9話
9話
《死という概念は我々には難しい事だった》
それから私たちは駅を出て、街の中を歩き回った。
行くあてなどなかったが、ただ歩いているだけで楽しかったのだ。
そのうちに日が落ちてきて、夜になった。空を見上げると星がきらめいていて、昼間よりもずっと美しかった。
それは私の見た景色のなかで最も美しい星空であるということに間違いはなかった。
そんな星空を見ながら哲也と手をつないで歩いていたが、やがて哲也はぽつりと言った。
「二人で死のうか」
私はうなずいて答えた。
「うん」
哲也は私の手を引いてゆっくりと歩き出した。私たちの周りには誰もいなかったし、街灯もほとんどなかった。ただ暗闇と静けさだけが支配していた。
哲也は私の手を握って前を歩いていたが、ふいに立ち止まって口を開いた。
「星が綺麗だね」
私も空を見上げて、小さくうなずいた。
「そうだね」
哲也は笑っていたと思うが何処か悲しげだった。
私は彼を抱きしめた
すると彼は泣き出した。
「もう会えないね」
彼はそう言った。
「うん、もう会えない」
私は彼にそう返事をした。
それから哲也は私をぎゅっと抱きしめてくれた。私も彼の背中に手をまわした。そうして二人でずっと抱き合っていた。
「もうこれで終わるね」
「うん、もう終わり」
「じゃあ、そろそろ死んじゃおうか」
「そうだね」
「星がよく見えるところに行きたいね」
と哲也が言った。
私も空を見上げて小さくうなずいた。
「うん、行きたい」
私と哲也は手をつないで歩き続けた。
私は空を見上げていたが、哲也は地面をずっと見ているようだった。
私も顔を上げて歩いてはいたが、どこを見ても星の光ばかりが目に焼きついてしまったので、どの方向に行けば良いのか見当もつかなかった。
丘の上から見る景色
ここが1番綺麗だった。