第90話
ハナザワさんと駅で別れた俺は午後5時過ぎには家に着いた。
家に着くと手洗い・うがいをして自分の部屋に行った。自分の部屋に入ると部屋着に着替えて、今日県立図書館から借りて来た小説の続きを読み始めた。30分ぐらい小説を読むのに集中していたが、外が暗くなってきて小説を読むのに支障をきたし始めたので、部屋の電気をつけてカーテンを閉めた。それからまた小説を読み始めようとしたら、スマホの音声通話の着信音が鳴った。
誰だろう?と思いながら、スマホの画面を見ると、ナツキの名前がスマホの画面に出ていた。
何か嫌な予感がしたが、無視をするとずっと着信音が鳴りっぱなしなので、仕方なく音声通話に出た。
「もしもし?」
「セイ!今日のハナザワさんとのデートどうだった⁈」
嫌な予感は的中した。ナツキはハナザワさんとのデートの内容を聞き出すつもりだ。正直に答えてもいいのだが、それだとナツキとのデートについて聞いて来ないハナザワさんと対等ではない気がする。ここは何も話さないようにしよう!
「特に変わったことはないよ。」
「どんなことがあったかを教えてほしいの!」
「だから変わったことはないよ!もう切るぞ!」
「ちょっと待って!今日ハナザワさんと何をしたか聞きたいだけだって!」
「あのなぁナツキ、ハナザワさんとナツキは一応ライバルみたいなものなんだから、ナツキだけを優遇することはできないよ!今後一切、ハナザワさんとのこと聞くのは禁止!じゃ、そういうことで。」
「あ!ちょっと待って……。」
俺は半ば強引に音声通話を切ったが、ナツキは諦めずにまたかけてくることはなかった。
ナツキとの通話が終わったスマホの画面を見ると、キョウヘイからメッセージが来ていることに気付いた。メッセージを見てみると、「ハナザワさんとのデートが終わったら、デートがどうだったか聞かせろよ!」とあった。
俺はすぐキョウヘイに、今日は県立図書館に行って本を読んだり、ハナザワさんが作ってきてくれたお弁当を一緒に食べたりしただけだと返信を送った。
数分後、それに対するキョウヘイからの返信が来た。
「健全過ぎて面白くない。」の一言だけだった。
俺がすぐに、「面白そうじゃなくて悪かったな!俺はすっごく楽しかったけどね!」と返信を送ると、キョウヘイからすぐに、「ごめん。」という意味のスタンプが送られてきたので許すことにした。
この日は図書館から借りてきた本を読んでるうちに眠ってしまった。
次の日は先週と同じく、放課後になるといつもの4人で漫画の話をした後、図書室に行ってハナザワさんの薦めてきた本を読み、図書室が閉まったらナツキと一緒に帰宅するという代わり映えしない一日を過ごした。
内容はたいしたことないが、気分はそわそわしていた。
なぜなら明日、火曜日から夏休みが始まる。
俺とカジワラとナツキとハナザワさんのこれからの関係が決まる重要な期間だ。夏休みが楽しみな気持ち半分、不安な気持ち半分といった感じだ。ナツキとハナザワさんに惑わされることがないように気を引き締めて行こうと決意して、この日は眠りについた。