1.プロローグ
高校一年間もあっという間に過ぎ去っていったなー。
春休みの休日を利用し、繁華街まで足を伸ばした俺は、建ち並ぶビルを見ながらボーっと考える。
受験に合格して、私立、青蘭高校に入学した時は中学時代と違って、もっと充実した毎日を送れると胸をワクワクさせたけど、現実はそれほど甘くないわけで。
まあ、自分のスペックを考えると――容姿も体格も平凡、スポーツも勉強も平均値、オシャレに敏感なわけでもなく、人の注目を集めるような特技も持っていない。
客観的にみてみれば、どこの学校にでもいる空気みたいな男子、言い換えればその他大勢のモブの一員。
それが俺の現実的な立ち位置なんだよな。
「あ~暇だ。何か面白いことねーかなー」
そう呟いてはみたものの、街中を歩いているだけで、何か面白いことが起こるわけもなく、そんなことを常日頃からわかっていることだけど。
暇な時はいつもだけど、いったい俺は何をしたいんだろうか……
高校一年になってから、同じクラスになった男子とは、それほど仲よくはないけど、それなりに会話もするようになったし、女子とは挨拶程度はするようになった。
そう……あくまで挨拶程度で、まともに女子と会話をしたことがない。
中学時代とは違い、高校一年生になると、リア充グループ、いわゆる学校のカーストの頂点のグループに属する男女は、毎日のように学校でイチャイチャしていていたりする。
俺の妄想ではあるが、そういう連中は休みの日になれば、陽気な仲間で遊びに行ったり、二人でデートに行ったりして、恋人気分を楽しんでいるに違いない。
なんとも羨ましい……それに比べて、俺の日常はなんと虚しいことか……あー、ちょっと凹んできた……
自分の考えに少し落ち込みながら、トボトボと歩道を歩いていると、目の前の角から女子が二人飛び出してきた。
そしていきなり、俺の腕に自分達の腕を絡めて体を押し当ててくる。
それに驚いて目を白黒させていると、二人を追いかけてきたように三人の男子が現れた。
「声かけただけなのに、逃げなくていいじゃん」
「アンタ達と一緒に遊ばないって言ってるじゃん」
「待ち合わせしてるって言ってるでしょ。しつこく誘われても無理だから」
一人の男子の言葉に、女子二人が噛みつく。
すると男子達が視線を移して、俺を睨んできた。
「こいつが、待ち合わせの男かよ。めちゃダセーじゃん。こんな奴、放っておいて俺達と遊ぼうぜ」
「うっさいわねー、私達が誰と遊ぼうが、アンタ達には関係ないじゃん」
「嫌がる女子を追いかけまわす、そっちのほうがダサイじゃん」
「こっちが優しく誘ってやってるのに、いい気になりやがって」
女子二人の言葉を聞いて、男子達は目を吊り上げて、一歩前に体を踏みだした。
……奴等、女子二人にバカにされて、意地になり始めてる。このままだと引っ込みがつかなくなって、強引なこともやりかねないぞ……
まだ状況はよくわからないけど、仲裁に入るしかないかな……
「ちょっと三人とも落ち着けって。二人の言葉遣いが悪かった、そこは認める。でも厳つい男子に囲まれたら、女子がビビるのは当たり前だろ」
「お前には関係ねーだろ」
「二人は俺と待ち合わせしてたんだから関係あるだろ」
「うるせーんだよ。お前は引っ込んでろよ」
男子の一人が間近まで詰め寄ってきて、俺のシャツの胸倉を掴む。
……やっぱりこうなったか……だから揉め事ってイヤなんだけどな……
俺はその手を掴み、周囲を見回して、男子に向けて呟く。
「周りを見ろ。ここで俺を殴ってもいいが、そうすれば必ず通報されるぞ。そうなれば、俺も女の子達も警察に素直に証言する。そうなって困るのはお前達だろ。少しは頭を冷やせよ」
ここは繁華街の中央にある大通りの歩道だから、行き交う人々も多いし、何が起こっているのだろうと立ち止まっている野次馬も多い。
俺の忠告で、男子達は慌てて周囲を見回して一歩後退する。
そんな彼等に、俺はペコリと頭を下げた。
「さっきも言ったけど、彼女達が煽ったのは謝る」
「ダセー奴、チッ、行こうぜ」
そう言い残して、男子達は走って、角を曲がって消え去った。
「ふー、助かった……うわぁ!」
緊張が解けたと同時に、両腕に当たっている弾力のある柔らかい胸の感触が伝わってきて、慌てて女子二人から強引に腕を引き剥がす。
そんな俺の様子に、女子達がニッコリと微笑む。
「あいつ等、断っても断っても誘ってきてさ。助けてくれてありがとね」
「あれ? どこかで見たことあると思ったら、私達と同じ高校の同級生よね。ヤッホー」
「え……工藤さんと、香坂さん」
「そうそう、こんな所で会うなんて奇遇だねー」
……さっきは男子達の相手で手一杯だったし、慌てていて女子達の顔をきちんと確認していなかった。
彼女達二人は、青蘭高校の中でも一際目立つ、美少女ギャルとして有名な工藤陽葵さんと香坂綾音さんだ。
もちろん高校では空気のような存在の俺が、学校カーストの頂点にいる二人と、話しをしたこともなれければ、挨拶をしたこともないのだけど。
助けた女の子二人が、学校でも有名な美少女だと気づいて、ドギマギしている俺に工藤さんがニコリと笑う。
「今日はありがとね。これから映画を観ないといけないから。まだ学校で会おうね」
「もう遅れちゃうから、これで行くけどさ。次に会ったら、キチンとお礼はするからね。またねー」
この出会いで何か特別なことが起こるのかと、ちょっとワクワクしていた俺の期待を裏切って、二人は笑いながら走り去っていった。
……平凡なモブの俺に、そんな幸運が舞い込んでくるはずないよね……




