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5・食料を何とかしよう



「はぁ、なんだか分からない内に終わっちゃったな…」


 雅隆は、軽い目眩を感じながら周囲を見回した。

 するといつの間にかエヴァが死んだ蟲モンスターの一匹に近寄り、剣で突いたりひっくり返したりして眺めていた。


―なに遊んでんのこの子?。


 そう雅隆は思ったが、どうやらエヴァはモンスターの死体から身体能力とか防御力とかを推測しようとしていたらしい。

 何しろこの初戦闘はたった一瞬で決着してしまったので、このモンスターの攻撃方法やパターンやらは全く分からないままだったからだ。


 え、じゃあ時間を掛けてゆっくり倒せば良かったのでは?と思ったが、初見の敵は一体どんな攻撃をして来るか分からないので、多少オーバーキルになっても素早い討伐を優先したとの事。


 例えば毒とか精神攻撃とか、知らないと対処の難しい攻撃はいくらでもある。

 それにエヴァだけならともかく雅隆が居るので、最大限リスクの少ない方法を選択したのだそうだ。


―すいません、ご迷惑おかけします…。と雅隆


 そして今、エヴァは死骸から出来るだけその生態や特性を推測中と言う訳である。

 こうして徐々に情報を蓄積させながら最適な攻撃方法を確立して行くのだそうだ。


―重ね重ねすいません、素人が生意気言いました…。雅


 ところでこの蟲モンスターだが、どうやら身を隠しながら徐々に雅隆達へと近付いて来たらしい。

 そして雅隆の隙を突いて襲い掛かって来た所をエヴァが「炎の剣」で瞬殺カウンターしたと言う訳である。

 ちなみに雅隆もエヴァもこんなモンスターをゲームで見た事がなかったので、これはますますゲームではないオリジナルな異世界に来た可能性が高まったと言えるだろう。


 それにしても分かってはいた事だが、やはり雅隆は戦闘において何の役にも立たない事が判明する。

 そんな自らのショボい有様に首を捻っていたら、スマホが軽快な電子音を発した。

 スマホを取り出すと画面に通知が入っていた。見ると、この蟲モンスター3体の撃破が記載されており、このモンスターをポイント化するかどうかの可否が示されている。


 なるほど、実際にゲームでは自動的に処理され、結果も殆んど見る事はなかったがリアルではこうなるんだ。

 ちなみにここでポイント化しない事を選べば、モンスターを素材として使えるって寸法である。

 そんな雅隆の様子を察したエヴァが「どうしたの?」と寄って来たので、ポイント化についての表示画面を見せる。


「ふ〜ん…」


 これについてエヴァは殆んど興味を示さなかった。なので雅隆は試しにYesボタンを押してみる事に。

 すると画面が切り替わり、3分割されたフレームにそれぞれ3体の蟲モンスターが映し出される。そして画面上でマーカーがチカチカとターゲットを表示したので、ポイント化の最終確認ボタンをタップしたら…。

 少し離れた所に転がる三つの蟲モンスターの死体がそれぞれ魔法陣に囲われ、消えた。


 スマホを見ると、ちょうど電子音と共に加算された総ポイント数、計120Pが表示された所であった。


「「すっくな…」」


 少ない…。

 やはりこれはザコモンスターと言う事か…。


 ところで、この一連の行動はゲームシステムの一部によるものだが、さらに詳しく説明すると、いわゆるアイテムボックスと言う機能の一種である。


 そう、あのアイテムボックスだ。


 当然ながらこれは元のゲームにも存在した機能で、さっきの様なポイント化にも使えるし、何ならアイテム倉庫として収納する事も、取り出す事も出来る。

 とは言え、これは雅隆の個人的な能力ではなくスマホありきの能力なので、スマホの操作さえ出来れば誰にでも使えるものだ。正直、雅隆にとって残念極まりない話である。


―せめてアイテムボックスくらい俺自身にくれよな…。


 だが、やはりこのアイテムボックス系の能力はあったらあったで便利なのは間違いない。

 ちなみにアイテムボックスの中には、そのステージ用に持ち込み可能な所持アイテムがそれなりに収納されていた。これは雅隆が所有していた全てのアイテムではなかったが、その規模からもこのステージ設定がかなり巨大である事が伺える。

 ただアイテムの出し入れには魔法陣を出現させる事が必須で、特に収納の時は(蟲モンスターを還元したみたいに)アイテムとして認識する必要があった。なのであまり緊急時の利用には向いていないだろう。


 で、さて。


 突然だが、雅隆はここでいずれお腹が空く事を見越し、ゲーム内で売ってるフード系のアイテム召喚を試してみる事にした。

 一応アイテムを出せる事は分かったものの、問題は本当にちゃんと食べれる物が出て来るのかと言う事だ。何しろ元はダンジョンの運営がメインで、リアルな生活感ある要素などむしろ邪魔、そんなゲームだったから殆んど食事のメニューなんかある訳もない。

 そんな中それでも存在する理由は、当然ながらネタアイテムとしてである。


―もう嫌な予感しかない…。


 だが、それでも雅隆としてはそこに賭けるしか無かった。もしかしたら出て来るモンスターが食べられる感じの奴かも知れないと言う一縷の望みは、つい先程ばっさり断ち切られた所だったからだ。

 角ウサギとか、○○ボアとか、そんな耳にした事のあるモンスターだったら何とかなったかも知れないが(※どっちにしろ雅隆に解体は無理だが)、こんなクリーチャー感丸出しのグロい蟲に出現されたらもう嫌悪感はMAXでしかない。


 試しにエヴァに食えるどうか聞いてみたらナチュラルにキレられた。ご、ごめん…。


 となると残るはもうゲーム内のフード系アイテムで乗り切るしかないのである。

 それにしても異世界転生したこの場所が酷すぎる、よりによって岩と砂以外何も無いんだもん。しかもそんな蟲モンスターでさえそんなに遭遇する訳ではないみたいなので、よっぽどここは寂しい所なのだろう。


 で、例のフード系アイテムだが、雅隆はこれらを購入した事が一度もなかった。と言うのもそれはネタアイテムだからだ。

 雅隆は時々変な所で効率厨になるせいもあって、そう言う所は厳しかったりするのだ。

 では何故そんなネタアイテムが定期的に作られて存在し続けているのかと言うと、それは他社製品とのコラボ企画だからである。


 まあ、身も蓋もない理由だね。


 雅隆にはいったい何がウケているのかさっぱり分からなかったが、どう言う訳か定番企画として定着していた。

 そして今バージョンのコラボ商品は、ずばりハンバーガーであった。


 しゅい〜んと魔法陣からホカホカのハンバーガーが出現する。


―うむ、パッと見は本物っぽい。


 すると、エヴァが雅隆の懸念を気にもせず速攻で食べ始める。しかも結構ノリノリな感じでだ。一応食料として問題がある可能性を指摘しておいたのにだ…。

 しかしまあ普通に美味しそうだったし、中身の具も本物っぽく見えた。結局エヴァはすぐに食べ終えて、もう一つ食べて良いか聞いてきたので雅隆も一緒に食べてみる。


 う〜ん、一口齧って見たところ、本物のハンバーガーにしか思えない。しかも期間限定のスペシャルメニューだからとてもボリューム感があって普通に美味しい。

 だがそれ故に、何とも言い難い猜疑心に包まれる雅隆であったと言う。


―いや、だってこれゲーム産だよ?。一体誰が作っているの?。しかもここに現れたと言う事は、何処かから補充されてるって事だよな?。じゃあどんな流通経路を辿って来てると言うのか?。

 どこかの工場に異世界行きラインが存在したりするのか?。それとも生産途中で紛失してたりするのだろうか?。そしてそもそも本当にこれは本当に本物なの?。


 などと気になる事は一杯あった。むしろ食品サンプルみたいな偽物が出て来て「やっぱそう来たか〜w」となった方が論理的には安心出来ただろう。

 ま、その場合はその場合で危機的な食料問題が発生するのだが、マジな食べ物が出て来たら出て来たで雅隆としては疑ってしまうのであった。面倒くさい男ですみません。


 雅隆が一人モヤモヤしながらハンバーガーを咀嚼していたら、ここで突如エヴァの髪の毛が発光した。


「えっ、はぁぁっ!?」


「あー、今回はそう言う効果だったか…」


 慌てるエヴァの茶髪が赤々と燃え始めた。

 髪の毛が逆立ち、ボボボ…と音を立てて激しく波打つ。


「ちょっ、なにこれ?!。えっ、なんなのこれっ?!」


「落ち着け…。言っただろ?、副作用があるって」


 しばらくすると雅隆の髪の毛も副作用の発動で赤く燃え始めた。これこそがネタアイテム故のおもしろ効果である。

 果たしてこれは本当に人気があるのか、それとも運営が悪ノリして喜んでるだけなのかは雅隆には分からない。ただゲーム内では当然食べられないので、それを補う為のバカバカしいイタズラ効果。それがD&G特有のイベントの一つとして認知されていたのだ。


 まあこれだけ長く続くと言う事は、一定のコラボ効果があったのだろう。実際にこれらを使ったドッキリ企画とか縛りプレイとかでプレイヤーたちは盛り上がったりしていた。

 雅隆にはあまり関係なかったが…。


 ちなみにこれまでにあった副作用の例としては、他に眼がキラキラするとか、影が踊るとか、まあそんなのがあったのを雅隆は憶えている。

 なお、今回のコレは燃えている様に見えるだけなので全然熱くはない。


 そしてすぐそれに慣れたエヴァは、普通にハンバーガーのおかわりを要求したのだった。

 よく食うね、君…。







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