第45話
次の日、俺は一刻も早くカジワラに会いたくて、いつもより1時間も早く家を出て登校した。しかし、いくら俺が早く登校しようとカジワラも早く登校してなきゃ意味ないよな。と登校中に気が付いて、半分ほどの道のりは落ち込んで登校した。
学校に着いて自分のクラスの教室に来ると、俺が1番目だったみたいで他に誰もいなかった。誰もいない教室でカジワラが来るのを待っていたが、数分後教室に2番目に来たのはカジワラではなかった。2番目に来たのはキョウヘイだった。キョウヘイは俺に向かって、「おっす。」と挨拶してきたので、俺も「おっす。」と挨拶を返した。昨日は少し怒っている感じだったけど、1日経ったら機嫌を直してくれたのかな?と俺が考えていると、キョウヘイが、「どうだったんだ?」と尋ねてきた。
「え?」
俺は急に質問されたので何のことを聞かれているのか分からず聞き返してしまった。すると、キョウヘイは少し苛立ったような表情に変わり、「だから、ナツキとの話だよ!偽の彼女にはなってもらえたのか⁈」と語気を強めて質問してきた。
「あー!その話ね。それだったらOKもらったぞ。」
俺が笑顔でそう答えると、キョウヘイは悲しそうな表情?をして、「そうか。良かったな。」と言ったら、もう俺に話しかけてくることはなかった。キョウヘイが「話しかけるな!」という空気を出していたので、俺から話しかけることもなかった。
そのあと、15分ほど待つとカジワラとハタケが教室に入ってきた。それを見て、俺はすぐにでもカジワラに、「カジワラ!付き合ってくれ!」と言いたかったが、キョウヘイとの話が終わってからカジワラたちが来るまでにクラスメートが数人登校してきていたので、今そんなことを他の人にも聞こえるくらいの大声で言ったら、かなり恥ずかしい(カジワラも恥ずかしいと思う)のでグッとこらえた。
「おはよう。トツカくん。今日は早いね。」
俺が大声で付き合ってほしいと言うのを理性でこらえている間にカジワラの方から挨拶してきた。
「おはよう。」
「トツカくん、今日更新された『チェン〇ーマン』読んだ?すごく面白かったよ!」
「あー、『チェン〇ーマン』ね?まだ読んでない。それよ……。」
「えー⁈まだ読んでないの⁈すぐ読んだ方がいいよ!ていうか今すぐ読んで!それで『チェン〇ーマン』の話をしよう!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!『チェン〇ーマン』はちゃんと読むから、まず俺の話を聞いてくれ!」
「え?話って何?」
「話っていうのは……その……ここだと何だから昼休みに第3特別教室に来てくれないか?」
「分かった。今する話は終わりだよね?じゃあ、早く『チェン〇ーマン』を読んで!」
カジワラは俺の話に興味ないのか、内容を全く聞いて来なかった。それよりも早く『チェン〇ーマン』の話をしたいのか、俺に『チェン〇ーマン』を読むように急かしてきた。
「分かった。分かったよ。今から読むよ。」
俺はスマホを取り出して今日更新された『チェン〇ーマン』を読み始めた。俺のリアクションが見たいのか、カジワラがジーッと俺のことを見ていたので内容を理解するのが大変だった。
昼休み、俺は弁当を持って第3特別教室に向かった。いつもなら教室でキョウヘイと一緒に弁当を食べるのだが、今日は昼休みになるとキョウヘイは俺に声を掛けずにどこかへ行ってしまった。教室で1人で食べるのも嫌だったので、俺は第3特別教室でカジワラを待ちながら弁当を食べることにした。弁当を食べ終えた頃、カジワラが第3特別教室にやって来た。
「来たよ。人前でできない話って何?」
昨日の夜からずっと言いたかったことが言える!
俺は途中で噛んだりしないようにはやる気持ちを抑えるために深呼吸をした。すると、窓を開けずに弁当を食べていたので特別教室内が弁当のにおいがすることに気付いた。これから告白しようとしていた気分が一気に落ち込んだ。カジワラも弁当のにおいがする中で告白されるのも嫌かな?と思ったが、これ以上告白するのを我慢することもできなかったので、俺は、「カジワラ!俺と付き合ってくれ!」と告白した。
カジワラの顔を見ると、戸惑ったような表情をしていた。
「え?『付き合ってくれ!』って言われても、私言ったよね?『愛人にしかなりたくない!』って!」
「だから、カジワラには俺の愛人として付き合ってほしいんだ!」
俺がそう言うと、カジワラはますます困惑した様子で、「え?愛人としてってことは、トツカくん、彼女作ったの?」と尋ねてきた。
「ああ!作った!だから、俺と付き合ってくれ!人としておかしなことを言ってる自覚はあるけど、これはカジワラが出した条件なんだから、もちろん付き合ってくれるよな⁈」
カジワラが俺と付き合いたくないから断る理由として、「愛人にしかなりたくない!」って言ってたら、ますます困惑するだろうな。と思ったが、俺はやっと追い込んだカジワラを逃がすつもりはさらさらなかった。
「分かった。付き合うよ。」
「え?」
「だから、トツカくんと付き合うって言ってるの。」
思っていたよりもあっさりと付き合うと言ってきたので、今度は俺が困惑してしまった。
「ホントか?」
「ホントだよ。」
「ホントにホントか?」
「ホントにホントだよ。あんまり疑うと反故にしちゃうよ。」
「ごめんごめん。もう言わない!じゃあ、カジワラは今から俺の愛人ってことでいいんだよな?」
「うん。私に告白してきた人でホントに彼女を作った人はトツカくんが初めてだよ。」
「そ、そうなんだ?」
カジワラに言われたとおり彼女を作った俺と彼女を作らずカジワラのことを諦めた、これまでカジワラに告白した人のどっちが人として正しいのかは言うまでもないが、俺としてはカジワラを振り向かせようと努力はしたのだから、神様がいるとしたら許してくれるだろうと思った。
「まあ、私に告白してきたのはトツカくんが初めてなんだけどね。」
「はぁ?何だよ、それ!」
カジワラに告白したのが俺が初めてだとしても、俺のしていることが人として正しいことになるわけではないが、カジワラが俺をからかおうとしてくれたことで不思議と少し気が軽くなった。
「ところで、トツカくんの彼女って誰?もしかして図書室で一緒だった1年生?」
「いや、違うよ。俺の幼馴染のナツキだよ。」
「ああ、ヒナタさんね。トツカくん、ヒナタさんのこと好きだったんだ?」
「何言ってんだよ⁈俺がナツキのこと……。」
そこまで言って、俺は続きを言うのをやめた。カジワラにナツキが偽の彼女だとバレたら付き合ってもらえないかもしれない!と思ったからだ。
「『俺がナツキのこと』の続きは何?」
カジワラがニヤニヤしながら尋ねてきた。
俺は仕方なく、「俺が……ナツキのこと……好きだって知らなかったのかよ?って言おうとしたんだよ。」と答えた。
カジワラは更に笑いながら、「アハハハ!ごめんごめん。ちょっとからかっただけだよ!別にヒナタさんが本当の彼女じゃなくても大丈夫だよ!私を一番大事にしてくれたらね。」と言ってきた。
それは俺から「ナツキは本当の彼女じゃない。」という言質を取って俺と別れるためのブラフをかけているのかもしれないと思い、ますます気を引き締めよう!と思った。
「それじゃ、話は終わったよね?私、教室に戻るね。」
そう言うと、カジワラは教室に戻って行った。
俺はそれを黙って見送り、カジワラがいなくなったあと周りに誰もいないか確認してから1人で喜んでいた。