第58話
日曜日、俺は朝から市立図書館に行くために出かけていた。
バスに乗って4つ先の停留所まで行き、そこから歩いて10分ほどの距離に市立図書館はあった。行ったことがなかったので迷わず行けるか少し不安だったが、前日の夜に調べておいたので迷わず行くことができた。思っていたよりも広くて蔵書も結構ありそうだった。
図書館に来たのはいいものの、カジワラとの共通の話題を作るために推理小説を借りに来たのだが、カジワラの好みを知らないので何を借りようか迷い出してしまった。直接カジワラに好みの推理小説を聞けばすぐに解決するのだが、直接聞くのは話題作りをしようとしているのがばれて恥ずかしいので無理だった。
う~ん?どうしよう?カジワラの好みは知らないが俺が知ってるような「コ〇ン・ドイル」や「ア〇サ・クリスティー」、「江戸川〇歩」などの作家の作品はどこか違う気がするな。カジワラはどちらかと言うと、そういう昔の作家の作品より現代の作家の作品を呼んでいる気がする。あれ?こんなこと前も悩んだ気がするな?え~と?いつだったかな?
10分ほど悩んで、そういえば、まだカジワラとちゃんとした形で付き合おうとしていた時にキョウヘイに言われて学校の図書室に行ったことを思い出した。つい最近のことだが、随分前のことのようにも感じられた。その時にハナザワさんと出会い、「ガ〇レオシリーズ」を薦められたことも思い出した。
そうだ!「東〇圭吾」なら現代の作家だし、学校の図書室で「探偵ガ〇レオ」を借りた時のカジワラの反応を見ると読んだことがあるみたいだから、話題作りには良いかもしれない。よし!「探偵ガ〇レオ」の続きを借りよう!
借りる本が決まったので、図書館のパソコンで「ガ〇レオシリーズ」が蔵書にあるか調べた。運よく「ガ〇レオシリーズ」が蔵書にあり、誰かに借りられてもいなかったので、すぐにどこの本棚にあるか調べて、陳列されている本棚へと向かった。
陳列されている本棚まで来たが、そこには誰もいなかったのですんなりと目的の本を確保することができた。せっかく図書館に来たのだから、すぐに帰るのではなく静かな空間で本を読もうかな。と思い、空いてる席を探し始めた。空いてる席はすぐに見つかったのだが、その席の近くに見覚えのある三つ編みの女子を見つけた。
ヤバい!あれは絶対にハナザワさんだ!ハナザワさんとはもう会ったらダメだとナツキに約束させられてるから、気付かれない内に別な席を探した方がいいな。……待てよ、ハナザワさんがこのままあの席にずっといるとも限らないんじゃないか?俺がハナザワさんから離れた席に座っても、ハナザワさんが本を探して俺が座る席の近くにやってくるかもしれない。やっぱりここはハナザワさんと出会わないために本を借りてすぐに帰った方がいいかもしれない。うん!その方がいい!
すぐに俺は図書館のカウンターに行き、「探偵ガ〇レオ」の続きを2冊ほど借りて図書館を出た。
よし!ハナザワさんに会うことなく図書館を出られたぞ!とホッとしていたら、「トツカ先輩!」と俺を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえてきた。パッと後ろを振り向くとハナザワさんがいた。おそらく俺を見かけて走って追いかけてきたのだろう。ハナザワさんは息を切らしていた。俺がどうしよう?と考えていると、ハナザワさんは、「良かった。ハァハァやっぱりトツカ先輩だった。ハァハァさっきチラッとお見かけしたので急いで追いかけてきたんです。」と笑顔で話しかけてきた。
打開策が思いつかなかったので、とりあえず、「そうなんだ?ごめん。俺は気が付かなかったよ。」と答えた。
「そんな。全然大丈夫ですよ。あの……トツカ先輩!もし良かったらお話しできませんか?」とハナザワさんが聞いてきたので、俺は、「ハナザワさん、ごめん!俺、彼女ができたんだけど、その彼女があまり他の女子と話したりするのをやめてくれって言ってるから、もうハナザワさんと話すことはできないんだ!ホントにごめん!」と正直に答えた。
ハナザワさんの顔を見ると少しショックを受けてる表情をしたが、すぐに笑顔で、「そう……ですか。それならしょうがないですね。そうですか……おめでとうございます。」とお祝いの言葉をくれた。
せっかくできた話し友だちを失うのは俺もつらかったが、これもカジワラと付き合っていくためだ!と覚悟を決めた。
「それじゃあ、俺は帰るから。」と言ってすぐにその場から離れた。ハナザワさんに冷たい対応をして、こんな冷たい奴とはかかわらない方がいいな。と思わせようとした。
覚悟は決めたがハナザワさんがどんな表情をしているかは、申し訳なくて見られなかった。