19・グゴルちゃん、動きます
「おいお前、早く準備に取り掛かれっ!」
レムサリスが振り返りもせず、側で控える一団へと声を掛けた。
「俺の名前はザムギャッハだ、さっきも言っただろ」
その中の一人、ボロいローブに謎のアクセサリーを大量に装備した変な男、ザムギャッハが声を上げる。
「わかったから、さっさと作業を始めろ。それがなきゃ始まらないんだからよ…」
レムサリスは不安そうにそう呟いた。と言うのも、この魔法使いザムギャッハは覇者剣のメンバーではなく、唯一の外注メンバーだったからだ。
一応しかるべき信頼出来るルートから要望通りの人材が派遣されたのだが、レムサリスの全く知らない人間なのに加え、さらになんか変な格好のせいで信頼感が全く湧かないのである。見た目って大事だ。
「安心しろ、壊せない魔法など存在しない。ただ処理に掛かる時間はモノによるってだけだ。
要するに、問題はあんたらがどれだけ時間を稼げるかって事だぜ」
ザムギャッハは完全な後方支援の魔法使いだ。
だけど、流石に目の前の美少女戦士が尋常じゃないのは分かる。そんなモンスターみたいな敵を相手に、長い詠唱を必要とする後衛の魔法使いがどれだけ成果を出せるかと言うと、やはりそれは頼りになる前衛次第なのだ。
一方レムサリスは、ザムギャッハのセリフを聞きながら女戦士エヴァを注視していた。
どう言う思惑かは分からないが、エヴァは自分から攻めて来ようとはしない。まあその方が助かるのだが、とは言え理由が良く分からないのは少し気になる。
ただ、このエヴァと言う戦士にも守るべき主君が居て単なる戦闘バカでないのなら、慎重を期して主の側を離れないと言う気持ちも理解出来る。おそらくはそう言う事なのだろう。
だがもし状況が変わってこちらに単騎で突っ込んで来るのなら、それは全力で阻止しなければならない。
レムサリスは、9人の覇者の剣に目線で注意を促した。
最悪、覇者の剣だけでエヴァを食い止める必要がある。何しろこの典礼騎士団は全く期待出来ないからだ。
「さあ認証官さんよ、これが命令コードだ。さっさと認証してくれ」
レムサリスたちの後方で、ザムギャッハが堅苦しい軍服を着た男に、小さな魔方陣を掲げて見せた。
すると軍服の男は、その魔方陣に自ら展開した魔方陣を重ね合わせる。
「うむ、認証された。
ではこれから300カウント(約5分)の間、「竜の心臓」の稼働を許可する」
軍服の男が淡々とそれだけ言うと、ザムギャッハはにっこりと邪悪な笑みを浮かべたのだった。
「おやおやぁ~、なんだかこれは穏やかじゃないですねぇ~」
所変わって厨二の結界術師グゴルマーリンは今、地上五メートルの結界の天辺に座って戦場を見下ろしていた。
「な、なんでそんな所に?」と雅隆。
もちろんそれはより厨二感を演出する為である。実際にグゴルは結界の端っこで、足をブラブラさせ悦に浸っている。
でも困った事に眼帯をしているせいか距離感が掴み辛いんだよね。←だったら外せよ。
なので人目を気にしながらも、時折眼帯をズラしてはチラ見する事に。て、それ意味ないよな。
そんなグゴルの足下では、 エヴァが二本の剣を地面に突き刺し、腕を組んで敵の出方を待っていた。
だがエヴァもようやく敵陣で新たな動きがあった事に気が付いただろう。騎士団の布陣が、エヴァに対する包囲から後方の本陣を護る陣形にシフトしたからだ。
そして、同時に巨大な魔力の奔流が敵本陣で蠢き始める。
どうやら騎士団たちは、エヴァを直接武力で抑え込む事を諦めた様だ。その代わり膨大な魔力を使って大魔法攻撃を後方からブチかます、そんな戦法に切り替えたのだろう。
ただ狙いがエヴァなのか、それとも結界内の雅隆かどちらかは分からない。しかしエヴァはその魔法が完成して発動するまで動く気がなかった。何故ならエヴァは、敵がどんな魔法を使うのか単純に興味があったからだ。
「と言う事で、ここはグゴルちゃんの出番なのですぅ~」
一方グゴルは、敵の攻撃を速攻で潰す事に決めていた。
役割的にエヴァは最前衛の剣だ。敵の攻撃にどう対処するかは結構な選択肢が存在する。何しろまだエヴァの後にはグゴルが控えているからだ。多少ミスっても最終的にグゴルがカバーしてくれる。
しかしグゴルは最後衛の盾だ。彼女の失策はチームの運命に直結する。守りに関してエヴァは温い対応が許されるが、グゴルはそうはいかないのだ。
ちなみにエレイアは魔法こそ使えるが、これほどの大規模な戦闘では全く役に立たなかった。
「ああ、雅隆様…、大丈夫なのでしょうか?」
不安そうに雅隆の腕に抱きつくエレイア。そしてそんなエレイアの頭を優しく撫でる雅隆。
お前ら…、いくらする事が無いからってこんな所でイチャつくなよな。
「さ~て、敵さんが何するつもりか知らないけど、サクサク行きますよぉ~。
て事で、敵陣のど真ん中に、突然ゴーレム召喚!」
騎士たちはエヴァの反撃を警戒し、エヴァの正面に念入りな防御陣形を敷いていた。
だがグゴルはそんな防衛線を一気に飛び越え、巨大な魔力が渦巻く敵陣の真っ只中へ土の魔導兵を召喚したのだった。
ゴーレム召喚、これは防御に特化した結界術師グゴルの数少ない攻撃手段の一つである。どちらかと言うと「召喚」と言うより「創造」に近いのだが、似たような物なのでまあいいでしょう。
で、そのゴーレムの数、20体。
体長四メートル程の巨大な土塊が、敵陣の地面から盛り上がって現れた。
その造形は、まさにクリーチャー。
言うならばそれは土で出来た不定形の怪物であった。
おそらく器官としては機能していないだろうが、落ち窪んだ眼窩に叫び声を上げそうな大きな口。むしろその巨大な体躯よりも不気味なビジュアルこそが一番ヤバかった。
そんな圧倒的な質量を伴う巨大ゴーレムが突然足下から出現したのだ、騎士たちの大混乱は必至である。
「そ、そんなバカなっ?!」
「クソッ、最初から罠が張ってあったのか?!」
騎士たちがそう喚き立てるのも無理はない、何故ならゴーレム召喚とは遠距離攻撃とかではなく単なる魔法の発動だからだ。
そもそも召喚魔法と言うのは、あくまでも術者の管理された領域内にしか召喚出来ない。つまり大抵の場合は術者の足元にある魔法陣だ。
なのでもしも遠く離れた位置に狙い澄ました召喚をするのなら、誰が見ても分かる様な準備が必要だ。そしてその法則はグゴルでさえ決して抗う事は出来ない筈だった。
じゃあそれはどうしてなのかと言うと、なんと騎士たちはすでにグゴルの管理領域下に居たからだ。
いや、もっと言うと。
実はグゴルを中心とする半径約300メートルの周囲一帯は、完全に結界術師グゴルマーリンの領域下に置かれていたからだ。
つまりグゴルは、事前に領域化の準備を終了させていたのである。
そして一度完全に領域化されてしまったら最後、グゴル以外のあらゆる能力や魔法効果は減衰され、逆にグゴルの能力は大幅に強化される。
領域化するのに時間は掛かるしそう長くは維持し続けられないが、はっきり言ってこの領域内におけるグゴルは完全無敵。おそらくエヴァですらこの領域内では勝てないだろう。
「ん~、それにしても誰が誰だか、わっかんないですねぇ…」
グゴルは目視でこの大魔法のメインの使い手を探してみた。だがグゴルの視力が普通過ぎていまいち特定出来なかった。(だったら眼帯を取れ…)
出来るならば、この魔法攻撃を主導する魔法使いをピンポイントで潰して結界に対する攻撃を終わらせたかった。と言うのもどうやら敵の魔法攻撃は、グゴルの結界破壊に的を絞っていたからだ。
一番外側の結界からは、急速に浸食される気配がグゴルにも伝わって来る。これはグゴルがこの世界に来て最大級の攻撃であった。
敵陣からは膨大な魔力の流れを感じるのに、それをこんな搦め手で使おうとするのが意外だった。
つまりこの攻撃すら戦術の一環でしかなく、要するにまだ他にも次策が用意されている可能性があった。なかなか雅隆たちの戦力を正確に推し測った上での攻撃と言える。
しかしエヴァを差し置いてこの場に乗り出した以上、ここはグゴルが単独で終わらせなければならないだろう。
そうでなければ格好がつかないからだ。
「ええ~い、さっさと終わらせちゃいなさ~い!」
ここでグゴルは、さらに20体のゴーレムを追加で召喚した。
まあ普通ゴーレム召喚って、そんな奇襲性があるわけでもなければ簡単に大量生産出来るものでもないんだけど、この領域化された管理下ではもはやワゴンセールの叩き売り状態である。今のグゴルにとってゴーレムなど何体召喚しようと大したコストでもないからだ。
ボロボロと土塊を零しながら、生者を呪うゾンビの様なゴーレムがまた新たに現れた。そしてグゴルの適当な命令を受け、ゴーレムたちの動きが加速する。
一応、間接の無いゴーレムなので動きながらも延々と土塊を撒き散らすのだが、ゴーレムたちは多少の損耗など気にもせず、土石流の様に騎士たちを呑み込んで行ったのだった。




