第19話
この日は2時からシュート練習と中間試験の勉強をしていたので、いつもより早い7時に切り上げてキョウヘイの自宅に向かった。
キョウヘイは、「いつもより早いし、夕飯食べていったらどうだ?」と提案してくれたが、そこまでお世話になるのは申し訳なかったので、「ありがとう。でも家に帰って食べるって母さんに言ってあるから。」と言って断った。
「そうか。それなら仕方ないな。」
キョウヘイはそう言って、何度も誘ってくることはなかった。
キョウヘイの自宅まで来ると、いつもなら車に乗り込む時にサンドイッチと水筒を渡してくる使用人さんがこの日はいなかった。少し残念な気持ちになったが、全然気にしない素振りで車に乗り込んだ。キョウヘイも車に乗ると車は俺の家に向けて発進した。車が発進するとキョウヘイがすぐに、「セイ、ごめんな。」と俺に謝ってきた。
「何で謝るんだよ?」
「実は今日は一緒に夕飯食べるもんだと思ってたから、サンドイッチを用意してもらってなかったんだ。」
「全然大丈夫だよ。むしろ今までキョウヘイの優しさに俺が甘え過ぎていたんだから。」
「あと、明日も一緒に試験勉強をしたいと思っていたんだけど、外せない用事ができちゃったから、申し訳ないけど明日は1人で試験勉強してくれるか?」
「外せない用事なら仕方ないよ。俺は大丈夫だから、気にすんなよ。」
「悪いな。あとこれは提案なんだが、来週は昼休み、図書室に行こう。」
「え?何で?」
「おいおい、忘れたのか?来週は図書委員のカジワラが図書室のカウンター係を担当する週だろ。だからセイも図書室に行ってカジワラにアピールするんだよ。」
「アピールするって何を?」
「カジワラが漫画だけじゃなくて、小説を読むのが好きなのは知ってるよな?」
「ああ知ってるよ。だから図書委員をやってるんだろ。」
「そこでカジワラが好きな小説を借りれば、いつもの漫画の話題以外の話題ができるだろ?それでもっとカジワラとの距離を詰めるんだよ。」
「そっか。俺、漫画という共通の話題があるから、カジワラが薦めて来ても苦手な活字だけの小説はあまり読んでこなかったけど、もっとカジワラに近づくためにはカジワラの好きなものを理解しないといけないよな。」
「そういうこと!やっぱり共通の話題が多い方が仲良くなれると思うんだよな。」
「分かった。来週の昼休みは図書室に行くよ。ところで……。」
「何だよ?」
キョウヘイは俺が次に何て言葉を発するか身構えていた。
「カジワラの好きな小説って何だっけ?」
「お前そんなことも知らないのかよ?ホントにカジワラのことが好きなのか?」
キョウヘイは俺の発言に心底呆れているようだった。