第24話
火曜日から木曜日の3日間は特に変わったことはなかった。
昼休みにカジワラに会うために図書室に行ったり、放課後はキョウヘイの家でシュート練習と中間試験の勉強をしたりとほとんど今まで通りの生活を送った。シュートの成功率は7割6分までいった。9割を目指していたが、この調子だと球技大会までずっとゴールの正面からのシュート練習をして終わりそうだったので、金曜日からはゴールのボードから少し斜めの位置でシュート練習しようとキョウヘイと話し合って決めた。月曜日に借りた本はなんとか木曜日の夜、寝る前に読み終えることが出来たので金曜日に返すことにした。
金曜日、キョウヘイと一緒に図書室に来たら、月曜日に図書室で会った三つ編みの女子が席に座って本を読んでいた。今思えばよせば良かったと思うのだが、俺は面白い本を紹介してくれたお礼をもう一度言おうと思い、三つ編みの女子に話しかけてしまった。いきなり話しかけると驚かれるかもしれなかったので、彼女の座っている席の机をトントンと指で叩き、彼女が振り向いたら、「やぁ。」と小声で話しかけた。三つ編みの女子は少し怪訝な表情をしていたが、俺が、「ほら、月曜日にこの本を紹介してもらった……。」と自分のことを説明すると、「あぁ。あの時の……。」と納得した様子だった。
「どうかしたんですか?」
「いや、紹介してくれたこの本が面白かったから、もう一度お礼を言おうと思って。サンキュー。」
「そうですか。それは良かったです。……あの、どの辺りが面白かったですか?」
「えーと、トリックが本格的な科学のトリックだったところかな。俺、あまり推理物の小説やドラマは見てないけど、そこが一番今まで見てきた推理物とは違ったかな。ただ文章だけだと理解するのが難しいトリックがあったね。」
「そうなんですよ!ガリレオは科学トリックがすごいんですよ!科学についてあまり詳しくない私には、20年以上前に書かれた小説だとは思えないくらい難しいんですけど、それが面白いんですよね!主人公の湯川教授のキャラも面白くて……すみません。いきなり興奮してしまって。あまり他の人と小説について話すことがないので、つい嬉しくて。」
「全然大丈夫だよ。むしろ俺もこの本について話ができてうれしいし。」
「ホントですか⁈」
三つ編みの女子が真剣な表情で聞き返してきたので、少し気圧されながら、「ホントだよ。」と答えると、彼女は、「良かったぁ。」と安堵していた。
「あの、もし良かったらなんですけど、もう少しお話しできませんか?」
おずおずとした様子で三つ編みの女子が尋ねてきた。
「いいよ。全然。でも図書室でこれ以上話すのは良くないから、図書室から出て話そう。」
「分かりました。それじゃあ、図書室から出ましょう!」
三つ編みの女子は待ちきれないといった様子で席を立った。
俺はそんな彼女を制して、「ちょっと待って。この本返却してからでいいかな?」と聞いた。
「もちろんです!それじゃあ、私は先に出て、図書室の外で待ってますね。」
「うん。分かった。」
俺はそう答えるとカジワラのいるカウンターに向かった。
「この本返却しま~す。」
「トツカくん、もう読んだんだ?意外と早かったね。」
カジワラはそんなことを言いながら本を受け取った。
「面白かったから、わりかし早く読めたよ。」
「それにしても一年生の女子と楽しそうに話していたけど、彼女が彼女候補?」
月曜日と同じく、こっちの胸にぐさりと来るようなことをカジワラは言ってきた。
しかしこのくらいで動揺していたら、今後良くないと思い、「まぁ、そうかもね。どうする俺が彼女に本気になったら?」と強がって尋ねた。
カジワラは真剣な表情で、「その方がいいよ。愛人志望の私と付き合ってもいいことないよ。」と答えた。
俺は月曜日と同じく、それ以上何も言えずに図書室を後にした。