第53話
「カジワラと付き合ってもう3日も経つのにデートをするどころか一緒に帰ってすらいないのか?」
「ああ。実はそうなんだ。カジワラが『何か私を楽しませることを思いつくまで一緒には帰らない。』って言ってきたんだ。だから、一昨日と昨日はナツキと帰ったんだ。」
昼休み、俺は人があまり来ない第3特別教室で弁当を食べながらキョウヘイに今日までのカジワラとのことやナツキとのことを話していた。
「それで何か思いついたのか?」
「たいしたことは思いつかなかったけど、帰り道の途中でどっかのお店に寄って何か食べながら会話するのはいいんじゃないかと考えたんだけど、キョウヘイはどう思う?」
「う~ん、ただ歩きながら会話するよりはいいと思うけど、それでカジワラが納得するかは分からないな。ごめん。」
「いや、キョウヘイの意見を聞きたかっただけだから、全然大丈夫だよ。」
「それにしても、一緒に帰ってすらくれないとはカジワラは少し厳しい奴だな。これじゃ、デートしてもらうのも大変なんじゃないのか?」
「そうなんだよ!デートしてほしかったら、ナツキとまずデートして、カジワラを楽しませられるプランを立ててからじゃなきゃダメなんだよ!厳しいよな~?」
「そうか。でも、カジワラは恋人じゃなくて愛人としてセイと付き合っているわけだから、楽しい思いだけしたいのかもしれないな。」
「うん。きっとそうなんだろうけど、やっぱり厳しい気がする。」
「なぁ、セイ?まだ付き合って3日で聞くことじゃないけど、カジワラと付き合ってみて良かったと思ってるか?俺からすると愛人として付き合ってもらう前の方がマシのように感じるんだが。」
キョウヘイがジッと俺の目を見つめて真剣なトーンで俺に質問してきた。
確かにまだ付き合って3日とはいえ、お付き合いしている関係とは全く思えない動きをさせられている。これならキョウヘイの言う通り、付き合う前の方が一緒に居られてよかったのかもしれないと少しは思う。だけど、やっぱり愛人としてでも付き合ってもらっている今の方が良かったと思える。なぜなら……。
「キョウヘイからすると、そう思って当たり前だと思うけど、俺は付き合う前よりも愛人として付き合ってもらっている今の方が幸せだぞ!なぜなら、愛人としてでも付き合ってもらってさえいれば、誰かにカジワラを取られる心配が減るからな!」
俺はジッと見つめるキョウヘイの目をジッと見つめながら正直な気持ちを答えた。
キョウヘイは微笑みながら、「そっか。それならいいんだ。」と返答してきた。
そろそろ昼休みが終わりそうだったので、弁当の残りを急いで食べて、俺とキョウヘイは教室に戻った。
放課後、久しぶりにキョウヘイがすぐに帰らず、漫画談義をするため教室に残っていたので、カジワラとハタケがキョウヘイから離れた所に俺を連れて行き、「仲直りしたの?」と聞いてきた。俺はカジワラとハタケが俺とキョウヘイの関係がこじれていたことに気が付いていたのにもかかわらず、あまり追及してこなかったことをありがたく感じた。
「実はそうなんだ。」
「『なんで喧嘩してたの?』って聞いてもいい?」
ハタケがおずおずと質問してきた。
「ごめん。それはあまり答えたくないな。」
「そっか。それなら答えなくていいよ。ごめんね。」
「まあ、喧嘩の理由はどうあれ、仲直りしたのなら問題ないよ。今日からは4人で漫画の話ができるんだし。」
カジワラがそう言ってくれたので、俺の気も少し晴れた。
「おーい。俺をのけ者にするなよ。」
キョウヘイが寂しそうな顔をして俺たちの方にやって来たので、「ごめんごめん。」と謝った。
久しぶりにいつも通りの4人で漫画の話をしたので、かなり盛り上がった。あっという間に5時になってしまった。
「5時になったし、そろそろ帰ろうか?」
キョウヘイがそう切り出すと、俺とカジワラとハタケは「そうだな。」と言って、帰宅の準備を始めた。今日もカジワラは俺を待つことなくハタケと下校しようとしていたので、俺は「カジワラ、ちょっと待ってくれ!」と言って、カジワラを呼び止めた。
「どうかした?トツカくん?」
「カジワラを楽しませることを思いついたから、今日は一緒に帰ってくれないか?」
「そうなんだ?それでどんなことを思いついたの?」
「えーと、帰り道の途中でどっかお店に寄って何か食べながら話すというのはどうでしょうか?」
俺は緊張からか、いつもよりも丁寧な聞き方をしてしまった。
カジワラは少し考えこむような表情をしたが、すぐに、「ごめん。その案は却下だね。」と返答してきた。
「え?どうして?」
「理由は2つあって、1つ目は5時40分の電車に乗って、すぐに家に帰りたいから。2つ目は何か食べたいと思うほどお腹がすいていないから。」
「そんなぁ。じゃあこの案じゃ、ずっと一緒に帰ってくれないってことか?」
「う~ん、そこまで悪いって訳じゃないよ。ただ今日はタイミングが悪いってだけだよ。明日は土曜日で授業は午前中までだから、明日ならいいよ。」
「ホントか?」
「ホントだよ。」
「分かった!明日を楽しみにしてるよ!」
「うん。私も楽しみにしてるよ。私を満足させてくれるようなお店に連れて行ってくれるんだよね?」
「え?……うん。もちろんだよ。」
「それなら良かった!じゃあミーちゃん帰ろうか?じゃあね。トツカくん。イチノミヤくん。」
カジワラはそう言い残すと、ハタケと一緒に下校していった。
俺はカジワラと一緒に行くお店なんて決めていなかったので狼狽えていると、キョウヘイがポンッと肩を叩き、「頑張れよ!」と言い残して下校していった。俺は教室で1人ポツンと佇んでいた。