第26話
午後の授業が終わり、放課後になると俺とキョウヘイはキョウヘイを迎えに来た車に乗ってキョウヘイの家に向かっていた。車中でキョウヘイはムスッとして何も言わずにいたが、しばらくすると、「お前、どうするつもりなんだ?」と聞いてきた。
「どうするつもりって?」
キョウヘイの言いたいことは分かっていたが、もしかしたら違うかもしれないので、ちゃんと口に出してもらおうと聞き返した。
「だから!ハナザワさんとかいう女子についてだよ!どうするつもりなんだ?」
「どうするも何も、ハナザワさんとは本の話をしただけだよ。」
「セイが今話すべきなのはハナザワさんじゃなくてカジワラだろ!『待ってるつもりはない。』って言われたんだろ!」
「『待ってるつもりはない。』どころか、『私とは付き合わない方がいいよ。』とまで言われた。」
「何でそこまで言われて落ち着いていられるんだよ⁈もしかしてカジワラと付き合うためにハナザワさんと付き合おうとしているのか⁈」
キョウヘイはヒートアップしていて、もし誰かに聞かれたらとんでもないことになりそうなことを大声で言い始めた。
俺はキョウヘイを落ち着かせるため、「そんなことはしないよ。それにまた話す約束はしたけど、今度図書室で会ったらっていう確実なものじゃないし、連絡先も交換してないよ。」と冷静に否定と言い訳をした。
「本当か?」
キョウヘイはまだ信じられないのか聞き返してきた。
「本当だよ。それに俺が落ち着いているように見えるのは、今更慌てたってしょうがないと思ってるからだよ。今度の中間試験でいい点とるのと球技大会で活躍することでカジワラを振り向かせるって決めただろ?それの結果が出るまでは慌てずにじっくりやるさ。」
「そうか?それならいいんだけどさ。いくら恋愛にルールがないとは言っても、セイが人として最低なことをするんじゃないかとひやひやしたよ。」
「カジワラと付き合うためにハナザワさんを利用したりしないって。」
「分かった。それが聞ければいいんだ。」
キョウヘイはやっと納得した様子を見せた。
そうこうしているうちにキョウヘイの家に着いた。
シュート練習と中間試験の勉強をして、7時半頃自宅に送ってもらった。
家に帰るとナツキから「窓開けて。」とメッセージが来たので窓を開けると不機嫌そうなナツキが隣の家の窓からこっちを見ていた。
「何を聞こうとしてるか分かる?」
とナツキが言ってきた。おそらくキョウヘイと同じことだろうとは思ったが、わざと気が付かないふりをして、「いや、全然。」と答えた。
「今日の昼休み!セイが下級生の女子と人気のない教室に行くところを見たって友だちが言ってたんだけど!どういうことセイってカジワラさんのことが好きだったんじゃないの?カジワラさんと付き合うために努力してるんじゃなかったの?」
「はぁ~。それは話すと少し長くなるんだけど……。」
俺は月曜日からのことをナツキに話した。
「つまりお薦めを聞いて借りた本の話をしていただけってことね?」
「そうだよ。」
「変なこととかしてないよね?」
「変なことって何?」
「変なことって言えば変なことよ!分かるでしょ!」
「あーはいはい。そんなことしてませんよ。」
「それならいいのよ。じゃあ、おやすみ~。」
そう言うとナツキは窓を閉めてしまった。
「何なんだ?あいつ?」
俺はナツキが俺がカジワラのことを諦めてハナザワさんを口説こうとしたと勘違いして怒っていたのか、俺がハナザワさんと人気のない教室で変なことしたんじゃないかと勘違いして怒っていたのか分からなかった。
いくら考えても分からなかったので、たぶん、両方なのだろう。と結論付けて俺も寝ることにした。