第65話
月曜日、明日から期末試験なのでクラスのだいたいの生徒が時間さえあれば試験勉強をしていた。俺ももちろんその中の1人だった。ただ今回の期末試験は絶対にカジワラよりもいい点数を取ってやろう!とは考えてないので、少し気が楽だった。それでもあまりにもひどい点数を取ったら、両親に叱られることが容易に想像できてしまうので、普段通りの点数は取れるように頑張らなくてはいけない。
放課後になると、先週よりも多くの生徒が教室で試験勉強をしていた。俺もいつもの4人で試験勉強をしていた。俺とカジワラとハタケは先週と同じく、教科書、ノートを見返したり、問題集を解いたりして、分からないところがあったらキョウヘイに質問するといった感じだったが、キョウヘイは違った。キョウヘイは俺たち3人以外にも教室で勉強している他の生徒からも分からない所を質問されていた。
なぜこんな状況になっているかと言うと、今この教室の中で一番成績が良いのが前回の中間試験で12位だったキョウヘイだからだった。でも、俺たちのクラスで前回の中間試験一番成績が良かったのはキョウヘイじゃなかった。俺たちのクラスには上田という、いつも別のクラスの神田と1位を争っている生徒がいる。キョウヘイが本気を出せばどうなるか分からないが、今のところ俺たちのクラスで成績が一番良いのは前回の中間試験で2位の上田だった。
しかし、上田は授業が終わるとさっさと下校してしまったので、教室に残って勉強している生徒は、次に成績が良いキョウヘイに分からない所を質問しているという訳だった。まあ、上田が教室に残って勉強していたとしても、キョウヘイに質問する生徒が多いと思う。なぜなら上田は少し個人主義なところがあって、同じクラスの生徒から質問されてもキョウヘイほど快く教えてくれないからだ。元々そんなに質問されないと分かっていても、期末試験では1位になるために上田は1人になれる場所で勉強しているのだろう。
キョウヘイが教室に残って勉強している他の生徒からも質問されているので、俺とカジワラとハタケはあまりキョウヘイに質問することができなかった。試験範囲で全く理解できないところは先週までにキョウヘイに質問して教えてもらっているので、そんなに困らなかったのだが、これではキョウヘイと一緒に勉強してる意味がなかった。そのため、俺は教室で午後2時過ぎまで勉強すると、キョウヘイたちに挨拶してから下校した。おそらく俺が帰宅するのを待ってるナツキと一緒に試験勉強しようかなと思ったことも理由の1つだった。
俺が家に帰ってきて自分の部屋で着替えをしていると、俺が帰宅するのを見計らったかのように家のチャイムが鳴った。俺が着替えを終えて玄関に向かうよりも先に、母さんが玄関のドアを開ける音が聞こえた。
「ナツキちゃん、いらっしゃい。」
「こんにちは。セイのお母さん。セイ、帰って来てますよね?」
「うん。帰って来てる。ささっ、上がって上がって。セイ、ナツキちゃん来たわよー!」
「分かってるよ!」
ナツキが階段を上がってくる足音が聞こえたので、急いで着替えを終えた。
その数秒後、部屋のドアをノックする音が聞こえたので、「入っていいぞ。」と答えた。すると、部屋のドアを開けてナツキが部屋に入ってきた。
「悪いな。帰って来たばかりでちょっと散らかって……。」
そこまで言って俺は声を詰まらせた。なぜならナツキの格好に驚いたからだ。ナツキは学校の制服でしかはいているところを見たことがないスカートをはいていた。小学生の時から私服はパンツ姿しか見たことがないナツキがスカートをはくなんてどういう風の吹き回しだ?と訝しんでいると、ナツキが、「どうかな?」と聞いてきた。
「どうかな?」と言われてもどう返せばいいのか全く分からなかった。ここはやっぱり、「似合ってるよ。」って言った方がいいのかな?それとも、「スカートなんて持ってたんだな?」と茶化した方がいいのかな?俺は少しの間、答えに窮していた。その時にパッとナツキの顔を見ると、ナツキの顔が少し赤くなっていたので、ナツキも恥ずかしいんだなと理解できた。恥ずかしくても、俺に見せるためにスカートをはいて来てくれたのだから、ここは茶化しちゃダメだ!
「うん。似合ってるよ。」
「ホントに?」
「うん。ホントホント。でも……。」
「でも?」
「いつものパンツの方が似合ってるから、無理してスカートをはかなくてもいいんじゃない?」
「そっか。分かった。ありがと。」
「さあ、早く試験勉強しようぜ。」
「うん。そうだね。」
俺とナツキは試験勉強を始めたが、しばらくするとスカート姿のナツキと一緒にいることが照れくさくなったが、制服でもスカート姿は見てるだろ!と自分に言い聞かせてなんとか耐えた。この日は試験前日なので、そこまで詰め込んでも良くないと思い、午後6時ぐらいに試験勉強を終えた。