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3・貴方が私のマスターかよ?



 スマホの召喚ボタンをタップすると、雅隆の前方に直径1メートル程の魔法陣が現れた。

 雅隆がびっくり狼狽えていると、魔法陣から半透明な人間の爪先が現れ、次第に上へと形成されてやがて女性の立体画像が完成した。そしてその立ち姿が徐々に現実化し、本物の人間となってこの異世界に顕現した。


「マ、マジかよ…」


 彼女の名は流々崎るるさきエヴァンリーサ。スマホゲーム「ダンジョンアンドガールズ」に登場するダンジョンガールの一人である。

 それにしてもスゴい美少女だった。

 柔らかい栗色の髪と瞳、透明感ある肌にスラリと伸びた手足。

 でもよくよく考えてみたらそりゃあ美少女な筈だ。だってゲームでのイラストも超人気の美少女キャラだったんだから。


 ただ当然ながら2次元のイラストが現物化したので完全にそっくりそのままとはいかない。しかしその面影は確実に存在していた。長年彼女を使っていたプレイヤーとしては感涙ものである。

 しかも一応このエヴァンリーサこと通称エヴァは、設定では何処かの国との日系ハーフだったのだがそう言う風味もしっかりと感じられる。まさにとても良く出来た3D化と言えるだろう。

 ちなみに彼女の年齢は17歳と言う設定である。


「〜〜〜」


 雅隆が感動と驚きに言葉を失っていると、目に光を宿したエヴァが雅隆の存在に気付いた。

 すると、その端正な美貌から晴れやかな笑顔が溢れ出す。


「貴方がマスターね、喚んでくれて嬉しいわ!。あ、名前を教えてよ?」


 これまた瑞々しく心地よい響きが、雅隆の心を激しく揺さぶる。


―えっ、あのエヴァンリーサが動いて喋ってる、それも現実に。こ、これって単なるアニメ化より断然スゲーじゃん!。


 ジ〜〜〜ンと、しばらく雅隆がその余韻に浸っていると、流石の美少女エヴァンリーサから突っ込みが入った。


「あの…、ねえちょっと、どうしたの?」


「ハッ………」( ゜д゜)!


 目の前を手のひらでヒラヒラされた雅隆は、強引に美少女の真正面と言う表舞台に引き出された。


「あっ、ご、ごめん…。

 えっ、今なんて?」


 ぶっちゃけしどろもどろだった。


 ま、何しろ雅隆はただでさえ彼女いない歴=年齢の悲しき男である、それが今まで見た事無いくらいの美少女に近寄られたら、もうそれだけでバグるのは当たり前だ。

 そしてこう言う時のテンプレ的な光景の一つとして、美少女の方はすぐに冷めてクール化してしまうのだった。


「いや、あなたの名前を聞いてるんですけど…?」


 エヴァのトーンが素に戻り、召喚直後の華やかなオーラも心なしか薄れて見える。

 が、一方の雅隆もこの歳でかなり拗らせてる剛の者だ。普通なら一旦テンパってしまったらそう簡単に元に戻る事はないのだが、このエヴァの生々しい反応に触れた雅隆は、逆に通常運転へと戻る事が出来てしまう。

 と言うのも元々雅隆は、エヴァンリーサと言うキャラをマルチメディア化や二次創作などで慣れ親しんでいた。そして勝手ながらすでに他人とは思っていなかったのである。

 ま、要するに雅隆にとってエヴァンリーサは、元々普通に接する事が出来る素地がたっぷりあったと言う訳だ。


「あ〜ごめん、俺は米宮雅隆、よろしくね」


 何故かスムーズに言葉が吐き出され、自分でも内心びっくりの雅隆。

 そして結構グダりかけてたおっさんが突如まともなおっさんになり、その落差に戸惑うエヴァンリーサ…。


「あ、うん、米宮雅隆ね、分かったわ…。

 あ、知ってると思うけど私は流々崎エヴァンリーサ、こちらこそよろしくね」


 ぎこちない初対面だったが(主に雅隆のせいで)、何とかごく普通の挨拶にまで漕ぎ着ける事が出来た二人であったと言う。



「あ〜、ところでさ。早速で悪いけど、もしかしたらここら辺に危険な生物が潜んでるかも知れないんだけど…。

 自分、そう言うのと戦ったり出来る…、よね?」


 雅隆は、本当にダンジョンガールが召喚出来てしまった事に正直驚かされたが、しかし当初の最優先問題を彼は忘れてはいなかった。

 そう、いくら浮かれていても身に迫る危機を忘れてはいない。そう、忘れてはいないのだが、ただここで新たな別の問題が発生した。

 と言うのも、喚ばれて出て来た彼女は超美少女で、しかもぶっちゃけ雅隆より小柄と来たもんだ。

 そんな女の子に、社会的価値が底辺のおっさんを差し置いてモンスターと戦わせようだなんて、果たしてそんなフェミニズムに反する行為がこのご時世に許されるのだろうか?。雅隆の中途半端な物言いは、そんな思いから吐き出されたものであった。


 が―。


「えっ、それは任せてよ、だってその為に私は喚ばれたんだから。

 で、そいつはどんな奴で何処に居るの?。ま、どちらにしてもそんな奴、私が速攻で仕留めるから心配は要らないわよ」


 そうエヴァは快活に答えてくれた。と言うか、むしろ逆にやる気満々である。

 ただし、いざ「任せて」と言われても、実は危険生物が実在するのかどうかは分からないんだよな…。


「ごめん、本当に居るかどうかは分かんないんだ。ただ現れてからじゃ遅いのであらかじめ君を喚んだ。何しろ俺って全然戦えないからさ…」


 だって戦闘スキルどころかショボい能力すら一つも無いのだ。もはや乾いた笑いしか出て来ない。


「別にそれはいいじゃない、どうせダンマスを戦いの最前線に立たせる訳にはいかないしね。

 まあでも、私が居るんだから大丈夫よ、どうせこんな初期配置で現れる敵なんて大した事ないでしょうし」


―い、意外とこの子、ゲーム脳的な発言をするなぁ…。でもそっか、結構ちゃんとゲーム内の役割を分かってくれてるのかもな。


 雅隆は何だか救われた気持ちになった。自分には何一つ能力は無いが、こんな美少女が代わりに守ってくれるのだ、しかもやる気満々で。

 そう思うと、いつの間にか会話も気軽に捗るってもんだ。


「あ、そう言えばさ、今居るこの場所って「百魔荒野」って言うらしいんだけど何か知ってる?」


 例のスマホをフル活用して得た情報によると、どうやらこの世界は特殊ステージ扱いになっていて、今の所かなり巨大なマップである事しか分からなかった。そして現在地だけが百魔荒野と記載されていたのだ。

 しかしゲームでは初期配置が出来る所は限られていて、しかも百魔荒野なんて聞いた事が無い。雅隆も結構やり込んだプレイヤーの一人なのでそれは間違いないだろう。

 ただもしかしたらエヴァが何か知ってるかも知れないと思ったので、そこんとこをエヴァさんに聞いてみたのだが…。


「ごめん、私、地名とか全然分かんない…」


「あー」


 いや、まあ雅隆も女の子に地理的なものはあまり期待してなかったよ。ま、知らないのなら仕方ない。

 ただそれとは別に、雅隆にはここで一つだけどうしても気になった事があった。それは彼女のアイデンティティーと言うか、個人としての認識についての事だ。

 雅隆もエヴァについては好奇心から聞いてみたい事はいっぱいあった。しかしぶっちゃけ彼女がゲームキャラである事をどう受け止めているのか、そこはしっかり把握しておかないといざと言う時に困った事になるのではないか、そう危惧したのである。


 なので雅隆はぶっちゃけ聞いてみた。


 すると、なんとエヴァは自分がゲームキャラであると言う事をはっきり認識していた。しかも自分がゲームキャラの設定としてそう言う履歴と記憶を持ち、この世に生まれ出たのが今さっきであると言う事も。


 いやいやいや。


 まさか雅隆もそんな身も蓋もないくらい正確に状況を把握しているとは思わなかった。

 雅隆としては、てっきり何処かリアルな異世界から時空を超えて召喚されて来たり、ゲームのキャラだった事を知らずに偽の記憶を持っていたりと、そんな謎の処理がされてるもんだと思っていたのだ。

 確かに、正しく状況把握してくれてた方が話を合わせたり気を使う必要がなくて助かるが、そんなド直球な解決方法で本当に大丈夫なのか、矛盾はないのかと心配になってしまう。

 とは言え、それで特に問題無いのならそれはもう雅隆が口を出す必要はないのだろう、たぶん…。


 で、さて。

 そんな多少の不安を感じつつも、とりあえず雅隆は現在の苦境を脱する必要性からさらに話を進めた。

 するとエヴァは地理的な記憶力に関係なく、この異世界についての知識は何一つ持っていない事が分かった。もちろんゲーム内の情報については、雅隆並の知識があったにも関わらずだ。

 一応ゲームキャラだからそれに関連してこの異世界に対する予備知識を知ってるかとも思ったが、残念ながら現地情報は皆無だった。

 ただエヴァンリーサも転生前に存在したステージやマップ情報自体は知っているので、この今居る異世界がゲームに存在したマップ内と言う訳ではなさそうである。


 だが何にしても色々考えるのにはここまでだ。ここからは実際に動いて確認する方が早い。

 幸いな事に心強い護衛が確保出来た。後はこの世界が実際にどうなっているのか、それを実地で探ってみるしかないだろう。


「よし、それじゃあちょっと周辺を探索してみようかな」








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