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4話

4話

《夏の銀河その2》

哲也の家からバスで二十分ほど行ったところに、町で一番大きな森林公園がある。

私たちはその公園の入り口のバス停で降りた。そこは広大な芝生になっていて、いくつかのアスレチック場があった。昼間は家族連れやカップルたちで賑わう場所だが、夜の十時を過ぎたいまはひっそりと静まり返っていた。

哲也は私の前を歩いていって、芝生の中にある小高い丘に登っていった。丘のてっぺんには大きな木があって、その根元にはベンチが置かれていた。

哲也はそこに座ると、空を指さした。

「あれが夏の大三角」

私は彼の隣に腰を下ろした。彼が指さした空は真っ暗で星の光もよく見えなかったけれど、彼がそれを教えてくれたことに意味があったと思う。

哲也がスマートフォンを取り出して、星座早見表を開いた。

彼はそれを見ながらオリオン座のベテルギウスや、白鳥座のデネブや、双子座のポルックスなどを見つけては私に教えてくれた。

哲也の星座早見表を見る眼差しがあまりにも真剣だったので、私は思わず笑ってしまった。

「なんで笑うの?」

と彼は言った。

私は夜空に視線を向けたままでいた。

「哲也があんまりにも楽しそうだから」

私がそう言うと、哲也も笑ってくれた。

「星とか宇宙って好きなんだよね」

彼がそう言ったので私は思わず彼の方を見た。

「そうなの?」

哲也はまた空を指さして教えてくれた。

「あれがこと座のベガ。織姫星とも言うんだよ」

私はその指先をたどっていったが、やっぱり目を凝らしても星の輝きは見えなかった。でもそれはきっと哲也のせいじゃないと思った。

私もどちらかといえば暗い性格だと思うけれど、それでも彼といるときは明るい気持ちになれたし、何より星空を眺めることが楽しかったからだ。

哲也は星座早見表をしまうと、私に顔を向けた。

「手、つなごうか」

と彼は言った。

私は黙ってうなずいた。哲也は私の手を握ったまま夜空に顔を向けていた。

「星、見えないね」

私がそう言うと、哲也は微笑んだ。

「見えなくていいんだ」

そして私の手をぎゅっと握った。

「うん、見えなくてもいいのかもね」

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