第73話
「ハッ!」
パッと目を覚まして俺は枕の横に置いておいたスマホの画面を見た。
「なんだ。まだ6時半前か。」
俺はホッとして、また頭を枕に載せた。しかし、まだ午前6時半前とは言っても、先週の日曜日のナツキとのデートの時よりも少し時間の余裕がある程度だと気づいて、バッとベッドから起き上がった。
まだ朝ご飯はできてないだろうと思ったので、まずは今日着ていく服や持って行く物の確認から始めた。服はこの前のナツキとのデートで着ていた服とは別の服をちゃんと昨日のうちに選んでおいた。スマホで今日の天気を調べると昨日調べた時と変わらず晴れて暑くなるみたいなので、昨日選んだ服でいいだろう。あとは合羽と学生証と財布を忘れないようにウエストポーチに入れておこう。まあこんなところかな。
ある程度の準備はできたので、まだ午前7時前だったが朝ご飯を食べにリビングへ向かった。リビングのドアを開けると、キッチンで母さんが朝ご飯の準備をしていた。
「母さん、おはよう。」
「セイ、おはよう。休日なのに今日も早いわね。何か用事でもあるの?」
「うん。今日は……。」
そこまで口に出したところで俺は発言するのをやめた。
母さんに愛人とデートするんだ。とはとても言えないし、ナツキとデートするんだ。と嘘をついたら、ナツキは今日部活だろうから学校へ行くところや学校から帰って来るところを母さんが見たら嘘だとバレてしまうから、それも言えない。どうしよう?うーん?そうだ!
「……今日はキョウヘイと遊ぶ約束してるんだよ。」
「そう。キョウヘイくんと?何時に会う約束をしてるの?」
「9時に駅前に集合。」
「そう。それじゃあ、朝ご飯すぐに作っちゃうわね。」
「ありがとう。あ!パンを焼くくらいなら俺がやるよ!」
「あらそう。じゃあお願いね。」
俺はパンをトースターにセットしつつ、咄嗟の嘘が怪しまれていないことにホッとしていた。あとでキョウヘイと口裏を合わせとくようにしないとな。
まだ先週よりも時間の余裕があるので、パンが焼けるのを待つくらいはできた。パンが焼け終えたら、トーストを皿に移したり、マーガリンを冷蔵庫から取り出したりしているうちに、母さんが目玉焼きとウインナーを載せた皿を持ってきてくれたので、朝ご飯を食べ始めた。
10分ほどで食べ終えたら、洗面所に向かい身だしなみを整えた。歯と顔は念入りに洗って、髪にも念入りに櫛を入れた。身だしなみをある程度整えたら、自分の部屋に向かって服を着替えた。
着替え終えるとウエストポーチに合羽と学生証と財布が入っているのを確認して肩から斜めにかけた。スマホをポケットに入れようと手に取った時に、キョウヘイと口裏を合わせとかなきゃいけなかったことを思い出し、「ごめん!キョウヘイ。母さんに今日、キョウヘイと遊ぶって言っちゃったから口裏を合わせといてくれ!」とラインのメッセージを送った。
自分の部屋を出ると、また洗面所へ向かって身だしなみを整えた。じっくり30分近く身だしなみを整えていたら午前8時を過ぎてしまった上に、「キョウヘイくんと遊ぶだけなのに、何でそんなに念入りに身だしなみを整えるの?」と母さんに疑問に思われてしまったので、途中で切り上げて玄関へ向かった。
俺が靴を履いて玄関のドアを開けた時に、急に母さんが、「セイ!」と俺を呼び止めた。
「何?」
「浮気したらダメよ!」
「しないよ!浮気なんて!」
そう言って、俺は玄関のドアを閉めた。
母さんは俺がキョウヘイじゃなくて女子と会うことに薄々気付いていたのかもしれなかったが、俺は一切慌てることなく毅然とした態度で浮気を否定した。なぜなら今日デートするカジワラこそが俺にとって浮気ではなく、本気の相手だからだ。