第111話
あれは高1の11月の終わりだった。
俺がカジワラと放課後にお互い読んだ漫画について話すようになったころだった。まだ、クラスが違ったので、キョウヘイやハタケとは一緒じゃなかった。
その時は以前俺が面白いと思って薦めた恋愛漫画をカジワラが読んできたと言ったので、その感想を聞いていた。
カジワラは感想を言う前に、「私、恋愛漫画ってあんまり好きじゃないんだよね。」と前置きしていた。恋愛漫画が好きじゃないと言った通り、カジワラの感想はほとんどが批判ばかりだった。
ヒロインが彼氏の言動の意味を勘違いしすぎだ。とか、ヒロインがもっと彼氏と腹を割って話せば、しなくてもいい喧嘩をしているのが腹が立つ。とか、ヒロインが彼氏を信じられず、1回別れて別の男子と付き合うのが尻軽すぎる。とか恋愛漫画でありがちなことに全部キレていた。
「そして何より腹が立つのが、高校生のカップルが将来結婚していることを匂わせてこの漫画が終わってることだよ!」
とカジワラが言ったので、俺は、「え?どうしてだ?高校生で付き合って結婚する人たちはいるだろ。」と反論した。
するとカジワラはため息をつきながら、「そりゃいるかもしれないけど、そんな夫婦長続きしないよ。」と言ってきた。
「なんでだよ!そんなの分からないだろ!」
「分かるよ!学校という狭い世界で出会った異性よりも大人になって広い世界で出会う異性の方が魅力的な人が多いって絶対!学校なんて年の近い人しかいないけど、社会に出れば大人の異性とも知り合えるしね。」
「そんなもんかなぁ?」
「絶対そうだよ!それに結婚が幸せだと思わせようとしているのがおかしいよ!『結婚は人生の墓場だ』って言葉もあるんだよ!私は結婚が幸せだと思えないな。」
「確かに結婚が必ずしも幸せではないとは思うけど、幸せだと感じる人もいるだろうから、これはこれでいい終わりだと思うけどなぁ。それにカジワラは一生結婚しないつもりか?」
「うん。しないよ。」
「え?」
俺は予想してない返答に驚きの声を上げてしまった。なんだかんだ言っても、カジワラは本当に好きな人ができたら結婚するよ。と答えると思っていたからだ。
「ホントにしないのか?」
「うん。ホントにしない!私は愛なんて不確かなものは信じないから。」
夕日の光が当たっているのにもかかわらず、カジワラの顔には暗い影ができているように感じた。
なぜだか、カジワラにそういう考えを持ったまま生きてほしくないように感じた。じゃあどうすればいい?俺がカジワラに愛という不確かなものを証明すればいい!夕日が沈みかけの教室で俺はそう考えた。
「……そしてそれからはカジワラのことを異性として見始めて、段々と好きになっていったんだ。これが俺がカジワラを好きになったきっかけだよ。」
俺が話すのをナツキとハナザワさんは黙って聞いていたが、俺の話が終わるとナツキが、「それでも、セイが証明する必要はないんじゃない……?」と言ってきた。
しかし俺はきっぱりと、「いや、もうカジワラに愛を証明したいと思うだけじゃなくて、俺はカジワラのことが好きなんだ。好きだから彼女になってもらいたいし、ずっと一緒にいたい。」と答えた。
「……でも……でも……。」
「もういいんじゃないですか?ヒナタ先輩。」
ハナザワさんがナツキの言葉を遮った。
「トツカ先輩がカジワラさんを好きなのは分かっていたことですし、それに夏休みが始まる前に2人で決めたじゃないですか。トツカ先輩がどんな決断してもそれに従おうって。」
「それは……うん。そうだったよね。分かったよ。私諦めるよ。セイのこと。」
「私も諦めます。」
「ありがとう。2人とも。そしてごめん。」
「謝らないでください。トツカ先輩。無理を言ってたのは私たちなんですから。」
「それでもごめん。」
「さっさと教室から出て行ってよ!私たちは2人でやることがあるから。」
「分かった。それじゃ。」
俺が教室から出ていくと教室の中から二人の泣く声が聞こえてきたような気がしたが俺は振り向かなかった。
俺はクラスには戻ると、キョウヘイに話しかけた。
「キョウヘイ。俺やるよ。」
「え?やるって何を?」
キョウヘイは理解できず俺に問い返してきた。
「だからギターの練習をだよ!そして文化祭でカジワラにまた告白する!」
ナツキとハナザワさんを振ったし、もう新たに形ばかりの彼女を作ったりしない!文化祭でカジワラを本当の彼女にするんだ!そう俺は決意していた。




