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星空の思い出

作者: なをゆき

「今の時期、天の川きれいですよ」


 ちょっとしたことから職場の先輩の、20歳ほど年上の福井さんが天文ファンだったことを知った。福井さんとはあまり面識がない。


 福井さんは星の話をすると止まらない人だった。

「自分の天体望遠鏡で撮ったんですけどね」

と土星が画面いっぱいに映ったスマホ画面を見せてくれた。

「これを?福井さんが?へぇ」

私はすっかり感心してしまった。天の川の写真もきれいに撮れていた。


「でも、東京で天の川なんか見れないですよね」

「まあ、車でちょっと行けば肉眼では見れないけど写真撮影はできますよ。東京でもね、天の川は無理だけど土星の環とか木星の縞模様、あとは北極星のポラリスなどは普通に見られますよ」

「北極星、ポラリス、ですか……」


 ちょっとしばらくぶりに星空を見てみたくなった。


 月明かりの影響がない、晴れた夜に近郊の夜景観察スポットをネットで検索して行ってみた。


 行く前に近所の家電量販店で星全体を見るのにいいという双眼鏡を買った。

倍率は大きくないが双眼鏡のレンズで集める光はより星を見やすくしてまた広く見渡せるので星空を見るのにいいという。


 少し暗くなり始める頃目的地の駐車場に着いた。

天体望遠鏡を持ち込む大きな荷物を下ろす人が何人かいる。


「あれ、小泉さん」

俺を呼ぶ声は福井さんだった。「来たんですね」


「コレ、買っちゃいました」双眼鏡を見せると福井さんはなんだかうれしそうな顔をした。


 福井さんが「一緒に見ましょう」と言ってくれたので一緒に観察させてもらうことにした。初心者用に惑星や星雲を見せてくれた。だけど私の本命は別だった。


「小泉さんはこれを見に来たんでしょう」


 福井さんは天体望遠鏡をのぞくよう促してくれた。

「福井さん、これは……」

北の星空を福井さんは私に見せてくれたのだ。


「そう、私もあの星の人間でした。あの星がなくなる直前に避難船で逃げてきた者の一人です」


 そうなのだ。私はある星系の惑星に住んでいた「異星人」だ。地球でいえばポラリス、つまり北極星の方角の星。


 私たちの星は寿命を迎えなくなってしまった。


 自分たちの星が滅亡する直前に星の住民は何とか避難船で逃げることができた。

 私と「福井さん」は地球に避難できた中の人間だったのだ。


「福井さんは俺のこと、知っていたんですか?」

「たまたまだよ。地球に来てみんなと離れ離れになって、ずっと一人だった。小泉さんが故郷の話を話しているのを聞いて、ああ、私の故郷とそっくりな話だな、と気が付いたんだ」


 さらに福井さんは話してくれた。

「この地球からは確かに星が砕けた跡すら見えないけど、北半球にいれば北の方角の星がいつでも見られるからね。俺はここにいるぞ、って思えるんだよ」

「はい、それは地球に避難してきてすぐの頃に今は死んだ父親も同じことを言っていました」


 なんだか北の空を見て久しぶりに涙がでてきた。どうせ肉眼でみようとしても見られるものでないので涙は拭かない。流れるまま流れろ、と思った。

福井さんの目にも涙がこぼれているようだったが暗くてよくわからなかった。


 この夜、俺は福井さんと東の空が明るくなり始めるまで星の思い出について語りあっていた。

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