13・巨獣アムタルクスの斬り刻み方
豪角獣の群れ、その数10体。
その中に2体だけミニサイズの子供が居るものの、その子供ですら立派な大人の象くらいあるんだからなんかおかしい。
そしてそんなスーパーヘビー級モンスターの群れが今、むっちゃ環境を破壊しておられる…。
いや破壊と言うか、これが彼らにとって普通のお食事スタイルなのだろう。ただ人類共通の感覚で言うと、巨大重機が土木工事を行っている様にしか見えないだけだ…。
そんな巨体から繰り出される破壊的な所業を、エヴァはきわめて複雑な面持ちで眺めていた。
と言うのも、やってる事の規模はともかくとして、こうやって群れで嬉々として食事を楽しむ姿を見ていると、何故か狩るべき対象としてのモンスター感が薄れてしまうのである。
エヴァはその見た目ゆえに想像しにくいが、実のところその性格はゴリゴリの武闘派だ。しかも結構こだわり派の面倒臭い戦士だったりする。
なので何の敵意もない野生動物(クソデカいけど)が飯食ってる所を不意打ちすると言うのは、ハンターでないエヴァにとって「なんか違う」のである。
そして一度そう感じたら最後、どうしても戦う気が失せるのだった。
「え…、どーしよ?」
エヴァは何も無い平原の真ん中でポツンと一人、立ち尽くしていた
ちなみに他のハンターたちは皆なんらかの遮蔽物の陰に隠れ、アムタルクスの食事風景にどん引きしている最中である。
「ちょっとエヴァ、そんな所に突っ立ってないで早くこっちに隠れなさいよ…」
ニムロンナの一人、黒ギャルのムーゴリッサがなるべく小さな声でエヴァを呼ぶ。
それに気付いたエヴァがふと振り返ったその時―。
「あっ、後ろ…」
振り向いたエヴァが、数十人からなるハンターの後方を指差すがもう遅い。
「うわっ、「草走り」だぁーーっ!」
なんと、ハンターたちは無警戒な背後から別のモンスターの襲撃を許してしまったのだ。てゆーか斥候や探索係も一緒になって隠れてどうするの?、仕事しなさいよ…。
草走りは、長い手足のスマートな身体をした大型の四足獣だ。そのアスリートの様な肉体で、草原を高速移動する機動力に特化したスピード系モンスターである。
ただ唯一の欠点、それは鼻の潰れた猿の様な醜悪な面構えだった。
身体は空気抵抗を意識した流線型スタイルなのに、頭だけは統一性をガン無視したブス面。そんな酷いビジュアルと、その代償で得たかの様な狡賢い知能のせいで、この草走りはあらゆるハンターから嫌われていた。
ただ草走りの能力はかなり機動力に特化しているので、攻撃力自体はあまり大した事がないのだが…。とは言え、一匹一匹は大した事なくても、群れで襲われたら厄介なのはどんなモンスターでも同じである。
草走りの群れは十数匹。
襲われたハンターの悲鳴と、それに呼応して迎撃するハンターの怒号が飛び交う。
「バカ野郎っ、草走りくらいでオタつくんじゃねえっ!。早く追い払えっ!」
草走りは攻めては引き、素早いヒットアンドアウェイでハンターに混乱をもたらした。
ここでハンターたちは焦った。明らかに草走りはここで騒ぎを起こす事を目的にしていたからだ。
「ちょっとアンタら騒ぎすぎっ!」
焦ったムーゴリッサがキレて大声で喚く。
そう、草走りはアムタルクスの注意を引く事でハンターの混乱を誘ったのだ。
自分たちだけでハンター数十人の一団を襲うのは無理でも、アムタルクスを上手く使えば勝算は十分。
何しろアムタルクスの縄張り意識は強い。こんな所に不自然なほど大量の人間が屯していると知ったら、間違いなく苛ついて追い払いに来るだろう。
だからこそハンターたちもここで騒ぐのがクソヤバい事は死ぬほど理解していた。
「ムーゴ…、あんたの声の方がうるさ…、あっ!」
が、ここでついにアムタルクスが動き出す。ムーゴリッサの魂の叫び(大声)はむしろアムタルクスに届いてしまった様だ。
と言うか、この騒ぎはとっくの昔に気付かれていたので、彼女の罪自体は軽いと言えるだろう。ただその軽率な行動には反省が必須と言うだけである。
一方でこの時、人間サイドで唯一平静を保っていたエヴァは晴れやかな笑みを浮かべていた。何しろアムタルクスの群れから数匹、鼻息荒くこちらに向かって来る個体が居たからだ。
これにはエヴァもにっこり。
だって向こうから攻撃して来るなら、エヴァも戦士としてお相手するに何ら気後れする必要がないからである。
「ネスカ、そっちは任せる!」
ハンターたちも草走りだけ相手するなら何の問題もないだろう。ニムロンナの普通ギャル、ネスカの返答を待たずにハンターたちから背を向けるエヴァ。
そしてエヴァは、迫り来る3体のアムタルクスに対して右手を振り上げたのだった。
―炎の剣×50!。
アムタルクスはその巨体のせいで相対的に地形の影響を受けやすい。人間が単なる平地と思っていても、自然界には完全な平面など存在しない。現実的にマクロ視点では結構な起伏が存在しているのだ。
そんなアムタルクスたちが地形の影響を受けて密集した一瞬を見計らい、エヴァが呪文を発動する。
次の瞬間、アムタルクス3体の足元に50発もの「炎の剣」が殺到した。
炎の剣は単純にしてコスパに優れたエヴァ愛用の魔法である。
とは言え、単発ではあの巨体を揺るがす事は難しいだろうが、一度にこれだけ叩き込めばいくらアムタルクスでも足止めくらいは可能だ。
実際に少しだけ飛び出していたアムタルクスの1体が、炎の剣を集中的に喰らって転倒。巨獣の咆哮と、その巨体が崩れ落ちる衝撃に大地が揺れる。
するとその巨獣が倒れてのたうち回るせいで、後ろのアムタルクス2体が前に進めずたたらを踏む。
そしてそんな一時的混乱に乗じ、エヴァは倒れて吠え猛る巨獣へと近づき、そのすぐ鼻先でさらなる呪文を詠唱した。
ちなみにエヴァは所有する殆んどの魔法を高度に習熟しており、そのほぼ全ての呪文を詠唱短縮か無詠唱で発動する事が出来た。
と言う訳で、エヴァは動作入力と深い精神集中によって精霊との直通を繋げると、速攻で魔法発動の準備を整えていた。
―天剣召喚。
「ゼルクトハース!」
エヴァの手の内から伸びた次元刀が、長大な刀身の輝きを揺らめかせて出現。そしてすかさずアムタルクスの首を抵抗も無く薙ぎ払うと、すぐさま残影を残して刀身が消え失せる。
その瞬間、時が止まったかの様に巨獣の咆哮が止み、アムタルクスの首が大きな音を立てて転がったのだった。
この時、その光景を見たあらゆる存在が驚愕で動く事を忘れた。首を落とされた巨獣のすぐ後ろに居た2頭のアムタルクスやハンター、そして機動力だけが命の草走りでさえも。
ただエヴァだけが、転がり落ちる巨獣の頭を当たり前の様に足で蹴り止めたのだった。
ズウン…、とかなり物凄い音が鳴り響く。
首とは言え、大人が両手でも抱えきれない程のアムタルクスの頭部だ。それを明らかにそれより小さいエヴァが片足でがっちりキープって…。
その殺戮の瞬間を見てなかった者でさえも、この非常識で物理法則を無視した立ち振る舞いに、彼女こそが巨獣アムタルクスを瞬殺した張本人である事を疑う者は居なかった。
ましてや、その瞬間を間近で見ていたアムタルクスの一匹はビビった。巨獣として培ったプライドや、さらには仲間を殺られた怒りさえ消え失せ、そのアムタルクスは目の前の小さな人間をただただ恐怖したと言う。
しかし、もう一匹のアムタルクスの方は何も分かってなかった。
分かってないアムタルクスは、むしろ驚きで動きを止めてしまった事を恥じて激昂した。
首の無い仲間の体を乱暴に押し退け、エヴァの前に立ちはだかってスキル【大震脚】を発動。その前足が大地を叩くと、接地点を中心に轟音と超震動が巻き起こり、大地と接するあらゆる物体が浮いてコントロールが奪われた。
そうしてスキルで獲物の足止めを食らわせたら、アムタルクスはそのまま逆の前足をエヴァ目がけて踏み下ろしたのだった。
「ふっ…」
しかしエヴァは、アムタルクスが使うこのスキルを事前に知っていた。
エヴァは重力操作と身体強化により力尽くでそれを無効化すると、同時に並行して準備していた「天剣ゼルクトハース」を再召喚。そして眼前に迫るアムタルクスの足裏から天剣ゼルクトハースを振り上げた。
その瞬間、ただでさえ長大なゼルクトハースの刀身がさらに伸び、アムタルクスの足裏から首までを一気に斬り落としたのだった。
(追記:天剣召喚「ゼルクトハース」の仕様について)
天剣ゼルクトハースは流々崎エヴァンリーサの固有魔法で、彼女が持つ近接魔法の中でも最強を誇る呪文である。
属性的には地属性と言うか重力操作によるもので、おそらく次元斬系の魔法と思われる。
最大稼働時間はたったの5秒。5秒を超えると強制的に5分のクールタイムに入る。
ただ5秒以内であれば小刻みな出し入れが可能で、例えば1秒だけなら5回好きな時に使える。しかも1秒だけしか使わなければ、残りの4秒をいつでも使える状態のまま、使用した分の補充も同時に自動でやってくれる。
つまり最大5秒を使い切らずに適度な時間を挟めば、永遠に強制クールタイムを回避する事が可能。
なのでゼルクトハースは秒単位の使用が必須の戦士向け魔法と言える。




