第97話
ミナとかいう女子と別れた後、自分のクラスに戻るとすぐにホームルームが始まり、文化祭の出し物についての話し合いが始まった。
前日に伊東が宣言していたのにもかかわらず、クラスの奴らは新しい案を提案しなかったので、展示か劇のどちらかにすることに決まった。
今の俺はナツキのことが気になって、もう文化祭の出し物が展示だろうが劇だろうがどっちでもいい気持ちだったが、一応展示に1票入れておいた。結果としては得票数が多い何かの展示に決まった。
開票を終えると伊東が、「何かの展示に決まったので、来週までに何を展示するか考えておいてくれ。来週の金曜日になっても決まらなかったら、提案者のトツカの意見のバルーンアートに決めるから。」と宣言した。
このクラスのやる気のなさを考えると十中八九バルーンアートに決まりそうだなと俺は感じていた。
文化祭の出し物についての話し合いが終わった後、いつもの4人で集まって今日の話し合いについて話し合った。
「1票差で負けるなんて、ミーちゃん惜しかったね。」
「……うん。そうだね。でもいいんだ。思ったよりクラスの人たちの支持を得られたから。」
「そんなもんか?1票差で負けたら、もう少しだったのに!って普通悔しく思わないか?」
キョウヘイが聞かなくていいことをハタケに聞いたので、カジワラが、「イチノミヤくん、ひどーい!そんなデリカシーのないこと普通聞く?」とキョウヘイを責め始めた。
「正直に疑問に思ったことを聞いただけなんだけど、気に障ったのなら謝るよ!ハタケごめん!」
「全然気にしてないから大丈夫だよ。今のところ悔しいって気持ちより、思ったよりクラスの人たちの支持を得られたことが嬉しいって気持ちの方が勝ってるから。」
「ホントに?デリカシーのないイチノミヤくんのことが許せないなら正直に言いなよ?」
「ホントに大丈夫だから!心配してくれてありがとう。レーちゃん。」
カジワラとハタケの仲が深まったり、カジワラのキョウヘイに対する株が下がったりしてる中、俺はまだナツキのことが気になっていたので話にほとんど混ざらなかった。
俺がほとんど話に混ざらないまま4人での話は終わり、俺は図書室へ向かった。図書室でハナザワさんと合流して、ハナザワさんのお薦めの本を読もうとしたが、やっぱり集中出来ず、2時間くらい図書室にいたが2,3ページしか読み進められなかった。
図書室が閉まると、ハナザワさんと一緒に昇降口へ向かった。
「トツカ先輩、今日何かありました?」
「え⁈何でそんなこと聞くの?」
「今日のトツカ先輩、なんか変だったので。」
キョウヘイやカジワラ、ハタケに気づかれなかったので、ハナザワさんにもバレてないだろうと思ったが、俺が悩んでることをハナザワさんにはバレていたらしい。
「ちょっと悩み事があるだけだよ。ごめんね。心配させたかな?」
「悩み事ですか?それって私が聞いてもいいやつですか?」
「うーん。ちょっと言いづらいかな。ごめんね。心配してくれてるのに。俺だけの悩みじゃなくて、もう1人……いや、たくさんの人にかかわる悩みだから話せないんだ。」
「そうですか。分かりました。」
ハナザワさんは俺の役に立てないからか、悲しそうな顔をしていたが、それ以上聞いてくることはなかった。
昇降口でハナザワさんと別れた後、部活終わりのナツキと合流して一緒に帰宅した。
ナツキは自分のクラスの文化祭の出し物が劇に決まったことや部活中に起こったちょっとしたアクシデントのことを楽しそうに話していたが、俺はそれに愛想笑いをすることしか出来なかった。ナツキが部活をズル休みしようとしている話をいつ切り出せばいいか、それだけしか考えていなかった。
「日曜日のデートの時、行きたい場所決まったよ!○○公園はどう?公園ならお金がかからないもんね。」
ナツキが日曜日のデートの話を始めたので、俺は、今言うしかない!と覚悟を決めたが、口から出たのは、「……公園なんかでいいのかよ?ナツキは楽しいのか?」という本心とは全く別なことだった。
「楽しいよ!セイと一緒にいられるなら、どこだって楽しいよ!」
嘘が一つもない笑顔でナツキは答えた。
「そうか。それならいいんだけどな。」
ナツキの笑顔を見た俺はどうしてもズル休みのことを口に出せなかった。
「それじゃあ、日曜日は○○公園に行くってことでいいよね?」
「うん。いいよ。」
俺はミナとかいう女子だけでなくバレー部の全員に攻められる覚悟を決めた。