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5.楓お姉ちゃん!

工藤さんの申し出に頷き、二人で彼女の家に向かうことになった。


無言で前を向いて歩く俺に向けて、工藤さんが明るく笑う。



「涼介って、もしかして女子の家に行くのって初めてなの?」


「俺のような平凡男子が女子に誘われるだけないだろ。彼女だって作ったことないんだぞ」


「私だって彼氏を作ったことないわよ。家に男子を呼ぶのもこれが初めてだし……」



……工藤さんの初めての男子が俺……この言い回しだと変な誤解を生みそうだな……



工藤さんの言葉を聞いた俺は緊張してしまい、会話が上手く出てこない。


その様子を見た彼女は、朗らかに笑む。



「そんなに緊張しないでよ。家にはお姉ちゃんがいるし」


「お姉ちゃん?」


「そそ、私の家って父子家庭なんだよね。父さんは仕事で単身赴任しているから、家に住んでるのは大学に通ってるお姉ちゃんと私だけなんだ」



……二人っきりになれないのは残念だけど、大学生のお姉さんか……工藤さんに似てるなら、超のつく美女かもしれないし、これは期待できるかも……



そんなことを考えていると、隣で彼女がクスクスと笑う。



「今、私に似てるお姉ちゃんを想像したでしょ。残念だけど、お姉ちゃんと私は性格も趣味も全く違うから。たぶん、お姉ちゃんに会ったら、驚くと思うわよ」


「そんなこと言われると、逆に興味が湧いてくるんだけど」


「期待しといてね」



二人で雑談をしながら歩いていると、目の前に高層のマンションが現れた。


何も気にすることなく工藤さんはマンションの玄関に入り、パスワードを入力してロビーに続くドアを開ける。


そしてエレベーターに乗り込み、十五階のボタンを押す。


密室に二人っきりになったことで、さらに俺の緊張は高まり、ちょっと心臓の音がうるさい。


やっとドアが開いて、廊下を歩いて一つの扉に向かい、カード型の鍵を通して、工藤さんはニッコリと微笑んだ。



「ここが私の家よ」


「お邪魔します」



二人で玄関に入ると、既に明かりが灯っていて、どうやら工藤さんのお姉ちゃんは在宅中のようだ。


彼女は俺を案内しながら廊下を歩き、ある部屋の扉を開けて、室内いる者に向けて声をかける。



「楓お姉ちゃん、友達を連れてきたから、くれぐれも邪魔しないでよね」


「綾音ちゃんじゃないのー? それよりもお腹空いたから、何か料理を作ってよー」


「だから友達来てるって言ってるじゃん。料理なら後からしてあげるから」


「お姉ちゃん、昨日の夜から何にも食べてないんだよー。そんな冷たいこと言わないで、ちょっとしたモノでいいから、食い物プリーズ」


「もう、楓お姉ちゃんなんて知らない」



工藤さんは額に青筋をたてて、バタンと扉を閉める。


そして俺の手を握って「行こう」と言って廊下を歩き出した。


するとドタバタと音がして扉が勢いよく開け放たれ、白衣を着て、長い黒髪がボサボサの、眼鏡をかけた女性が飛び出してきた。


そして俺の方へ指差して、腕を震わせる。



「男?」


「そうよ。私も普通の女子高生なんだから、男友達を部屋に呼んだもいいじゃん」


「いやー、あの奥手だったヒマリが、男子高校生を部屋に連れ込むなんて、成長したもんだねー」



……青蘭高校一の美少女ギャルが奥手……何かの間違いじゃないのかな……それとも家族の前では奥手のフリをしてるってことなのか……



ニヤニヤと微笑む楓お姉ちゃんを、工藤さんがキッと睨む。



「からかってんの?」


「いやいや純粋に妹の成長を喜んでるんだよー。それで今日はヤルの? それならお姉ちゃん、お邪魔だから外に出かけるけど。さすがにお姉ちゃんでも、妹の喘ぎ声を聞く趣味はないからさー。ちゃんと用意してる? コンドームいるならあげるけど?」


「そんなモノ、いらないって! 涼介、早く部屋へ行きましょ」



工藤さんは急いで俺の手を握ると、スタスタと歩いて部屋の扉を開けて室内に入り、バタンと扉を閉める。



「ごめんね。お姉ちゃん、ちょっと変わってるから」


「そうだね。……工藤さんとはかなり違ったタイプというか……」


「楓お姉ちゃんって、高校生の時まではオタクだったの。それで大学に入ってからは、よくわからない研究をしてて、頭はすごくいいんだけど、ちょっと変わってるの。だから私は楓お姉ちゃんと同じになりたくなくて」


「だからギャルになったわけか。なんとなく気持ちは理解できるよ」



……あのお姉ちゃんの風貌を見習いたい女子はいないよな……



ちょっと落ち着いて周囲を見渡してみる。


するとキレイに整理された部屋に、ベッドの上に置かれた可愛いぬいぐるみの数々が目に飛び込んできた。


そして自分の部屋では嗅いだことのない、甘くて良い香りが鼻を刺激してくる。


そのことで今、女子高生の生の部屋に訪れているという事実が脳内を巡り、体に一気に緊張が走り抜けた。


ギクシャクしたまま硬直している俺に向けて、工藤さんが笑って、頬を少しピンク色に染める。



「ここに座ってて待っててね。私は隣の部屋で着替えて、飲み物を取ってくるから」


「うん……」



扉を開けて部屋を出ていく彼女を見送り、指示されたテーブルの前に座ってみるけど、気分が落ち着かない。


ソワソワした気持ちで窓の方へ視線を向けると、円形型の小さな物干しハンガーに、工藤さんのモノであろう、赤のブラジャーとパンティが干されていた。


ブーッと口から息を噴き出して、慌てて顔を逸らすと、扉から顔を出している楓お姉ちゃんと目が合った。



「やっぱり男子高校生だねー。ヒマリがいない内に、洗濯したてのパンティとブラジャーを見てたって、告げ口しちゃおうかなー」


「それだけは、どうかお許しを」


「うむ、素直な男の子って好きよ」



……出会ってすぐに弱味を握られるなんて……なんだか楓お姉ちゃんには勝てる気がしないんですけど……

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