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第62話

 次の日の水曜日から金曜日までの3日間の放課後は午後5時まで俺、キョウヘイ、カジワラ、ハタケの4人で試験勉強をして、午後5時に下校して家に帰ってきたら、俺の部屋でナツキと試験勉強をするという代わり映えしない日々を送った。カジワラは俺と2人きりで試験勉強はしないと言っていたので、午後5時になるとナツキと試験勉強をするために、まっすぐ家に帰った。


代わり映えしないといったが、少しだけ変わっていったところがあった。

それはうちを訪ねて来るナツキの服装だった。水曜日は火曜日とあまり変わらないTシャツとジーンズだったが、木曜日はTシャツの上に薄いカーディガンを羽織って来て、金曜日は太くてゆったりしたジーンズをはいていた。ナツキが段々とおしゃれになっていって少し戸惑ったが、やめさせる理由がないので何も言わなかった。ナツキも何も言わなかったので、たぶん何も言わないのが正解なんだろう。と思ったが、ナツキはほんの少し機嫌が悪いように感じた。


一応自分で服を選んで買っている俺だが、こだわりのブランドやコーディネートがあるほどファッションに興味があるわけではないので、女子のファッションなんかは余計に分からなかった。なので、寒くないのに薄いとはいえカーディガンを羽織る理由が分からなかったため、「そんなの着て暑くないのか?」とナツキに聞いてしまった。するとナツキは笑いながら、「これUVカットの機能があるから着てるんだよ。」と答えた。


へぇー。服っておしゃれに見える以外にも着る理由があるんだなぁ。だが、ナツキの家から俺の家までの距離しか外を歩かないのに、UVカットの機能は果たして必要なのだろうか?それはUVカットの機能だけでなく、カーディガンを羽織った方がおしゃれに見えるためという理由もあるんだろう。でも、ナツキは何でおしゃれに見えてほしいと思ったのだろうか?見るのは俺と母さんぐらいなのに……。うーん?これ以上は考えない方がいいかもしれない。


妙な忌避感を抱いたため、それ以上このことを考えるのはやめた。ちなみにナツキがはいていた太くてゆったりとしたジーンズはバギーパンツという種類だということを教えてもらった。


 土曜日、授業は午前までなので、午後からはキョウヘイたちとみっちり試験勉強しようと考えていたが、キョウヘイが午後から予定があるらしく、授業が終わるとすぐに下校してしまった。それでも俺とカジワラとハタケの3人で試験勉強しよう。と2人に提案したら、ハタケは了承してくれたのだが、カジワラが難色を示した。


「俺と2人きりじゃないんだからいいじゃん?一緒に試験勉強しよう。」と説得してみたが、カジワラは、「うーん?でも、トツカくんと一緒に試験勉強しても、私にメリットがあるとは思えないんだよね。それなら気の置けないミーちゃんと2人で試験勉強した方がはかどる気がするし、やっぱりトツカくんとは一緒に試験勉強しない。」と拒否した。


そんなに長い付き合いではないが、俺が理解しているカジワラの性格上、これ以上何を言っても無駄だと思い、「そっか。それじゃあ俺は帰って勉強するよ。カジワラ、ハタケ、また来週な。」と言い残して下校した。とぼとぼと帰宅するとすぐに自分の部屋に向かいベッドに少しの間、横になっていると、家のチャイムが鳴った。


すぐにナツキだなと予想し、玄関に向かうと、すでに母さんがドアを開けてナツキを迎え入れていた。ここ数日続いたことなので、ある程度は慣れたが、まだ少しこの状況は恥ずかしく感じた。ナツキがうちに来ることが高校生になったらほとんどなかったからだ。さっさとナツキと母さんを離れさせようと、「ナツキ!早く上がって来いよ!」とナツキに早く俺の部屋に来るように言った。するとナツキは、「うん。分かった。お邪魔します。」と脱いだ靴をそろえて階段を上がってきた。


ナツキが俺の部屋に入るとすぐに部屋のドアを閉めた。今日も俺の横を通り過ぎた時、ナツキからはシトラス系の香りがした。


「今日は早かったね。キョウヘイたちと試験勉強してくるものだと思ってた。」


「うん。そのつもりだったんだけど、キョウヘイの都合が悪くてさ。だから今日はすぐに帰って来たんだ。」


「そうだったんだ?まあ、私としてはセイと一緒に試験勉強する時間が長くなって嬉しいけどね。」


「そ、そっか。それじゃあ、さっそく試験勉強始めるか。」


そのあと俺とナツキは夜7時まで試験勉強をした。途中、いつも通り母さんが飲み物を持ってきたが、俺たちがまじめに勉強しているところを見ると、いつも通りがっかりして部屋から出ていった。


「それじゃあ、また明日ね。」


試験勉強を終えてナツキを玄関で見送った。


「ああ、また明日。……あ!そうだ!明日は市立図書館に行って勉強するか?ちょうど本を返しに行こうと思っていたんだけど。」


「そうなんだ。私は構わないよ。」


「それじゃあ、そういうことで。」


「うん。おやすみ~。」


「おやすみ~。」


ナツキが玄関のドアを開けて出ていったのを確認してから、自分の部屋へ戻ろうとするとリビングのドアから母さんがのぞいていた。


「何してんの?母さん?」


「セイ、あなた、ナツキちゃんと付き合ってるの?」


「は?母さん何言ってるんだよ?ナツキと俺は付き合って……。」


ちょっと待てよ。ナツキは偽物とはいえ俺の彼女なんだよな。てことは、ここは付き合ってるって言った方がいいのかな?でも、ここでナツキと付き合ってると言ったら、カジワラを家に連れて来る事ができなくなるよな。てことは、付き合ってないっていた方がいいのか?うーん?どっちなんだ?分からない。あー早く答えないと母さんに邪推されてしまうかもしれない。えーい!ここは……。


「付き合って……ないよ。」


自分で口に出したことなのだが、自分でもそれを聞いてすごく心が痛んだ。


「そっか。付き合ってないのか。残念。」


母さんは冗談で俺に聞いただけなのだろう。すぐにリビングのドアを閉めて戻って行った。だけども俺はこの日、なかなか眠れないほど自分の発言を悔やんだ。


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