第79話
どうやってあの場を収めたのか覚えていないが、気付いたら自分のクラスに戻っていて午後の授業を受けていた。
と言っても、午後の授業は全く身が入らず、先生が何を言ってたのかも覚えてないし、板書もちゃんとノートに書き写せたのか分からない。
なんか最近授業に身が入らないことが多い気がするな。だけど今日は今までで一番身が入らない。
ナツキとハナザワさんが俺のことが好き?全くもってこの2人に俺が好意を持たれる理由が分からない。
それも気にはなるが、一番考えなきゃいけない問題がある。それは今後2人とどう接すればいいのか分からないことだ。ハナザワさんは極力出会わないようにすればいいのかもしれないが、ナツキは学校で会わないようにしても、家が隣だし、連絡先も知られているから、いつまでも逃げられるような相手ではない。あーもう!俺はどうすればいいんだ⁈分からない!
誰かに相談したい!いや、答えなんてくれなくていいから、俺の今の悩みを誰かに聞いてほしい!誰か?誰かいないか?こんな現実にそうそうあるわけがない悩みを馬鹿にしたりせず聞いてくれる相手は……。
そういえば、あの場にキョウヘイがいたような気がするけど……うん!確かにいた!ナツキを止めようとしてくれていたな。それならキョウヘイは馬鹿にせずに俺の悩みを聞いてくれるんじゃないか?というか、ナツキと一緒に俺とハナザワさんの話を隠れて聞いていたんだから、俺の悩みを聞くくらいの償いはあっていいんじゃないか⁈よし!キョウヘイにこの悩みを聞いてもらおう!
俺は放課後になるとキョウヘイに、「ちょっと話があるんだけどいいか?」と言って、有無を言わさず、人があまりいない第3特別教室に連れて来た。
第3特別教室に来てみると思った通り他に人はいなかった。俺は安心してキョウヘイに向かって、「キョウヘイ!俺はどうしたらいいと思う?」と尋ねた。他に人はいなかったが、万が一ということもあるので、できるだけ小さな声で尋ねた。
するとキョウヘイは、「はぁ。」とため息をついて、「俺はナツキを形ばかりの彼女にするとセイが言った時に『どうなっても知らないからな!』って言ったはずだけどな。」と俺を突き放すようなことを言ってきた。
「それはそうだけど……こんな状況になるってキョウヘイは分かっていたのか?」
「いや。さすがにハナザワさんもセイが好きだとは知らなかったよ。」
「え⁈それじゃあ、ナツキが俺を好きなことは知ってたのか⁈」
「ああ知ってたよ。」
「どうして?ナツキから聞いたのか?」
「違うよ。ナツキを見ていたら分かるよ。俺とセイを見る時の目が全然違うからな。」
「そうなのか?よく分かったな?俺は全然分からなかったよ。」
「まあ、俺がナツキを見る目も違うからかもしれないけどな。」
「え⁈それって……。」
「うん。俺はナツキのことが好きだ。」
俺は今のキョウヘイの発言を聞いていろいろ思うことがあった。
キョウヘイがナツキのことを好き?俺は親友の好きな人と付き合っていたのか?しかも正式の彼女ではなく、形ばかりの彼女として。なんてひどい男なんだろう。そうか!だからキョウヘイは俺がナツキを形ばかりの彼女にすることに激怒していたのか。謝らないと!すぐにキョウヘイに謝らないと!
「ごめんな。セイ。」
俺がキョウヘイに謝罪しようとすると、キョウヘイの方から謝罪されて訳が分からなかった。
「なんでキョウヘイが謝るんだよ?」
「セイがカジワラと付き合えるように俺がいろいろ手伝っていたのは、セイとカジワラが付き合えばナツキがセイのことを諦めるかな?っていう打算的な理由からなんだ。しかもそれがうまく行かなくなって、セイがナツキを形ばかりの彼女にすると言った時に本当の理由を言わずにセイにキレたりしたしさ。ホントごめん。」
「いや、俺の方こそごめん!キョウヘイがナツキのことを好きとは知らず、形ばかりの彼女なんかにして。」
「俺には謝らなくていいよ。ただナツキのことを真剣に考えてやってくれないか?」
「真剣に?」
「つまり、形ばかりの彼女じゃなくて、本当の彼女にするってことをだよ。」
ナツキとハナザワさんと今後どう付き合っていけばいいのか相談しようと思っていたが、キョウヘイからはナツキを本当の彼女にするように頼まれてしまった。
う~ん?これは一度ナツキとも話さなきゃダメだな。
「分かった。真剣に考えておくよ。」
「ありがとう。セイ。」
悩み事は一切解決しなかったが、ナツキと一度話すという覚悟だけは決まった。