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第78話

 第3特別教室にはいつも通り、他に人はいなかった。


「ここなら安心して話せるでしょ?俺に聞きたいことって何?」


俺は早速ハナザワさんに本題を切り出した。すると最初はおずおずとした様子だったハナザワさんが何かを決意したような目をして、「あの!トツカ先輩が付き合っているのは、この前図書館で会ったヒナタナツキさんという方ですよね?」と尋ねてきた。


俺は今聞かれたことからどんな話になっていくのか、皆目見当もつかなかったが、嘘をつく理由もなかったので、「うん。そうだよ。」とハナザワさんの質問を肯定した。


「それじゃあ、昨日駅で一緒にいた女性は誰ですか?」


「え⁈それは……。」


ハナザワさんの2個目の質問の答えに窮してしまった。


やっぱり、昨日見かけた三つ編みの女子はハナザワさんだったのか。カジワラと一緒にいるところを見られちゃったのかぁ。でも、待てよ。カジワラが俺の愛人かどうかなんてパッと見じゃ分からないよな。ここは友だちだとすぐに言えば、それ以上追及することはできないはずだ。


「……ああ!カジワラのこと言ってるのかな?カジワラなら俺の友だちだよ!友だち!」


よーし!自然に受け答えできたな。これ以上追及しないでくれよ!


「本当ですか?」


ハナザワさんは俺の答えに納得できないのか聞き返してきた。


「本当だよ!」


俺は語気を強めて答えることで本当のことを話してる風を装った。


「それはおかしいですね。そのカジワラさんという方はトツカ先輩と話している男性に自分はトツカ先輩の彼女だと言ってましたけど。」


ああ!俺とコセキの会話を聞かれてたのか!そうなると、もう否定することはできないな。ハナザワさんはきっと彼女であるナツキがかわいそうだ!と糾弾して来るのだろう。ここは謹んで受け入れるしかないか。変に逆ギレしたりすると俺とカジワラのことを他の人に吹聴するかもしれないからな。と俺は考えていると、ハナザワさんが、「カジワラさんは浮気相手という訳ですか?」と質問してきた。


浮気相手?ハナザワさんのように俺たちの関係を知らない人はそう思うのかもしれないけど、カジワラは俺の愛人だ。そこを勘違いされてるのは何か嫌だ!別にもう隠す必要性もないのだから、本当のことを言ってしまおう!


「浮気相手というかカジワラは愛人なんだ。」


「愛……人?」


ハナザワさんは俺の発言の意味が理解できないのかきょとんとした表情をしていた。


「そう、愛人!実は……」


俺はカジワラが愛人にしかなりたくないという考えの持ち主だということや、カジワラと愛人でもいいから付き合いたいと思ったためにナツキに形だけの彼女になってもらったことを洗いざらいハナザワさんに話した。


「……という訳なんだ。」


「そうですか。事情は分かりました。いえ、本当はよく分からないのですが、形だけの理解はできました。つまり、カジワラさんと付き合うためにヒナタさんと付き合うふりをしてるわけですよね?」


「うん。そうだよ。」


「ということは、付き合うふりをする相手はヒナタさんじゃなくてもいいわけですよね?」


「うん。まあそうだね。ハナザワさん、何が言いたいの?」


俺は不穏な空気を感じて、ハナザワさんが本当に言いたいことを自分から聞き出そうとしてしまった。


「トツカ先輩!ヒナタさんと付き合うふりをするのをやめてください!そして私と付き合うふりをしてください!お願いします!」


「は?」


俺はハナザワさんの発言の意味が理解できず、声なのか息なのか分からないものを漏らしてしまった。


ハナザワさんは何がしたいんだ?俺の形だけの彼女になって、ハナザワさんに何のメリットがあるって言うんだ?でも、ハナザワさんが付き合うふりをしてくれるなら、ナツキにこれ以上付き合うふりをしてもらわなくてよくなるな。そうなるとキョウヘイとの少し残っているわだかまりも解消されるかもしれない。俺にとって、ナツキと付き合うふりをするより、ハナザワさんと付き合うふりをした方がいいんじゃないか?


俺がハナザワさんと付き合うふりをする方に気持ちが傾きかけた時、「ちょっと待ったぁー!」と叫ぶ声が聞こえた。


俺が声のした方を振り向くと、そこにはナツキがいた。


「おい、ナツキやめとけよ!」


そして、ナツキの後ろにはナツキを止めようとするキョウヘイの姿があった。


「ナツキ、どうしてここに?」


俺は状況が理解できず、率直に疑問に思ったことを質問した。


「セイが女子と一緒に第3特別教室に行ったっていう話が耳に入ったから、ばれないように隠れて話を聞いてたんだよ。セイにも言いたいことはあるけど、今はそれよりも優先すべきことがあるから。」


そう俺に言うと、ナツキはハナザワさんに近づいて行って、「ハナザワさんだっけ?どういうつもり?セイの彼女は私なんだけど?」とナツキと知り合ってから一度も聞いたことがないような怒りを込めた声色でハナザワさんに尋ねていた。


「でも、ふりをしてるだけなんですよね?それなら私と交代してもらっていいですか?好きじゃない相手の彼女のふりなんて何のメリットもなくて嫌ですよね?」


ハナザワさんもナツキに負けず劣らず今まで聞いたことがないような強めの語気で話していた。


「別に嫌じゃないし!あんたの方こそ何のメリットがあるっていうのよ?」


「私はトツカ先輩が好きなんです!好きだからふりでもいいから付き合いたいんです!だからヒナタさん、トツカ先輩と別れてください!」


えー!ハナザワさんが俺のことが好き?マジか?全然気が付かなかった。


「はぁ~!私なんてあんたよりもずっと前からセイのこと好きだし!あんたが何て言おうと絶対別れないんだから!」


えー!やっぱりナツキも俺のことが好きだったのか!薄々気が付いてたけど、本人から直接聞くとドキッとするな。


そのあともナツキとハナザワさんは言い合いをしていたが、俺は2人の女子に好きだと告白されるだけでなく、その2人から取り合いをされているという漫画のような状況が受け止めきれず、只々ポカンとしていた。


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