第105話
次の日の火曜日、夏期講習が終わった後の文化祭の出し物についての話し合いで、伊東がクラスの奴らに意見を求めたところ、
「もう、バルーンアートでいいんじゃね。」
「そうだよな。これ以上無駄な時間過ごしたくないしな。」
「バルーンアート!バルーンアートで決定!」
と一部のクラスメートが騒ぎ始めた。
それに対して伊藤は、「そうだな。もうこれ以上待ってもアイデアは出そうにないし、バルーンアートに決めようと思います!反対の人がいたら手を挙げてくれ!」と決を採り始めた。手を挙げる人はいなかったので、そのままうちのクラスの出し物はバルーンアートの展示に決まった。
これは伊東はうまい手を使ったな。と思った。こういう消極的な奴らが多い場面では賛成の人より反対の人に手を挙げさせれば、手を挙げてまで反対しようと思う奴がいなくて、すんなり決定することができるんだよな。
俺が伊東のことを少し感心していると最後に伊東が、「あ!あと文化祭で個人やグループで何か出し物をしようと思っている人は出し物や借りたい場所を明記して再来週までに文化祭実行委員会に提出してくれ。」と付け足して、長かった文化祭の出し物についての話し合いが終わった。
出し物についての話し合いが終わった後、いつもの4人で漫画の話をした。俺は昨日と同じく何事もなかったかのように振る舞った。キョウヘイとカジワラの俺への接し方は変わらないように感じたが、ハタケの俺を見る目が何かを疑うように鋭い目をしているように感じられて、少し恐怖を感じた。
ヤバい!どこか不自然だったかな?でも、普段の俺ってこんな感じじゃなかったっけか?とりあえずもう少し抑え気味にしてみるか?
俺は試行錯誤しながら「普段通り」の自分を演じた。
4人での漫画の話を終えた後もハタケに何かを指摘されるんじゃないかとびくびくしていたが、ハタケは何も言わずにカジワラと一緒に下校していった。
なんだ。俺の勘違いだったのかな?と思わなくもなかったが、ハタケは結構鋭いので今後も気を付けようと肝に銘じた。
その後は図書室に行って図書室が閉まるまでハナザワさんと一緒に本を読んだ。図書室が閉まった後は昇降口でナツキの部活が終わるまで待って、ナツキと一緒に帰宅した。
そこまでは特に変わったことがなかったのだが、何かが起こったのは帰宅してからだった。
俺が自室で県立図書館から借りた本を読んでいた時、スマホからメッセージの着信音が鳴ったので、スマホの画面を見てみるとキョウヘイから、「セイ、お前ギター弾けるか?」というメッセージが来ていた。
ギター?何でギターの話なんかしてくるんだ?
俺はキョウヘイの話の意図が理解できなかったが、とりあえず、「いや、弾けないけど。それがどうかしたか?」と返信を送った。
するとすぐにキョウヘイから返信が来て、「そうか。それなら俺が教えるからギターを弾く練習をしよう!」とあった。
「何で俺がギターを弾く練習をしなきゃいけないんだよ!」と返信すると、今度はメッセージではなく、音声通話の着信が鳴り始めた。
「もしもし。」と音声通話に出ると、「文化祭で演奏するためだよ!」とキョウヘイの大きな声が聞こえてきた。
「何で俺がギターの演奏なんかしなきゃいけないんだよ!」
「文化祭でカッコよくギターを演奏して、その後カジワラに告白するんだよ!」
「え?告白?」
「そうだよ!ギターを弾くという普段見せない姿を見せることと文化祭という特別な空気が合わされば、きっとうまく行くと思うんだよな!」
「でも、あと2ヵ月ぐらいで弾けるようになるものなのか?」
「それはセイの努力次第だろ!」
「……うーん。ちょっと考えさせてくれないか?」
「まあいいよ。でも、再来週までには決めろよ!場所を借りる申請をしなきゃいけないんだからな!」
「分かってるよ。それじゃあな。」
キョウヘイとの通話が終わった後、俺は、「ギターかぁ。」と独り言をつぶやいた。
確かに文化祭の後なんかはカップルになる奴らが増えるとは聞いたことがある。文化祭には特別な空気が実際あるんだろう。ただカジワラにそれが効くのかなぁ?と疑問に思ってしまう。
ただ夏休みが終わったら、ナツキとの形ばかりの彼氏彼女の関係を終えて、カジワラには愛人としてではなく彼女として付き合ってもらおうと考えているため、何かしら作戦を考えなきゃいけないと思っていたから、渡りに船と言えば渡りに船なのだが、望み薄に感じてしまう。
まあ、まだ時間はあるし少し考えてみるか。
と、そこで今は考えるのをやめて本を読み始めた。




