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17・儀式儀礼の代弁者VS暴力の権化



 恐ろしい女だった。


 アムス・ラムゼンは突如辺境に現れた謎の女、エヴァを思った。


 いや、あれは女と言うかそもそも人間ではない、化物だ。貴族ディアロデムを優に超える魔力と見た事もない魔法。全く底の知れない化物だった。


 一見すると天使や女神の様な美女で、その言動も自由そのもの。おそらくあの強大な力は生まれつきだ。あの素直で無垢な振る舞いや言葉遣いから、間違いなく血の滲む様な努力や苦悩の末に得たものではないだろうと言うのが、アムスの見解だった。

 ま、だからそれがどうしたって話だが、アムスは自分が諦めた武の限界を遥かに超えるエヴァの姿を思い浮かべながら、重々しい溜息を吐いた。


「その女は天魔族とは違うのですか?」


 覇者の剣の現団長、アルザクス・エレバウザーがそうアムスに尋ねる。


「いや、天魔族の特徴は一切なかったな、特に頭もイカれてはおらんかったし。

 ま、見た目が美しいのは似ているが、そもそも仕草や服装から天魔族どころか我々ともまた全く違う文化が感じられた…」


 アムスは思い返す様に目を閉じると、ま〜た辛気臭い溜息を吐いた。

 ところでここはバルモラの首都で、覇者剣騎士団本部にある団長の執務室。そこでアムスは調査結果の報告に来ていたのだった。


「先生は、その女が何だと思われますか?」


 覇者剣騎士団の団長アルザクスにとって、アムスはかつて直接剣の指導を受けた先輩であり師匠であった。

 王国最強騎士団のトップと言えども、頭の上がらない人間はいくらでも居る。特にアムスは今でもOBとして騎士団を支える裏方の一人である。信頼出来る数少ない人物だが、それ故に一生頭が上がらない人物の一人だった。


「全く分からんな…。

 とにかく荒稼ぎして金が欲しい様子はあるが、工作員にしては動きが派手だし、罪を犯して国を追われてやって来た感じもない。

 諸国を巡って武者修行の旅でもしておるのかもな?」


 アムスがお手上げだとジェスチャーで表わす。


「え…、それじゃあ全く何も分かってないのと同じじゃないですか?。先生、もっとしっかり仕事してくださいよ…」


「冗談もほどほどにせい、だいたい儂みたいな年寄りにあんな危ない橋を渡らせるとは何事じゃ。隙を見て近づいてみたものの、逆に殺されるかと思ったわ…。

 ちょっとした旅行気分でいたら、危うく命を落とす所だったのだぞ?。ブリバルドには悪い事をしてしまったわい…」


 アムスは、バタッとテーブルに突っ伏した。


「いや、まさか本当にアムタルクスを討伐してたとは…。

 ただ、これで訳の分からん連中だと言う事は分かりました。まあ後はこちらでお任せ下さい、先生の命は無駄にしませんよ、しばらくは慎重に情報を集めるとしましょう。

 と言っても結局は上がどう判断するかですが」


「儂、まだ死んどらんし…」


 アムスは苦々しく目を閉じ、その後の流れに思いを馳せた。


 そう、いくら化物の様に強かろうと、所詮は個人の武勇などたかが知れている。アムスに個の限界を痛感させた国家と言う巨大権力は、たとえ伝説の英雄ですら跪かせるだろう。

 それが政治の世界の凄い所であり、そしてつまらない所でもあった。


 この世からまた一つロマンが消えてしまうのだろうか?。


 この時アムスが抱いたそんな感傷が、いかにしみったれた物であったかを思い知るのはまだもう少し先の事だったと言う。




 アムス・ラムゼンがギルド村にやって来て約1ヶ月経ったある日の事。


 ギルド村に、今度は国からの使者が訪れた。


 ただこの使者はあくまで先触れで、正式な使者団の本隊はまだまだ首都を出発した所であるとの事。

 そしてその先触れが言うには、その使者団の長はかなり高位の儀礼官であり、使者を待ち受ける側の雅隆たちはちゃんと礼儀正しくお出迎えしろとの事。だってかなりのお偉いさんだから…。


「はあ?、やってらんない…」


 エヴァがちょいキレる。


「だるっ」


 グゴルもそれに便乗した。


 ちなみにここ最近グゴルは、何故か左目に眼帯をしていた。もちろんこれはファッションだ、ウゼぇから誰も突っ込まないけど。


 で、話は戻って、ギルド村のお節介な情報通オヤジによると、やって来るその使者団はエヴァのアムタルクス討伐を讃える為に派遣されたと言う。


 とうやらアムタルクスの群れが居るせいでこの地の開拓はなかなか進まない。なのでそんな状況の改善にこれからも尽力して欲しい、そう言う意味があるらしかった。そしてもちろんその後、首都の王宮に招待されるだろうとも。


「ま、せっかく褒めてくれるって言うんだからいいんじゃない?」


 ここ最近、主人公の癖にめっきり引きこもり著しい雅隆が、スマホをポチりながら素っ気なく呟いた。

 そう、雅隆には分かっていたのだ、自分が活躍出来る出番はもう無いだろうと言う事を…。


 そして、ついに使者団の本隊がギルド村の入口にやって来た。


 まず最初に、統一された鮮やかな武装を纏った騎士たちが先兵として到着。

 その後、使者たちを乗せた豪華な複数の馬車がゆっくりその姿を見せると、騎士たちが一糸乱れぬ動きで整列した。


 ただ、騎士たちの動きは機敏で統制されていたものの使者の登場までが長かった。

 よく分からない謎の作法に則ってちんたら準備を始めるのだが、それがまた遅々として進まない。一応みんなキビキビとは動いているが、一体何の為の動きなのかが分からない。ちゃっちゃと終わらせろや…。

 ちなみにギルド村のギルド民たちは、村の中から総出で野次馬化していた。


 そんな中、奇跡的に準備が整うと満を持して現れたのが使者団の長、儀礼官ダムザインだった。

 まるで劇中の俳優の様に着飾った儀礼官は、開かれた馬車の扉から優雅に一歩を踏み出したと言う。


 ところがその時、思いもよらず周辺が慌ただしい事にダムザインは気付いた。

 それもその筈、目の前に敷かれた豪華な敷物の先、対象者であろう「エヴァ」らしき女たちが跪かずにぼんやり立って待っていたからだ。そしてそれを何とも出来ずに狼狽える先触れたち。


 ダムザインは一瞬にして怒りで頭を沸騰させた。

 何たる不手際、たったこれだけの事が何故出来ないのか?!。


 しかしそれでもダムザインは己の職務を遂行すべく、強い精神力で怒りを鎮めることに成功した。つまりほんの僅かに歩みが淀んだがそれもごく一瞬の事。ダムザインは感情を押し殺し、颯爽と軽やかに歩いたと言う。

 むしろ感情の乱れを露わにしたのは、傍らでダムザインを補佐する従者たちだった。彼らはダムザインの一瞬の怒りを察知し慌てふためいたのだった。


「どう言う事だ、何故彼らは平伏して待っていない、先触れはいったい何をしていた?!」


 取り巻きたちが口々に周囲を恫喝する。が、先行した使者たちは混乱するのみで何故か要領を得ない。

 不測の事態だが、ダムザインは儀礼官としての威厳を保ちつつエヴァたちに近付いた。儀式はもう始まっている、今さらやり直しは効かない。もはやこの状況は自分が正すしかないのだ。


 と、ここでダムザインはさらにおかしな事に気付いた。それはエヴァたちの周囲が、半透明の膜の様な壁に覆われていたからだ。


 それはグゴルの結界だった。


 使者の先触れたちが面倒な事を言い始めたので、仕方なく取られた措置である。

 流石に何時間も前から村の入口で待ってろとか、儀礼官が到着したら膝を着いて出迎えろなんてのはあまりにも雅隆たちを見下した物言いだ。

 まあ雅隆は長いものに巻かれるタイプなので、そう言うものかとあまり気にはしなかったが、エヴァとエレイヤはその命令に憤慨した。

 だがそれを拒否すると先触れたちに詰め寄られ、下手するとこのまま揉めて死人を出しそうだったので(エヴァが)、グゴルに結界を張らせて互いを隔離したのだった。


 ダムザインは先触れたちの静止を振り切り、その結界の鼻先まで歩み寄った。

 確かに不気味なエネルギーを感じるが今のダムザインには関係ない。


「控えよ、我が名はダムザイン。

 我こそは師父教国バルモラの儀礼典範を司る代弁者である。我が言葉はバルモラの言葉、我が意はバルモラの意、疾く跪き慈悲を乞いなさい!」


 ダムザインは拡声スキルで周囲一帯に宣告を轟かせる。するとそれを聞いた従者連中や騎士たちが一斉に跪いた。ついでに社畜根性に染まった雅隆も釣られて跪きかけたが、エヴァが襟首を掴んでそれを阻止する。


 ブラ〜ンとエヴァに吊り下げられる雅隆。


 エヴァはそんな雅隆を側に居たエレイヤに手渡すと、一人結界を進み出た。

 ポイッとされた雅隆を抱き止めるエレイヤ。なんだか二人で嬉しそうに見つめ合って、あんたらこんな時に何してんの…。


 で、ダムザインの目の前に立つと、エヴァは冷徹な眼差しと共に口を開いた。


「あのね、私たちはこの国の人間じゃないの、だからそんな御託は知ったこっちゃないわ。と言うか、お前らこそまず常識的な礼儀を弁えるべきね」と。






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