第29話
土曜日、授業は午前までなので、お昼を食べ終えたら、いつもの4人で試験勉強をした。
キョウヘイの迎えは5時に来てもらうように頼んだみたいなので、4時間近く時間があった。
この日も相変わらずカジワラは黙々と問題集を解き、ときどき分からない問題をキョウヘイに質問していた。俺はもうカジワラが俺に質問してくることは期待せず、黙々と問題集を解き、たまに問題が分からず頭を抱えているハタケに解き方を教えていた。
そんな感じで2時間近く時間が経った頃、俺は飲み物を買ってくると言って席を立った。だが俺が真っ先に向かったのは自販機のある場所ではなく、図書室だった。図書室に入ると席に座って勉強している人たちの頭を見て、三つ編みの女子はいないか確認した。俺は先週の金曜日に積極的に会うつもりはないとキョウヘイに言ったのだが、図書室にハナザワさんがいないか探していた。さすがにまた話す約束をしたまま2度と会わないというのも失礼な気がしたので、もう1度くらいは会って話ができないかな。と考えたからだ。しかし、この日は図書室にハナザワさんはいなかった。
せっかく図書室まで走って来たのに……。そういえば、図書室が混んでいる時は特別教室にいるって言ってたな。どうする?行ってみるか?いや、でも、図書室でまた会ったら話そうと言ったのに、特別教室まで会いに行ったら、すごくハナザワさんと話したいみたいに受け取られるかもしれない。それはマズイ。と思い、特別教室まで行くのはやめておいた。俺は急いで飲み物を4つ買い、キョウヘイたちがいる教室に戻った。
「遅かったな。何かあったのか?」
予想していた通り、キョウヘイが遅くなった理由を聞いてきたので、俺は4つの飲み物を見せながら、
「キョウヘイたちの分も買ってきたからだよ。俺の分はともかく、キョウヘイたちは何がいいか迷っちゃってさ。」と答えた。
「そうか。サンキュー。えーと、お金お金。」
「いーよ。別に。俺が勝手に買ってきたんだし。」
「いや、そういうのは良くない。ちゃんと払うよ。」
「そうだよ。それにちょうど喉渇いてて何か飲みたいと思ってたし。」
カジワラとハタケも飲み物代を払うと言ってきたので、ありがたく受け取った。
それからは何事もなく5時まで試験勉強をした。5時過ぎに下校して、カジワラとハタケを駅で見送ってからキョウヘイと合流した。キョウヘイは俺が車に乗り込むなり、ニコニコしながら、「なあ、ホントはどこに行ってたんだ?」と尋ねてきた。
俺は訳が分からず、「『どこに行ってた?』ってなんだよ?俺はカジワラたちと駅に行ってただけだよ。」と答えた。
すると、キョウヘイは不自然な笑顔をやめずに、「ほら、学校で試験勉強していた時、セイ飲み物買いに行っただろ?その時のことを言ってるんだよ。」と説明してきた。
「それは飲み物買いに行ったんだよ。ちゃんと買って戻って来ただろ?遅くなったのはキョウヘイたちの分を買ったからだって説明しただろ?」
「うん。それは聞いた。でも、いくら俺たちの分を買ってきたからって20分近くかかるとは思えないんだよ。なあ、ホントは図書室に行ってたんじゃないか?」
「と、図書室?いや、行ってないけど……。」
「図書室に行って、ハナザワさんと話をしてたんじゃないのか?」
「してないよ!だってハナザワさん図書室にいなかったし!」
「ほら、やっぱり図書室に行ったんじゃないか!」
「あ!いや、でもホントにハナザワさんには会ってないから!」
「ホントか?」
「ホントだ!ていうかキョウヘイは俺のなんなんだよ⁈なんでそんなにハナザワさんと会うのをやめさせようとするんだよ⁈」
「それはセイがカジワラに誤解されてほしくないからだよ。ハナザワさんと仲良くしているのを見られてハナザワさんに乗り換えたと思われたくないだろ⁈」
「確かにそうだけど。カジワラは何とも思わないと思う。」
「それでもだよ!」
最後は無理やりまとめられたが、普通の女子だったら他の女子と仲良くしていたらそう思う女子もいるとキョウヘイは考え、俺を心配してくれているのだろう。と考えることにした。だからと言って俺はハナザワさんと会うことをやめるつもりはなかった。キョウヘイの俺への対応は彼氏を束縛する彼女みたいな対応に思えたからだ。そこまでキョウヘイに俺を束縛する権利はないはずだ。




