第99話
日曜日、午前9時にナツキの家の前に集合と約束していたので、俺は7時半には起きてデートの準備を始めた。7月の終わりということもあり、この日の最高気温が高くなると天気予報でやっていたためと、ナツキに動きやすい服装をしてきてくれと頼まれていたので、前のデートの時と違い、見た目をあまり気にせずに機能面で服を選んだ。と言っても、上下ジャージという、あまりにもラフな格好は選ばなかった。
見た目はあまりデートっぽくないが、俺が念入りに外見を気にしている様子を見た母さんが、「今日もしかしてナツキちゃんとデート?」と聞いてきた。
今日は本当にナツキとのデートだったので、俺は堂々と、「そうだよ。」と答えた。
それを聞いた母さんは、「そうなのね!良かった!」と、ちょっと引っかかる発言をしたが、それを深掘りしたら墓穴を掘りそうだったので、何も聞かないことにした。
身だしなみを整えて8時55分ぐらいにうちを出た。玄関を出る時に母さんが機嫌良さそうに、「いってらっしゃい!」と言ってきたので、「いってきます!」と返した。
約束の時間の5分前だけど大丈夫だろうと思い、俺はうちを出るとそのまま隣のナツキの家のチャイムを鳴らした。チャイムを鳴らすとバタバタと音が聞こえてきて玄関のドアが開き、ナツキが顔を出した。
「おはよう。ナツキ。9時前だけど大丈夫だよな?」
「おはよう。セイ。大丈夫だけど、1,2分待ってくれる?持って行きたいものがあるの。」
「分かった。待ってるよ。」
「ありがとう!」
そう言うと、ナツキは顔を引っ込めた。するとまたバタバタと音が聞こえてきた。
持って行きたい物って何だろう?また弁当を作ってくれたのかな?と考えてるうちに、また玄関のドアが開き、ナツキがこの前のデートの時より一回りくらい大きなバッグを肩にかけて出てきた。
「お待たせ!」
「それじゃあ行こうか?」
「うん。行こ行こ!」
ナツキのこの日の格好はTシャツとショートパンツという、自分で言ってきた通り動きやすそうな格好だった。こういう格好はある程度スタイルに自信がなくちゃできないんじゃないか?と思ったが、バレー部の練習を日々やっているナツキのスタイルはTシャツとショートパンツという格好が十分似合うくらい良かった。
よくよく考えたら、バレーの試合の時の格好もこんな感じだよな。だからあまり気に留めることなくこういう格好ができるんだな。と気が付いた。
好きな人がこんな格好をしていたら、普通の男子高校生だったら目のやり場に困ったりしたり、他の人の好きな人への視線が気になって気が気じゃないと思うが、俺は特に異性としてナツキを見たことがなかったので、目のやり場には困らなかった。ただ、他の人のナツキへの視線は少し気になった。
これはナツキがあまりにも無防備だから、俺の方が心配になっているだけだと考えようとしたが、もしかしたら俺は少しずつナツキを異性として意識し始めているのか?という考えもよぎった。俺はそんな考えを振り払おうと首を横に何度も振った。
「セイどうしたの?」
俺の奇行をナツキは心配してくれたが、首を横に振った理由は答えられなかったので、「もうやらないから気にしないでくれ。」と答えた。
「……そう。それならいいけど……。」
ナツキはあまり納得していなかったが、それ以上聞いてくることはなかった。