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23・エヴァと必殺の特殊部隊



 エヴァは、慌てず騒がず両手の「剣」を前方に放り投げた。


 せっかく新しく作り出した二振りの「剣」だが状況が変わった。ゾロゾロと迫りつつある歩兵より先にヤバそうな特殊部隊がエヴァに到達しそうなのだ。

 そこでエヴァは急速に迫る特殊部隊の進行を少しでも妨げるべく、急遽「剣」で壁にしたと言う訳である。


 巨大な「剣」が地響きを上げて崩れ落ちる。


 一方、エヴァへと最短最速で迫る特殊部隊にとって、突然ターゲットを隠す障害物は目障りだった。

 実際に「剣」の胴回りは3~4メートル。無制御で放り投げられたせいで多少崩れたものの、それでもまだ2メートルくらいの壁と呼べる存在感があった。正直こんな妨害のされ方は初めてだろう。


 特殊部隊はほんの少しだけ速度を落とすと、足並みを揃えて一斉に横倒しの剣を乗り越えた。

 すると乗り越えた特殊部隊がエヴァの姿を再捕捉した瞬間、エヴァの「炎の槍」が弾幕となって襲いかかる。数十発の槍がタイミングばっちりで特殊部隊に突き刺さった。


 だがまあこれは当然だ。


 この特殊部隊は明らかに肉弾戦に特化した動きを見せていた。そしてその思考も徹頭徹尾、捨て身で刺し違えてでも殺る。そんな殺意に溢れた集団だったからだ。

 そんなあからさまな敵を前にしたエヴァの取るべき選択、それはまず炎の槍で迫る戦士たちの足並みを乱す事である。


 はっきり言って超攻撃的戦士であるエヴァに効果的な足止め魔法などほぼ無い。結局は迎撃するにしても攻撃的にならざるを得ないのだ。なので、とりあえず炎の槍をばら撒きノックバックさせてお茶を濁したと言う訳である。

 何しろエヴァにとって一番困るのがタイミングを合わせた一斉攻撃だからだ。


 いかにエヴァが桁違いの強さを誇っていても、四方八方から同時攻撃されたら防御の手が足りなくなるのは不可避。まあエヴァならそんな攻撃ですら凌げるかも知れないが、もしかすると敵がヤバい奥の手を用意している可能性も無くはない。

 あるかどうかは分からないが、しかしこれは実戦。たとえラッキーパンチでも絶対に食らう訳にはいかないのである。

 だからエヴァは敵の細い勝ち筋をとことん潰しに行ったし、敵の特殊部隊もカウンターがあるのを承知で、それでも素早く詰め寄る事を優先したのだろう。


 炎の槍を食らわなかった約半数の戦士、それがそのまま一気にエヴァへと迫る。ただその間にもエヴァから炎の槍が連射され、その波状攻撃によりさらに足並みを乱される。

 そしてエヴァの目の前へと到達した最初の戦士は5名。

 ついにエヴァを自分たちの間合いに捉えた5人の戦士は、ここぞとばかりに必殺の一撃を解き放った。


 まるで大口径の弾丸みたいな剣撃がエヴァに叩き込まれる。


 このように一方的に攻められると、ほんの少しでも隙を見せられなないエヴァとしては受け身に回らざるを得ない。だがエヴァは余裕を持って一、二歩と後退しながら、竜化した手足で攻撃を捌きつつ反撃を加えた。

 ちなみにエヴァは今、剣等の武器を握っていない。と言うのも、竜化した手足は下手な武器より攻撃力があったからだ。


 激しい攻撃が交差する中、エヴァの一撃で致命傷を食らって吹き飛ぶ特殊部隊の戦士。バッサリ斬り捨てられる者も居れば、手足を折られ骨を砕かれる者も。

 しかし出遅れた戦士たちが次々とその隙間を埋め、戦闘密度はむしろヒートアップする。次々と人員を削られながらも、部隊全体でエヴァの防御を崩そうとする特殊部隊。


 まさに質VS量。


 次々と倒れ伏す戦士たち。そしてその背後に続く特殊部隊のメンバーはすでに自分たちの不利を実感していた。流石にこのまま同じ様に攻めては負け確定だ、もはやなり振り構っている状況ではない。

 いつの間にか彼らはプライドも捨てて体当たりでエヴァを押し倒し、何なら手足にしがみついてでもエヴァの行動力を削ごうとしていた。

 しかしこれがエヴァに触れるどころか近寄る事すら叶わない。まさに鎧袖一触、まるで取り付く島もなかったと言う。


 それ故に、その攻防はすぐに決着した。


 飛び散る血煙が止み終わり、全ての敵部隊が血だらけで横たわる。

 やはり番狂わせなどは発生せず、当たり前の様にエヴァが迫る敵全てを叩き伏せたのだった。


 この一瞬の攻防に掛かった時間は約十数秒。ほんの僅かな時間でしかなかったと言う。

 でもまあ実戦とはそんなものだ。別に互いが見せ場を作ろうと思って戦う訳じゃないから当然である。いや、むしろ誰でも理想として最短で最大効率の展開を思い描いて戦うもんだし、誰だって力の拮抗した長期戦、消耗戦などは避けたいと考える。

 つまる所、お互いが自分の戦術プラン通り早く終わらせたいと考えているから大抵そうなるのだ。


 ただこれだけ圧倒的な力の差を見せつけたエヴァだが、一方で彼女が敵の攻撃に感心していたのもまた事実。

 エヴァからするとこの特殊部隊はパワー不足ではあったが、彼らの技術や覚悟、そして戦術にはかなりレベルが高いと感じさせられる物があった。

 小細工が一切無かったのも肉弾戦に特化していたからであり、おそらくエヴァ以外の相手にはこれで充分通用するのだろう。そんな研ぎ澄まされた刃の様な姿勢は、エヴァをして天晴れと思わせるだけの物があったと言う訳である。


 戦士たる者、かく在るべし。


 エヴァは、残心の境地で静かに事後感を醸し出していた。彼女の求める戦いの満足感がかなり高かった証拠だ。

 ま、実際にこの局地戦が公爵軍にとって最大にして唯一の勝ち筋であった訳で、そんな虎の子の精鋭部隊を真正面から駆逐したらそら爽快に違いない。

 蛇足だが、そんな最上級戦士が揃って全滅した侯爵軍の弱体化は、喫緊の課題として涙無しには語れないだろう。


 ちなみにもしもまだ同じ様な特殊部隊が控えているとしたらそれは悪手だ。

 何の策も無い戦力の逐次投入は、この場合単なる各個撃破の餌食にしかならない。そんな理由でエヴァは同じ様な特殊部隊はもう無いと判断したし、それは正しかった。

 もしそんな必殺の特殊部隊が存在するのなら、ケチらずにまとめてドカンと投入すべきだからである。


 で、さて。 そんな最終決戦を終えてエンドロールが流れてもおかしくない状況だが、とは言え現場の一般兵士たちにとってその事実は全くの認知外であった。

 何しろ大半の兵士は、たった数十人の先行部隊が壊滅した事実などなんの事やらさっぱり理解の範疇になかったからだ。

 まあ大抵の下っ端兵士と言うのはただ言われるがままに攻撃参加してるだけで、詳しい作戦内容なんて一切知らされてなかったりする。


 なのでエヴァは速やかに掃討戦へと移行した。


 敵は大軍ゆえ、数における優位性を疑っていない。

 実際はもう決着が着いているのだが、それを分かってないバカが多いと言う訳である。

 となると、戦況に疎い大多数の雑兵にも分かる様に、きっちり敗北確定の狼煙を上げてやるしかない。


 てな訳で、エヴァは先ほど救助されて行った公爵の追跡を開始した。何故ならもし軍団の最高指揮官が捕まったとなれば、たとえ何処の誰でも分かる勝利条件になるだろうからだ。

 流石のエヴァも何千人と群れなす人間を全て蹴散らすのは面倒極まりない。 ま、面倒な事はグゴルマーリンが何とかしてくれるだろうが、エヴァが単独で効率を考えたらやはりそうなる。

 エヴァ的には出鼻を挫く格好で敵の大将を捕らえるのはNGだが、こうして勝敗が決着してからトップを押さえるのはOKらしい。

 それにこんな事もあろうかと公爵には追跡アイテムでマーカーを仕掛けてあったのだ。実は逃がす気ゼロでした。


 ブレハム砦の決戦として知られるヴァルリック公爵軍との戦いは、こんな感じで幕を閉じたのだった。





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