第81話
くそ!起きるのが遅かった!
朝7時20分にナツキの家に行ったが、ナツキはすでに登校したあとだった。
くそ!ナツキは部活の朝練に行くから7時前には家を出るんだった!何で寝る前にそのことに気が付かなかったんだ⁈俺は⁈
今更悔やんでもしょうがないことを悔やみながら俺は学校へと走って向かった。学校に到着すると校門をくぐり、バレー部が朝練している体育館へと向かった。俺は焦っていたので、体育館の出入口の近くから堂々と中をのぞくという、落ち着いていたら絶対にしないミスをしてしまった。
この時の俺はバレー部の人たちに中をのぞいていることをバレることよりも、バレー部の朝練にナツキがいないことの方が怖かったので、ナツキが朝練に出ているかどうかを確認することを優先した。
なんだ。ナツキちゃんと朝練に出てるじゃん。
ナツキが朝練に出てることはすぐに確認出来て、俺はホッとした。しかし、そんなホッとしてる俺とある女子部員の目が合った。するとその女子部員は嫌なものでも見るかのような顔をしながら、俺の方へ近づいてきた。
まずい!確かあの女子はミナとかいう女子バレー部の部員で、以前ナツキの部活が終わるのを待っていた時に突っかかってきた女子だ!どうする?ナツキが朝練に出てるか確認しに来ただけだ!と正直に言えば分かってくれるか?いや、そんなことを言ったら、なぜ確認しに来たのか?と理由を聞かれる。理由はとてもじゃないが答えられない。ここは逃げよう。
俺はミナという女子バレー部員が俺のところへ来る前に体育館から離れた。ミナという女子バレー部員はわざわざ追いかけるまでもないと思ったのか、俺を追いかけてまでは来なかった。
たぶん、昼休みまではナツキもハナザワさんと接触したりしないだろう。と俺は安心したが、万が一ということもあると思い、朝のホームルームが始まる前にキョウヘイに昨夜のナツキとのやり取りを説明した。万が一の場合、手を貸してもらおうと考えたからだ。
昨夜のやり取りを説明している間、キョウヘイは一言も発しなかったが、俺がナツキとの形ばかりの彼女という関係を解消しようとしたと言った時は複雑そうな表情をしていた。全部説明し終えると、キョウヘイは、「つまり、ナツキとハナザワさんが接触する前にナツキを説得したいってことだな?分かった。協力するよ。」と言ってくれた。
「ありがとう。キョウヘイ。」
「ハナザワさんと話をつけたくても、他の人に聞かれたくないだろうから、ナツキも昼休みまでは行動しないだろうが、一応休み時間ごとにナツキのクラスに行ってハナザワさんのところに行ってないか確認しないとな。」
「そうだな。俺がナツキを説得している間の会話も他の人に聞かれたくないから、ナツキを説得するのも昼休みまで待たなきゃいけないという問題もあるから、そうするしかないな。」
この日は授業が終わるたびにナツキのクラスへと向かい、ナツキが教室にいるか確認しに行った。幸いなことに3時間目と4時間目の間の休み時間までナツキはずっと教室で友だちと会話していた。しかし、俺たちのクラスは4時間目は移動教室だったので、昼休みになってすぐにナツキの教室に向かったが、すでにナツキは教室にいなかった。
「ヤバいぞ、キョウヘイ!ナツキがいない!」
「セイ、落ち着け!とりあえず、ナツキを探そう!俺はハナザワさんのクラスに行くから、セイはナツキがハナザワさんを連れて行きそうな第3特別教室に行ってくれ!」
「分かった!」
俺はできるだけ早足で第3特別教室に向かった。こういう時に限って先生と廊下ですれ違うので、走って第3特別教室に向かうことは難しかった。
何とか第3特別教室に着いて中をのぞいてみると、ナツキとハナザワさんがいた。以前ほど険悪なムードじゃなさそうだったので少しホッとしたが、ナツキがハナザワさんに何を言ってるか分からないので、すぐにやめさせようとした。
ガラッと第3特別教室のドアを開けると、ナツキとハナザワさんが俺の方に視線を向けた。
「セイ!ちょうど良かった!今から呼びに行こうと思ってたんだ。ね!ハナザワさん!」
「はい!トツカ先輩に聞いてほしい話があるんです!」
「聞いてほしい話?」
「そう!セイは自分のことが好きな相手を形ばかりの彼女にしたくない。でも、私たちは形ばかりの彼女でいいから付き合いたい。だから折衷案でセイには私とハナザワさんの両方と付き合ってもらおうと2人で考えたんだよ。」
「はぁ?それのどこが折衷案なんだよ?」
「まあ、最後まで聞いてよ。期間は夏休みが終わるまででいいからさ。夏休みまでにどっちかと付き合ってもいいかなと思ったら、そのまま付き合う。どっちとも付き合いたくないという考えが変わらなかったらどっちとも付き合わなくていい。これでどう?」
「どう?って言われても……。」
でも、夏休みを乗り切れば2人と付き合わなくていいってことか。2人が少しは譲歩してくれたわけだから、あまり文句を言わずに聞いておいた方がいいかもしれない。
「……分かった。それでいいよ。」
「よし!言質は取ったからね!今更拒否することは許さないからね!」
「分かってるよ。」
「やりましたね!ヒナタ先輩!」
「そうね!ハナザワさん!」
2人が手を取り合って喜んでるのを見ると、お前ら一緒に喜んでていい関係なのかよ?と疑問に思ったが、余計なことを言うこともないので黙っていた。
とりあえず、結論が先延ばしになっただけだが、ナツキとハナザワさんが納得するなら、これで良かったのかもしれない。と俺も納得することにした。