戚用は鍵を持っている専用の出入り口から入り、とりあえず居間へ。


 居間には誰も居なかったので、壁に掛けてある家族の札を確認。

 祖父はいつものように仕事で、職場に末っ子を連れて行き、祖母は普段通り家のことをしているみたい。


 叔父は残業で、叔母は次男を連れて職場へ行ったようだ。

 二才児のラルスは祖母が面倒を見ているはず。

 

 もう一人の叔父と叔母は普段通り仕事で、次男シイナは従兄弟シイナと一緒にオケアヌス神社へ行って、お手伝いをしたり遊んでいるみたい。


 この札で家にいるのは祖母とラルスだけだと判明。


「お母さんとラルスしかいないみたいだね。この時間なら洗濯中かな」


 母と一緒に洗濯場へ行ってみたら、祖母は叔母ウィオラの弟子二人と共に洗濯をしていた。母と共に皆に軽く挨拶。


「二人とも良く来たわね。来るって聞いてなかったけど、どうしたの?」


「ユリアがテオ君と縁結びするっていうからその報告に来た」


「……テオ君? テオ君ってあのテオ君? イオ君の息子の」


「うん」


「ユリアってそうだったの?」


 そうだったの? と質問されたので、素直に頷く。


「あらあら、あらあら。それはまた人気者狙いねぇ。幼馴染だしテオ君はええ子だからそういうこともあるわね。頑張りなさい」


 笑顔の祖母にトントン、と肩を叩かれた。


「お母さん、向こうから言うてくれた」


「向こうから? テオ君ってそうなの? へぇ。そうだったの。勘はええ方だけど気がつかなかったわ。リル、さっきの縁結びするって、お申し込みするって報告じゃなくて、お見合いするって意味?」


「うん。来週日曜に初めてのお出掛け。付き添い人はルカがええって。帰るまでいるから自分達で頼む」


 母と祖母が話を続けていく。叔母ウィオラの弟子、カナヲとマリサが話しかけて、お祝いの言葉をくれた。


「ありがとうございます」


「初デートはどちらへ行かれるのですか?」


「参考にしたいので教えて下さい」


 昨日の今日でまだ決まっていないので、決まったら教えると約束。

 遠路はるばる、遠い東地区から修行にきている二人は私の一つ年上。

 この間の年末に女学校を卒業して、卒業祝いの旅行を兼ねて、叔母のところで琴の修行中。


「あの。人魚姫さんはどちらですか? まだご挨拶出来ていません」


 カナヲとマリサの顔が曇り、マリサがためらいがちにこう告げた。


「悪夢を見たようで、夜中に飛び起きて朝まで泣いていらして、今、ラルス君と眠っています」


「余程恐ろしい目に遭ったのでしょう。なにせ記憶を失くす程ですもの」


 叔母レイとユミトが海から助けたアリアは、足が海藻でぐるぐる巻きだった、どこからどうみても異国人という若い女性らしい。

 助けた時に毒クラゲを吐いたらしく、声があまり出なくなっていて、溺死寸前だったからしばらく入院していて、意識がはっきりしたのは数日後。

 死の淵から生還したものの、彼女には記憶がほとんど無いそうだ。

 異国人だからすぐに誰か分かりそうなのに全然分からず。

 

「ユリア、昼夜逆転するとまた夜寝つきが悪くて悪夢にうなされるから起こしてきて。それで挨拶なさい」


「はい、おばあ様」


 居るところを教えてもらったのでそこへ向かい、障子を開いて室内を確認。

 一つの布団の中で、従兄弟ラルスと、ふわふわした巻き髪の美女が気持ち良さそうに眠っている。

 凹凸がはっきりとした顔立ちに長いまつ毛、豊かな大地色の巻き髪。

 私もそれなりに肌は白いけど、白さの種類が異なる肌をしている。


(人魚姫さんは眠り姫さん……)


 どこからどう見ても煌国人ではない容姿だ。


「人魚姫さん。人魚姫さん。夜眠れなくなるのでそろそろ起きて下さいませ」


 緊張しながら彼女の体をそっと揺らしたけど起きない。

 もう少し強めに揺らして声も大きくする。

 すると、


「……ん」


 長いまつ毛を震わせて、ゆっくりと目が開かれて、そこには瑞々しい若草みたいな色の瞳があり、それが美術館にある宝石みたいな輝きなので息を飲む。


「おはようございます。レオの孫、ユリアと申します。初めまして。従兄弟のラルスがお世話になっています」


「……」


 無表情で体を起こした人魚姫は、何回か瞬きを繰り返しながら、私を見据えた。


「レオさんの孫……。まだいたの。アリアよ、よろしく。お世話になってます」


 喉を痛めていることは知っているけど、耳にしたらとても悲しくなるしわがれ声。


「よろしくお願いします」


「私、いつ寝たのかしら」


 アリアはぼんやりと周りを見渡して、ふえぇとぐずったラルスへ視線を移動させて、彼の体を布団の上から優しくそっと撫でた。


「おやすみ、おやすみ、てんしの子……ゲホゲホッ! ゲホゲホゲホゲホッ!」


 ラルスの為に歌おうとしたアリアは咳き込んで、喉をおさえて苦しそうに体を折り曲げた。

 てんしは確か、異国の副神様のような存在だったはず。


「大丈夫ですか?」


 アリアの隣へ移動して、少しでも楽になりますようにと祈りながら背中を撫でる。


「ゲホゲホッ! あり、ありがとう……。この喉、嫌になるわ。あやすどころか起こしそうだったけど、ラルス君は寝ているわね。良かった」


 咳で苦しいのか、彼女の大きな瞳からポロポロ、ポロポロ涙が溢れて布団に吸い込まれていく。


「ええ。あの、毒クラゲを飲み込みかけたって聞いています」


「そうらしいわ。全然覚えてないけどね。気がついたら仰向けになって、知らない天井を見上げていたの。ユミトさんとレイさんが助けてくれたんですって」


「死ななくて良かったです」


「レオさんの孫なら、私には子供の頃の記憶しか無いって聞いてるわよね。海に飛び込んで死のうとしたなんて、何があったのかしら……」


 はぁ、とため息を吐くと、アリアは困り顔で微笑んで、ラルスを再び布団の上から撫でた。


「まっ、このまま忘れてて良いわ。親切な家族に助けてもらえて楽しいもの」


「この家は楽しいですか?」


「ええ。賑やかで優しくて楽しい」


「私もたまに遊びに来るので、仲良くしてくれたら嬉しいです」


「こちらこ……「うええええええええん!」


 またすやすや眠るのかと思ったラルスが体を起こして号泣。

 抱っこしてよしよししようとしたけど、私の顔を見て「こわい」と口にしてますます泣いて、うずくまって更に大泣き。


 ラルスは若干人見知り中だし、二歳児だから少し会わない期間があると家族親戚の顔を忘れてしまう。

 アリアと二人でラルスをあやそうと試みるも上手くいかない。

 祖母を呼ぶことにして、立とうとした時に、障子の向こうから「息子が泣いているようなので、失礼してよろしいですか?」という叔父の声。


「ちちいいいいいいい! うえええええええん!」


 小さな枕を抱きしめながら立ち上がったラルスが障子に近寄っていったので、追いかけて障子を開いてあげる。


「リルだけじゃなくてユリアも来ていたのか」


「ちちいいいいいいい!」


 ラルスは叔父にひょいっと抱っこされたので父親にしがみつき。


「叔父様、お邪魔しています」


「良く来たな。アリアさんと一緒にラルスと遊んでくれていたのか。ありがとう」


「いえ。ラルスを寝かしつけてくれたアリアさんとお喋りしていました」


「寝かしつけていたというか、単に一緒に寝ていただけよ」


「ちちいいいいい! おなかへたああああ! りんごおおおおお!」


「なんだラルス。父が恋しくなったんじゃなくて腹が減ったのか。はいはい。祖母君に頼みにいこう。よしよし、よしよし」


 叔父とラルスが去ったのでアリアと二人きり。

 何を話そうかなと思案していたら、アリアに話しかけられた。


「リルさんって方もいるなら挨拶をするわ。ユリアの姉妹?」


「母です」


 それならとアリアを連れて祖母達のところへ。

 こうして母も人魚姫と初対面してご挨拶。

 そこへ土曜なのに料理人である叔母のレイが来訪。叔母は今日も今日とて男装している。


 十代の時に職場で「女のくせに」とやっかまれてブチ切れて、美人だから男性に絡まれてウザいとブチ切れて、こうなったらしい。

 風邪で休んだ人の分、連勤になっていたから、休みなさいと言われたそうだ。

 

「おお。アリアさんはこの間よりも顔色が良くなった」


「皆さんが優しいからよ。ありがとう」


 昼食は叔母が作ってくれるというので、これは良い機会だと張り切ってお手伝いをすると宣言。

 ずーっと料理から逃げてきて、好きじゃないと言い続けていたので、レイに「えっ? ユリア? 熱でもあるの?」と言われてしまった。

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