第82話
「はぁ?その提案に同意しちゃったのかよ?」
「……うん。でも、夏休みが終わるまでだっていう話だったからさ……。」
「それにしたってよ……。」
俺は放課後になるといつもの4人で漫画の話をするのをやめて、キョウヘイを第3特別教室に連れてきて、昼休みにナツキとハナザワさんとした契約を伝えていた。
「……まあでも、セイの言う通りだとすれば、夏休みが終わればハナザワさんにセイのことを諦めさせられるということだよな?ということは、夏休みが終われば、またセイの彼女はナツキだけに戻るってことだよな?」
「いや、それはない。」
「はぁ?」
キョウヘイが尋ねてきたことを俺が否定すると、キョウヘイは明らかに機嫌が悪くなった。
「じゃあ、セイは夏休みが終わったら、ナツキを捨ててハナザワさんを彼女にするっていうのかよ⁈」
「いや、それもない。」
「はぁ⁈」
キョウヘイの質問を俺がまた否定すると、キョウヘイは不機嫌ではないが、俺の発言が理解できないといった表情をしていた。
「ナツキもハナザワさんも彼女にしないってどういうことだよ⁈それじゃ、カジワラとも別れるってことか⁈」
「いや、カジワラとは別れないよ。だから、ナツキでもハナザワさんでもない人をまた新たに形ばかりの彼女にするよ。」
「……それってもしかして俺に気を遣っているのか?」
「そりゃ気を遣ってないと言ったら嘘になるな。親友の好きな相手と本当の彼女ではなく、形ばかりの彼女として付き合うなんてことできるわけないじゃん。だからと言って、ナツキを振ってハナザワさんと付き合うという不義理なこともできないしな。」
「俺がナツキを好きってことは気にしなくていいんだぞ!俺はナツキが幸せならそれでいいんだ。」
俺は首を左右に少し振って、「いや、俺が気を遣っているのはキョウヘイだけじゃない。ナツキにも気を遣っているんだ。」と答えた。
「ナツキにも?」
「ナツキが俺のことを好きだってことを知ってしまったら、形ばかりの彼女として付き合ってもらうなんてナツキに対して不義理なことをしたくないんだ。それに変な期待を持たせたくもないからな。」
「でも、新たに形ばかりの彼女を作るって言ってもそんな簡単に相手が見つかるのか?」
「確かにそれは難しいかもしれないけど、今度は金銭的な契約を結んで形ばかりの彼女になってくれる人を探すよ。その方が親しい相手に付き合うふりをしてもらうより全然いいってことに気付いたからな。」
「なんかその相手の方がセイの愛人みたいだな。」
「まあ、俺としてはカジワラと正式に付き合いたいわけだから、その相手の方が愛人というのは合ってるかもな。しかも、そんな相手見つからないかもしれないしな。まあ、その時は仕方ないけどカジワラに彼女になってもらえるようにまた努力するよ。」
「そうだ!カジワラと言えば、このことはカジワラには伝えるのか?」
「伝えねぇよ!だからこうして誰もいない所でキョウヘイにだけ伝えてるんだよ!」
「カジワラはセイの愛人だから、まったく気にしないかもしれないけどな。」
キョウヘイは少し笑みを浮かべながら、そう言った。
「カジワラが気にしなくても、俺が気にするんだよ!たとえカジワラが俺の愛人だとしても、カジワラに不義理なことはしたくないからな!」
キョウヘイはますます笑いながら、「セイはずいぶんと義理堅いみたいだな。まあ、そういう奴だから、俺はセイと友だちなんだけどな。」と言ってきた。
突然キョウヘイが恥ずかしいことを言ってきたので、俺は、「何恥ずかしいこと言ってんだよ⁈あ!そういえば、放課後はハナザワさんと図書室で待ち合わせしていたんだった!それじゃあ、俺行くからな!」と照れ隠ししながら、この場を後にしようとした。
「セイ!」
第3特別教室を出ようとする俺をキョウヘイが呼び止めた。
「どうした?」
俺がキョウヘイの方を振り向くと、キョウヘイは、「ありがとな。」と礼を言ってきた。
俺は礼を言われる理由が完璧には理解できていなかったが、「礼を言われるようなことはしてねぇよ。」と笑って答えて図書室に向かった。