第104話
ナツキとデートをした日の次の日、俺は先週と変わらず学校で夏期講習を受けていた。
ナツキから俺を好きになった理由を聞くことはできたが、それを聞いて俺がカジワラを好きになった理由を思い出すきっかけにならなかったことに俺は少し焦りを感じていた。あと3週間後にはナツキとハナザワさんを振らなくてはいけないのに、俺がカジワラを好きになった理由も答えられないようじゃ、ナツキとハナザワさんに申し訳なく感じるからだ。
こうなったら、一縷の望みに賭けてハナザワさんにも俺を好きになった理由を聞くしかないな。よし!今日会う時に聞いてみるか!
そんなことを考えてるうちにこの日の授業は終わった。
なんかカジワラに告白してからいろいろなことがあって、勉強に身が入ってる時と身が入ってないときの落差がすごいなと自分のことながら少し呆れて苦笑してしまった。
そんな俺の心の内を知ってか知らずか、この日の最後の授業をした英語担当の藤井が授業が終わった後、「いいか。受験は高校3年から始まるわけじゃないんだからな。今努力した奴が再来年の春に笑ってるんだからな。」とクラスの全員に活を入れた。
そんなことは分かってるんだよ!でもどうしようもないんだよ!俺がまいた種とはいえ、今俺が置かれてる状況を何とかしてくれるなら、たいして親しいわけではないが、藤井に相談しに行ってもいいくらいだぞ!
俺は心の中でやり場のない怒りを藤井にぶつけていた。
授業が終わった後、文化祭の出し物についての話し合いが始まった。
議題は先週伊東が伝えてあった通り、何の展示をやるかだ。先週アイデアを考えてくるように伊東が言ってあったのにもかかわらず、誰もアイデアを提案しなかった。20分ほど伊東がアイデアを出してくれるようにクラスメート全員に頼んでいたが、結局なにもアイデアは出なかった。これだと先週と同じく時間の無駄だと考えたのか、伊東は話し合いの最後に、「明日、バルーンアート以外のアイデアが出なかったら、うちのクラスの出し物はバルーンアートの展示に決めるから。」と宣言した。
その方がいいと俺は感じていた。決して俺のアイデアに決まってほしいという感情からではなく、これ以上時間を無駄にしたくないという感情から、そう感じていた。
文化祭の出し物についての話し合いが終わった後、いつもの4人で漫画の話をした。
ハタケだけでなくカジワラも俺の最近の様子がおかしいと思っていることを先週の土曜日に知ったので、できるだけ一ヶ月ぐらい前の俺を再現できるように努めたが、自分らしくあるようにしようと思うと余計に自分らしくないようになっているように感じた。
しかし、ハタケもカジワラも事情を知っているキョウヘイですら、俺に何も聞いて来なかったので、もしかしたらうまく行ったのかと思った。結局その日は何も言われずに4人での話は終わった。
その後、俺は急いで第3特別教室に向かった。俺が第3特別教室に着くともうすでにハナザワさんが教室の中で待っていた。俺は事前にハナザワさんに今日は図書室ではなく第3特別教室に来てほしいとメッセージを送っておいたのだった。
「お待たせ。」
「トツカ先輩、何か重大な話でもあるんですか?」
ハナザワさんがそう尋ねてきた時の声色が少し悲しみを帯びていたので、俺はすぐに、「あ!まだナツキとハナザワさんのどちらを彼女にするかを決めたわけではないよ!」とハナザワさんが心配してそうなことを否定しておいた。
すると、ハナザワさんの表情が少し明るくなったような気がした。
「それじゃあ、どんな話があるんですか?」
「うん。実は……ハナザワさんが俺を好きになった理由を聞きたいんだけどダメかな?」
「私がトツカ先輩を好きになった理由ですか……?」
「そうなんだ。この質問はハナザワさんだけでなくナツキにも聞いてるんだけど、ナツキは答えてくれたんだけど……ダメかな?」
俺は自分でもズルいと思ったがナツキに同じ質問をして、ナツキが答えてくれたことをハナザワさんに伝えた。そう伝えれば、ナツキへの対抗心からハナザワさんが答えてくれそうな気がしたからだ。
「……ちょっと考えさせてください。」
「もちろんいいよ!」
そう答えたが、俺を好きになった理由は考えなきゃ答えられないのかぁ。と少し残念に感じていると、
「あ!考えるのは好きになった理由ではないですからね!」
とハナザワさんが付け足してくれたので俺は少しホッとしていた。
「……それは今度デートするときに答えるのでもいいですか?」
「もちろんいいよ!」
「やった!それじゃあ、今度の日曜日にまた一緒に県立図書館に行ってくれませんか?」
「大丈夫だよ。」
「ありがとうございます!楽しみにしてます!」
ちょっと考えるというのは、好きになった理由を答える見返りを考えていたのかな?どちらにせよ、今度の日曜日はハナザワさんと一緒に県立図書館に借りた本を返しに行こうと思っていたのでちょうど良かった。
もともと考えていたことなのに、ハナザワさんがすごく喜んでいたので、俺はとても申し訳ない気持ちになった。