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第37話

 ジャンプボールは身長が相手の3年より高く、普段からスパイクなどでジャンプしていた八木が勝って、俺たちのクラスの伊東がボールを取った。俺はすぐに相手コートからパスをもらおうと「パス!パス!」と伊東に向かって言ったが、伊東は俺ではなく八木にボールをパスしてしまった。パスを受け取った八木は相手チームの3年生を華麗に抜き去りながらゴールへ近づいて行き、そのままレイアップシュートを決めてしまった。うちのクラスメートだけでなく、この試合を見ている他のクラスの生徒も「おー!」と歓声を上げた。


相手チームは3年生だったが、八木より背が高くガタイの良い選手がいなかったので、八木をブロックできずにあっさりと八木に点を取られてしまった。簡単に点を取る方法に気付いてしまったうちのクラスのチームメートは(俺と八木を除く3人は)ボールを全て八木に集めるようになってしまった。八木にボールを渡せば簡単そうにレイアップシュートを決めてくれるのでどんどん相手チームと点差を付けていった。球技大会のバスケの試合は1セット10分で多く得点を取った方が勝ちなので、もう8分以上経過して16点差ついているからうちのクラスが勝ちそうだと思ったが、俺は焦っていた。俺もリバウンドしたボールをキャッチしようとしたり、相手チームのボールをパスカットしようとしたりしたが、ほとんどボールに触れず、1回もシュートできず、全くいい所がなかったからだ。


どうしよう?これじゃカジワラにカッコいいところ見せられてないぞ。


相手チームの選手も八木にボールが集まっているので、まず八木にボールを渡さないように、うちのクラスのチームメート(八木と俺以外の3人)がボールを持ったら2人で徹底的にマークするようになっていた。動けずにいた伊東が八木にパスできそうにないので、仕方なくフリーだった俺にパスを寄越した。俺はパスを受け取るとドリブルして、キョウヘイの家の庭で練習した距離までゴールに近づきシュートを放った。俺が放ったボールは「シュッ。」という音しか立てずにリングを通過していった。


それを見て俺はホントは小躍りしたいほど喜んでいたが、すぐに相手チームの攻撃になるので気を立て直してディフェンスについた。しかし残り30秒ほどだったので逆転されることはないと俺の気が抜けていたのか、俺以外のチームメートの気が抜けていたのか、相手チームに1本だけシュートを決められてしまった。それでも試合結果としては20-4で俺たちのクラスが勝った。


試合が終わると俺以外のチームメートは意気揚々と応援していたクラスメートの方へ近づいて行った。クラスメート数人が歓声を上げてそれを迎えていた。しかし俺にとってはそんなことどうでもよかった。俺が気にしていたことはカジワラが試合を見てくれたかどうかということだけだった。俺がキョロキョロしながらカジワラを探していると、「セイ!こっちこっち!」と呼ばれたので、声のする方を向くと、キョウヘイが手招きしていた。キョウヘイの横にはカジワラとハタケもいた。


「セイ、お疲れ!最後のシュート良かったぞ!綺麗に決まってたもんな!」


キョウヘイはカジワラに俺の活躍を印象付けようとしているのか、必要以上に俺のことを褒めていた。


「カジワラ!どうだった?今の試合?」


キョウヘイがカジワラに俺が一番気になっていることを尋ねた。

カジワラは即座に、「カッコ良かったよ。」と答えた。俺がカジワラの返答に驚いて、「え⁈ホント⁈」と聞き返すと、カジワラは、「ホントホント。カッコ良かったよ!八木くんが!」と答えてきた。


いや、八木がかよ!と心の中でツッコんだが、すぐに、いや、それも仕方ないか。俺たちのクラスが勝ったのはほとんど八木のおかげだもんな。と思い直した。


カジワラの返答に納得いかなかったのか、俺のことを思ってくれたのか、キョウヘイが、「いやいや、セイはどうだった?」と(よせばいいのに)カジワラに質問してしまった。


「トツカくん?確かにイチノミヤくんの言う通り、最後のシュートは綺麗だったけど、それだけかな。八木くんの方がすごいし。ね?ミーちゃん?」


「そうだね。八木くんの方がすごかったかな。あ!でも、おめでとう!勝ってよかったね!」


「そういえば、まだお祝いの言葉を言ってなかったね。トツカくん、おめでとう!あ!私たちも勝ったんだよ!ギリギリの試合だったけどね。」


「ありがとう。カジワラたちも勝ったんだな。おめでとう。」


「ありがとう。で、このあとどうする?うちのクラスは男子のバレーがまだ勝ち進んでいるみたいだけど、応援に行く?」


「ごめん!バレーに出てる奴らには悪いけど、俺は応援には行かない。俺は次の試合で当たるクラスの試合を見ようと思う。」


「そっか。イチノミヤくんは?」


「俺?セイが行かないなら俺も行かない。俺も次の試合でうちのクラスと当たるクラスの試合を見るよ。次の試合は絶対に出て活躍したいからな。」


「そう。分かった。あ!でも、もし良かったら次の私たちの試合は応援に来てくれるかな?次で最後になるかもしれないしさ。」


カジワラが恥ずかしそうに笑いながら俺とキョウヘイにお願いしてきたので、俺は何も考えずに、「絶対行くよ!」と答えていた。


「ホントに⁈ありがとう!それじゃあ、私とミーちゃんは男子のバレーの応援に行くね。行こう!ミーちゃん!」


「うん!レーちゃん!」


カジワラが嬉しそうにしていたので、「絶対に行く!」と答えてよかったぁ~と思っていると、嬉しさが顔に出ていたのか、気付いたらキョウヘイがニヤニヤしながら俺を見ていた。


「なんだよ?」


「いや、これから当たるかもしれないクラスの試合を見るよりも大事なことはあるもんなぁと思ってさ。」


「そうだよ!分かってるならからかうようなことはするなよな!」


「ごめんごめん。悪かったよ。ほら、男子のバスケの次の試合始まってるぞ!ちゃんと見ないと!」


「分かってるよ!」


「あ!ここで1つ、セイに悪いニュースがあるんだが聞いてくれるか?」


「悪いニュース?一体なんだよ?」


「さっきのカジワラたちの試合酷かったから、『もう応援に行くのやめよう。』って言ってるクラスの奴らがいたから、カジワラはセイが応援に来てくれるのが嬉しいんじゃなくて、誰かが応援に来てくれるのが嬉しいんだってことだよ。」


「キョウヘイ。お前はひどい奴だな。そんな事わざわざ言わなくたって良かったじゃないか!」


「いや、セイが、『なんだかんだ言っても、カジワラは俺に好意を持ち始めてるんじゃないか?』って糠喜びさせても良くないかなぁって思ってさ。」


俺は、どうせなら糠喜びしたままの方が次の試合こそいい結果を出せたんじゃないか?と思い、キョウヘイを少し恨んでいた。


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