第40話
試合が終わってコートを出ると、応援してくれていた同じクラスの人たちがキョウヘイの周りを囲んだ。「やるじゃん!イチノミヤ!」「カッコよかったよ!イチノミヤくん!」など口々にキョウヘイを称賛した。すぐ気が付いたが、前の試合で八木を囲んでいた人数より多かったので、応援に来てくれた人も前の試合より増えたみたいだ。一応俺と八木も1本ずつシュートを決めていたが応援してくれていたクラスメートの目には俺と八木は入らないようだ。
まあ、クラスメートに褒められたくて頑張ったわけではないからどうでもいいっちゃどうでもいいのだが、この感じだとカジワラの反応も予想できてしまう。
「トツカくん、お疲れ!」
俺が意気消沈していると、カジワラたちの方から労いの言葉をかけてきた。
「ああ、カジワラ、ハタケありがとう。」
「やるじゃん!トツカくん!またシュート1本決めてたじゃん!」
「……別に無理して褒めてくれなくてもいいよ。」
俺はせっかくハタケが褒めてくれていたのに、ひねくれた意見を言ってしまった。すぐに後悔したのだが、ハタケはあまり気にしていないみたいで、「そんなことないよ!普通にすごいと思ったから言ってるんだよ!ね!レーちゃん!すごかったよね?」と本気で褒めていることを強調してきた。
「うん。確かにすごかったよ!あのほぼ膠着状態の時にシュートを決めたのは。でもトツカくんには悪いけど1番すごかったのはイチノミヤくんかな。あの逆転の3ポイントシュートはカッコよかったよね!」
「確かにイチノミヤくんの方がすごかったけど、トツカくんも頑張ってたと思うよ!」
「もういいよ。ハタケ。キョウヘイはすごい奴だって俺も思ってるから。ホント、顔も頭も良ければ運動神経もいいキョウヘイが俺なんかと友だちでいてくれる理由がよく分からないよ。」
俺が自虐的にそう言うと、ハタケが「友達になるのに容姿や能力は関係ないと思うよ。それよりも気が合うとかの方が大事だと思うよ。」と諭すように言ってきた。
ハタケの言葉にハッとした俺は、「ごめんごめん。本気で言ってた訳じゃないんだ。もう言わないよ。」と謝った。
「何を本気で言ってないって?」
俺は背後から急に話しかけられたので後ろを振り向くと、そこにはやっとクラスメートから解放されたキョウヘイが立っていた。
「なんでもないよ。キョウヘイには関係ないことだよ。」
「本当か~?怪しいな~?カジワラ、ハタケ、ホントに俺には関係ないのか?」
「ホントだよ。イチノミヤくんには関係ないことだよ。ね!レーちゃん?」
「うん。そうそう。イチノミヤくんには関係ないことだよ。」
俺の発言にカジワラとハタケは合わせてくれた。それでもキョウヘイは少し疑っている様子だったが、「まあいいか。それなら。」と渋々納得していた。
話が終わるとキョウヘイは急に申し訳なさそうな顔をして、「セイ、ごめん!」と俺に謝りだした。俺が訳が分からず、「急に何だよ?何で俺に謝るんだよ?」とキョウヘイに理由を尋ねた。
「さっきの試合の最後でセイにパスしなかったからだよ。ホントにごめん!」
「いやいや、あれはしょうがないって。俺さっきの試合、シュートの成功率低かったし、俺がシュート決めても同点で延長になるだけだったしさ。キョウヘイがシュート決めてくれたおかげで勝てて良かったと思ってるよ。だから謝るなよ!」
「いや、それは結果論だよ。それに一番良くないのはセイがシュートを入れてくれると俺が信じられなかったことだよ!セイはあんなに一生懸命シュ……。」
「あー分かった!分かった!キョウヘイの気持ちはよーく分かったから、俺がもういいって言ってるんだしこの話は終わりにしよう!」
キョウヘイが特訓の話をカジワラたちの前でしそうになったから俺は慌てて話を遮った。
「セイ!ホントにごめん!」
俺はまだ謝ってくるキョウヘイの肩を叩きながら、キョウヘイは性格もいい奴なんだよなぁ。と思っていた。