第103話
バーンッ!!!
すごい音に一瞬びっくりしたが、すぐに今の状況を把握した。
ナツキが打ったビーチボールがすごい音を立てて破裂してしまったのだ。
あのビーチボールはボロボロだったから破裂してもしょうがないか。あれ?でも、この場合って勝負はどうなるんだ?
勝負の結果をどうするか、ナツキと話し合おうとしたら、ナツキは俯き加減で何かをブツブツとつぶやいていた。
「おい。ナツキ……。」
と俺が話しかけるとナツキは、「今の勝負は無効ね!」と強い口調で言ってきた。
「だってそうでしょ?ボールが割れるという不測の事態が起こっちゃったんだから!それにルールに『ボールを破裂させた方の負け』とはなかったよね。」
「うん。確かにそうだな。俺もナツキもビーチボールのボロさを考慮してなかったしな……。」
ナツキの言う通りなんだが、少しだけ納得がいかなかった。
「……でもナツキ、ルールには『ボールを相手に返せなかった方の負け』というのはあったはずだ。てことはルール上では俺のボールを返せなかったナツキの負けってことになるんじゃないか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!それは拡大解釈し過ぎじゃない⁈」
「そうかな?それにボールのボロさを俺が考慮してなかったのは確かだけど、そんなボールを勝負に使ったナツキの配慮が足りなかったのも事実としてあると思うけどな。」
「そ、それはそうだけどさ……。」
ナツキは俺の意見を聞いてしゅんとしてしまった。
少し言い過ぎたかな?でもこのぐらい言ってやらないと不利な勝負を受けた俺の気が収まらないしな。
「でもいいよ!今の勝負はなしってことで!」
「え?いいの?」
「いいよいいよ。ボールの状態をよく確認しなかった俺が悪いって点もなくはないしさ。それよりも暑くない?どこか涼める場所に移動しないか?」
「……分かった。それじゃあ、荷物を片付けてどこかカフェにでも行こうか?」
「そうしよう。」
俺とナツキは割れたビーチボール、空になったお弁当箱、レジャーシートなどを片付けて公園を後にした。ナツキと話し合い、○○公園から家に帰るまでの間のどこかのカフェに入ることになった。
15分ほど歩いたところで良さげのカフェがあったのでそこに入って、俺はアイスコーヒーをナツキはアイスティーを頼んだ。カフェに来るまで、ほとんど会話らしい会話をナツキとしていなかったが、カフェに入って対面で座っているという現状はどうあっても会話しなきゃ不自然な状況なので、俺は何か話題を探し始めた。
そういえば、俺が読んだ恋愛小説の話がまだ途中だったな。その話をしてみようかな。
と俺が考えてると、ナツキが、「あのさセイ……。」と話しかけてきた。
「ん?どうした?」
「私がセイのことを好きになった理由まだ聞きたい?」
「そりゃ聞きたいけど、答えてはくれないんだろう?」
「いいよ。答えてあげても。」
「ホントに?さっきは勝負を無効にしてまで答えようとしなかったのに、どういう風の吹き回しだ?」
まだ○○公園で勝負を終えてから30分くらいしか経っていないので、急に態度を変えるのは何か裏があるんじゃないか?と俺はナツキを疑った。
「うーんと、それはね。やっぱりあの勝負は私の負けじゃないかと思い始めたのと、私がセイのことを好きなった理由を答えたら、セイがもっと私のことを意識してくれるんじゃないかな?って思ったから。」
「そうか……。」
「どうする?それでも聞きたい?」
確かに自分を好きな相手から自分を好きな理由を聞いたら、意識してない相手でも意識し始めるかもしれないな。でも俺は俺がカジワラのことを好きになった理由を思い出すきっかけになるかもしれないからどうしても聞きたかった。そのため、「うん。それでも聞きたい。」と答えた。
「分かった。フー、ハー。それじゃ話すね……。」
「あ、ちょっと待った。」
「え?何?」
俺は店員さんが近づいて来ていたのでナツキが話し始めるのを止めた。思った通りその店員さんは俺たちが頼んだ飲み物を運んできた。店員さんが飲み物を置いて離れて行ったら、「はい。いいよ。」とナツキに話し始めるように促した。
「う、うん。それじゃ、あれは小学4年生の時だけど、その時ですでに身長が160センチぐらいあった私が一部の男子から『巨人』って言われてからかわれていた時に、セイがやって来て、『ナツキに勉強や運動だけじゃなくて身長でも勝てないからって、それをからかうのはやめろ!』って言ってくれたんだ。相手の男子が、『そんな理由じゃねぇよ!』って言ってきたら、セイが、『もしかしてナツキのことが好きなのか?それならからかったりするより、優しくしてあげた方がいいぞ。』って言い返したら、相手の男子は顔を真っ赤にして、その場からいなくなったんだ。それからはその男子、私をからかうことが少なくなったんだ。っていうのが、私がセイのことを意識し始めたきっかけかな。セイはそのこと覚えてる?」
「う、うん。まあ、何となく覚えてるけど……そっか。それがきっかけか。」
ホントはナツキが話したことは全く覚えていなかった。しかし、覚えてないと答えるのがナツキに対して失礼過ぎる気がして、何となく覚えてると答えた。
ナツキの話を聞いていて、自分のことながら小学4年生の時の俺はずいぶんと怖いもの知らずだな。と感じた。
「それから小学6年生の時に、私ってあまり女子っぽくなかったから、女子よりも男子と遊ぶことが多かったんだけど、それをあまり面白く思わない一部の女子たちから無視され始めたんだよね。」
もう意識し始めた理由は答えてくれたはずなのにナツキがまた話し始めたので、何でだろう?と思ったが、俺はナツキの話を黙って聞いた。
「そのことをセイに話したら、『女子全員じゃないんだろう?だったら気にするなよ!きっとその女子たちはナツキが羨ましいんだろうな。それでも気になるなら、ナツキは運動神経もいいし背も高いから、中学になったらバスケかバレー部に入ればいいよ!そこで活躍すればそいつらも態度を変えるよ!ただし、今以上に無視する女子が増えたら俺に言えよ!その時は何とかするからさ!』って言ってくれたんだ。それからはセイの言葉を信じて行動したら全部うまく行ったんだ。そこからかなぁ。セイのことを好きになったのは。」
「そうなんだ。それは何となく覚えてるよ。」
「それは?」
「いや、それも。それも。」
小学6年生にしてはかなり危ういアドバイスをするな。と過去の自分を怖く感じていた。たぶんいじめられていたキャラクターが何かのきっかけで人気者になる漫画でも読んでそんなアドバイスをしたのだろうけど、漫画はある程度ご都合主義なところがあるものだから、小学6年生の俺はうまく行かなかったらどうするつもりだったのだろう?ともう答えの分からない疑問を抱いた。
「どうだった?私がセイを好きなった理由を聞いてどう思った?」
「うーん。意外とたいした理由じゃないんだなって思った。」
ナツキの話を聞くと、人を好きになるきっかけなんて、意外とたいしたきっかけではないのかもしれないと思い始めた。俺がカジワラを好きなった理由もたいした理由ではないから覚えてないのかもしれないな。
「えー?それだけ?」
ナツキは明らかに不服そうだったが、俺の感想は本当に口に出した通りだった。
「それじゃあ、セイがカジワラさんのことを好きなった理由を教えてよ!」
「それが思い出せないんだ。だから、もしかしたら思い出すきっかけになるかな?って思ってナツキに俺を好きなった理由を聞いたんだよ。」
「えー?ホントに?ただ答えたくないだけじゃないの?」
「いや、ホントだって!」
ナツキはカフェにいる間だけでなく、カフェを出て家に帰宅する間も、俺のことをずっと訝しんでいた。