第18話
キョウヘイが見せてきたのは1年の最後の期末試験の数学の解答用紙だった。
それには88点と右上の方に書いてあった。
「これが何だって言うんだよ⁈俺が言った通り80点台じゃないか!」
「俺が見てほしいのは点数じゃなくて正解している問題を見てほしいんだよ。」
「正解している問題?」
俺はキョウヘイの言ってることが理解できなかったが、とりあえず解答用紙の右上から下の方へ視線を移動させた。俺でも正解できた計算問題を2問間違えていたので、おいおい。こんな問題間違えてるのかよ?これでよく88点もとれたな。と心の中でキョウヘイに呆れていた。しかし、解答用紙の一番下まで視線を移動させると、俺はとんでもない事実に気が付いた。
数学の最後の問題、配点20点の文章問題をキョウヘイは20点満点で正解していたのだった。
この試験問題を考えた数学担当の千賀は最後に配点の多い文章問題を出す先生で、全部正解していなくても解答の過程があっていたら部分点をいくらかくれたが、全然当たっていなくても解こうとした意志が見えると1,2点くれるという先生だった。そのセンガがこの時の最後の文章問題は満点の人は280人中3人だと言っていた気がしたので、その問題をキョウヘイが正解しているのに驚いてしまった。
「おい、何で最後の問題を正解してるんだよ⁈簡単な計算問題を間違えているくせにさ!」
俺が疑問をそのまま口にすると、キョウヘイがニヤリと笑いながら、「それは簡単な計算問題は満点を取らないためにわざと間違えたのさ。」と答えた。
キョウヘイの返答が俺を余計に混乱させた。
「満点を取らないためにわざと間違えた⁈何でだよ⁈テストなんていい点を取って困ることなんてないだろ⁈」
「俺は困るんだよ。セイは俺に4つ歳が離れた兄貴がいることは知ってるよな?」
「ああ、知ってるよ。一さんだろ?何回か会ったことあるよ。それで兄貴がいることと満点を取りたくないことがどう関係しているんだよ⁈」
「それは……簡単に言うと兄貴と同じくらい、もしくはそれ以上に優秀だと思われないためだよ。兄貴は少し頑固なところがあって、他人からの忠告をあまり聞かないんだ。それを父さんはあまりよく思ってなくて、今のところ会社は兄貴に継がせるって言ってるけど、俺の方が兄貴より優秀だって父さんが思ったら、俺に会社を継がせるって言い出すかもしれないから、兄貴より優秀じゃないと思ってもらわなきゃいけないんだよ。俺は父さんとも兄貴とも揉めたくないからな。」
「そうか。そういう事情があったのか。でもさ、確かハジメさんが通ってる大学って……。」
「ハー〇ードだよ。」
「だよな。だったらわざと優秀じゃないふりをしなくても、ハジメさんの方が優秀なんじゃないのか?」
「それはそうかもしれないが、一応念には念を入れてな。」
「それに優秀じゃないふりをするんだったら難しい問題を正解するんじゃなくて簡単な問題を正解した方がいいんじゃないか?」
「だって最後の問題って点数調整難しいじゃんか。それなら配点が分かってて点数調整の簡単な計算問題を間違えた方がいいじゃん。」
「つまりキョウヘイは最後の問題が不正解で数学のテストの点数が80点というのは嫌だったという訳だよな?」
「要はそういうこと。80点じゃ50位以内に入れないからな。父さんに50位以内には絶対入れって言われているからな。」
「うーん?まあ、よくわからないけど、キョウヘイは定期試験では本気を出してないわけだろ?わざと間違えなければもっといい点とれるわけだろ?」
「まあな。わざと間違えなければ10位以内には入れるだろうな。」
「それを聞けて良かった。キョウヘイに教えてもらえば10位以内も夢じゃないってことだよな。よしっ!やる気出てきた!正直に言うと、20位台のキョウヘイに教わっても、良くて30位台にしか入れないんじゃないかと思ってたからさ。」
「やる気が出てきたのなら良かった。それじゃあ、時間を無駄にしないためにも、試験勉強に戻ろうか。」
「ああ。」
その後は3時半まで試験勉強をしたあと、シュート練習と試験勉強を交互に行った。本気出せば10位以内に入れると豪語した通り、キョウヘイは俺の質問にすべて答えてくれたし、全て正解していた。
シュート練習は全部で291本中182本入った。シュートする位置はゴールの正面とはいえ成功率が6割を超えてきたので素直に喜んだ。