表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

9・くそったれ荒野の渡り方



 未知のエリア、百魔荒野。


 このエリアをちょっと探索してみて分かる事は、この荒野が完全な不毛地帯であると言う事だ。


 岩と砂、そして瓦礫しか存在せず、まるで火星(想像)の如き荒れ果てた大地。おそらく雨も殆んど降らないのだろう、生物の痕跡がほぼ見当たらない。

 いずれダンジョンを構えるにしても、流石にこんなハードな場所を選ぶ事もない。少なくともこんな過酷な土地よりマシな所はいくらでもある筈だからだ。


 と言うか、遥か彼方にはうっすらと山脈が見えるので、この世界が全てこんな不毛地帯しかない訳ではないと思われる。うん、是非そうであって欲しい。


 で、こんなクソ荒野を脱出するにあたり雅隆たちが考えた脱出方法。それはとりあえず方向を一つ定めると、後はただひたすら真っ直ぐ一直線に歩き続ける、そんなド素人みたいな適当理論であった。

 そう、この荒野エリアが無限でない限りいつかは絶対に脱け出せる筈、それがこの誰でも思いつくド素人案の唯一の救いであった。


 ま、出来る事ならエリア全体を把握するのが理想なんだろうけど、残念ながらスマホゲーム「ダンジョンアンドガールズ」には、こんな広大なエリアをマッピング出来る様なキャラは存在しないのだから仕方がない。


 だってこれ、基本的に狭いダンジョン内で戦うゲームだし。


 それに無理して中途半端なキャラを召喚しなくても、敵の察知だけならエヴァもエレイヤもそれなりに可能だ。幸いエレイヤの加入でサバイバル能力もアップした事だし、ならば細かい事は考えずにざっくり行こうじゃないか、となったのである。


 ところが…。


 実はこの荒野を歩いてすぐに、雅隆たちはさっそく新ユニットを召喚せざるを得ない事態に見舞われる。

 そう、雅隆みたいな不摂生極まりないサラリーマンやってたおっさんが、長時間歩き続けられる訳がなかったのだ…。


 そもそも一日目から予定の距離もほぼ稼げず、しかも2日目にして筋肉痛でダウンする始末。

 当然ながらこんな奴がいたら全然先に進める訳がない。


「え、筋肉痛で動けないって…、マジ?」


 エヴァさんのそんなストレートな言葉が、雅隆のショボいハートにザクザクと突き刺さる。エレイヤさんもフォローしてくれるが、あまり意味は無かった模様。


「仕方ありませんわ、雅隆様は人の上に立つべきお方、こんな下々の者がする様な雑事には向いておられないのです」


 ほ、褒め殺し、と言うかなんだろ、とりあえずエレイヤさんはしばらく静かにしてて下さい…。


 ただ正直エヴァとしてはこれ以上無駄なポイントは消費したくはなかったが、流石にダンジョンマスターを捨て置く訳にもいかない。仕方なく輸送系のサポートユニットを召喚する事と相成った。

 中途半端なキャラは不要。そう言ったにも関わらず、早くもここで追加キャラの登場である。


 で、その新キャラは、モフラマンダーと言う茶色い毛並みの大トカゲ系モンスターだった。そう、爬虫類のくせに何故か毛が生えているのだ。


 名前は「ディメ」


 短い毛皮が特徴の大トカゲだ。

 名前の由来は不明だが、名前付きのネームドモンスターでもある。ただ正式な名前はディメストラクスとか言うんだけど、長いので誰もディメとしか言わない。

 設定では変温動物のモフモフ爬虫類とあり、体重は約400キロ、体高約1メートル。馬より少し重心が低くてずんぐりしていて、短い毛並みの触り心地がとても良い。騎乗可能な特殊ユニットの一種である。


「へえ、悪くないじゃん」


 無駄なポイント支出には渋い顔をしたエヴァだが、ディメの逞しい身体をバシバシ叩く。なんか気に入った様子だ。

 ただシバかれるディメが落ち着かなそうなのは、エヴァさんとの武力差をはっきり感じているからだろうか。なかなか空気の読める奴だな、長生きしろよ。


 ところで、以前にも言った様にこのゲームには男キャラは一切存在しないが、ペット枠とかテイマー用のモンスターなんかは僅かに存在する。

 で、このモフラマンダーのディメも、何らかの限定キャンペーンで配布されたキャラの一つだった。なお女体化なんかはしません、常にモンスターのままです。


 ちなみにこのモフラマンダーのディメは雑食性で基本何でも食べるのだが、幸いな事に専用のエサが付属していた。つまり自前のお弁当持ちユニットだ。

 ゲーム内でエサをあげて喜ぶ姿を愛でよう。そんな仕様が標準装備されていた訳である。ま、そのおかけでこいつの食糧問題を気にせずに召喚出来るのはかなり助かる。


 で、さて。


 この未知の荒野を探索するにあって一番注意すべき事、それはやはり例の蟲モンスターだろう。

 と言うか、ぶっちゃけこの百魔荒野でこの蟲以外のモンスターを見かける事は一度もなかった。

 一体この蟲モンスターはこんな所で何を食べて生きているのか?。ま、そんな謎などまったく興味ないけど、兎にも角にもこの荒野エリアにはこの蟲モンスターしかいないと思われる。


 そんな蟲モンスターだが、当然ながらここはゲーム世界じゃないのでエリア内のモンスター配置にはバラつきがあった。

 つまり居ないエリアには全く居ないが、何故か居るエリアにはうじゃうじゃと群れて居やがるのだ。


 実際にそんなモンスターの溜まり場に、雅隆たちの進路がぶつかる事が何度かあった。

 一匹一匹は普通の…と言うか、分類的には良くいるザコモンスターなのだが、それが群れを成して襲って来るとまた話は変わってくる。はっきり言ってそれは精神的に嫌悪感MAXの物量攻撃、ぶっちゃけ悪夢であった。


 それにザコモンスターとは言うものの、非戦闘員の雅隆やエレイヤにとってはそんなたった一匹でも倒せるかどうか…。

 いや、たぶん死ぬ。

 特に雅隆なんかは、蟲一匹との等価交換さえ出来ないだろう。

 なので蟲の大群と遭遇した場合、雅隆とエレイヤはテントにしているかまくらドーム内で震えて待機だ。もちろんかまくらの出入り口は閉鎖し、防御力を爆上げしておくのを忘れない。

 そして一人、エヴァだけが外へ出て迎撃と言う訳である。


 一応エヴァは剣もかなりの腕前らしいが、それ以上に単なる高火力の魔法攻撃が圧倒的だった。エレイヤさんが「だ、大魔導師級なのですね…」と震えてたっけ。

 それからモフラマンダーのディメも戦えなくはないが、エヴァの流れ弾が当たるともれなく死ぬのでこいつも震えて待機組だ。もちろん震えるのはエヴァに対してである。


 てな訳で、戦果をまとめるとこの荒野における大きな「蟲の群れ」との交戦回数は計4回。その襲撃をエヴァはたった一人で迎撃し、約150匹もの蟲をぶっ殺した。

 これはスマホから討伐モンスターの総計が見れるので、そこから逆算したものだ。

 蟲一匹が平均40Pで、最終的に約6000Pが加算されていた。塵も積もれば中々のボーナスである。


 ただ、やはりエヴァも女の子だ。


 いくら序盤の雑魚モンスター相手とは言え、見た目のグロいクリーチャーが闇夜(※この蟲は夜行性だった)にウジャウジャと迫って来られたらどうしても気持ち悪いのは避けられない。

 それでも戦い自体はなんなく殲滅するんだけど、グロい蟲がもたらすキモいプレッシャーは密かにエヴァの精神こころを削っていた様だ。何しろ帰って来たら膝カクカクさせて片言カタコト喋りだったし…。


 まあ何なら最悪、別のダンジョンガールを新たに追加召喚しても良かったんだが、しかしエヴァは泣き言を一切口にせずやり切った、漢である。

 ただこの荒野を出る時、こんな所もう二度と来るもんかとは言ってた…。




 そして雅隆がこの異世界に転生してから10日後。

 一行はついに百魔荒野の外縁に到達した。


 砂と岩石しかなかった荒れ地に、少しづつ貧弱な下生えが増え始め、そして次第にハゲ散らかした様なみすぼらしい林が出現する。

 で、そんなスカスカの林間をさらにしばらく進んで行くと、突然ポツンと一つ小さな村が雅隆たちの目に入った。


「え、なんだろこれ、なんか村とは言うには少し…」

「そうですね、どうも即席チックな雰囲気がします…」


 そうエヴァとエレイヤが感想を述べる。

 ただ雅隆にはその違和感と言うか、その違いがいまいち分からなかった。何しろ異世界の村なんてこれが初めてだ。なので何がどう正しくてどう間違いなのかがさっぱり分かんない。え、村は村だろ?。

 だが村に近付くにつれ、遅ればせながらようやく雅隆もその違和感に気付かされる。(ほんとか?)


―なるほど、確かになんだろう、な〜んか違うよなぁ…。(もうちょっとがんばれよ)


 言われてみれば確かに妙な村だった。

 建物がぎっしりコンパクトにまとめられ、村は土塁や柵でしっかり囲われていた。そして家屋はどれも真新しく簡単に解体や増設が出来そうな感じがするのである。

 どうにも変な村を発見した雅隆たちは、まるで吸い寄せられる様にそちらへと向かう。すると村外にたむろする村人が、はっきりとこっちを向いて雅隆たちを凝視した。なんだか雰囲気が剣呑である。

 それほど慌てた様子ではないが、中には明らかに武器を用意する奴もいる。しかもほぼみんな男ばかりだ。


 そんな険しい表情の男たちがあちこちでざわつくもんだから、荒々しい気配も露わな男たちがさらにゾロゾロと雅隆たちの元へと集まって来る。そしてそうなると自然と政隆たちもその歩みを止めて男たちと対峙する事に。


「な、なんだろ…?」


 つい不安が口に出る雅隆。


 すると突然、鋭い大声が雅隆たちに叩きつけられた。

 迸る緊張感にテンパる雅隆。

 だが雅隆には、村の男たちが何を言ってるのかさっぱり分からなかった。


 そう、言葉が通じないのだ…。


―そ…、そら異世界に来たら普通そうなるよな…。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ